胸の奥にしまった想い
「で?ついでに話したいこととかあります?」
リンゴを取ろうと伸ばした手が、その言葉に止まった。
驚いてエマを見れば、エマの目が「とりあえずリンゴ、とってください」と訴えていて、リンゴを手に取る。皿を置き、エマ自身もひとつ手にとる。
「これは……ウサギ、か?」
「はい。風邪とか、看病のときにはウサちゃんリンゴが我が家の定番なので」
作ってくれたのはいつもパパ。
ママは刃物をあまり持たせちゃいけない人種なので。
しゃり、と口にすれば、甘酸っぱく瑞々しかった。
自然と頬を緩ますエマをレオンが上目遣いで見てくる。
「その……急に、どうして……?」
「別に。ただレオンさまと2人っきりとかレアですし、いい機会かなって思って。身近すぎる相手だと言いにくかったり、ミレーヌちゃんみたいな美少女相手だと恰好わるい弱音を吐き出しにくいとかあるじゃないですか。その点、私はちょうどいいかなって。私もさんざんアレな部分晒してますし。あとクルトは……なんか複雑な感情抱いてそうですし」
「……!?」
驚きに目を見開くレオンにお構いなしに、2つ目のウサちゃんリンゴにかじりつく。
「あ、変色しちゃうからレオンさまもじゃんじゃん食べてくださいね。塩水につけてないんで」
素直に手は伸ばすものの、正直レオンはそれどころではなかった。
「気付いて、たのか?」
「まぁなんとなく?前世では社会人もしてましたし、なにげに社会経験豊富なので」
そのほうが話しやすいかと思って、ちゃかしながらエマは笑った。
別に無理に話させようという気もないが。
「話したくなければ話さなくていいです。けど話した方が楽なら適当に聞きますよ」
「適当なのか」
「真剣に重い表情で向き合われても話しにくいでしょ?」
それもそうだな、と笑いながらレオンはリンゴを平らげた。
「じゃあ聞いてもらおうかな」
シーツのうえで指を組んだりしながら迷っていたレオンがポツリと呟いた。
表情はどこか沈んで、視線はエマではなく自らの手もとへと落とされている。
まるで懺悔するように重々しく唇が開かれた。
「私は……身勝手な人間だ」
そうしてレオンは語りはじめた。
「王家では王位継承権の低い子どもに魔法や剣を学ばせる。もちろん、他の子らとてそれらは身につける。違うのは、教養や自衛の手段としてではなく、エアリス神からの神託があったときに備えてということだ」
「以前からずっと王家はそうしていたのですか?クラルスの花の紋様がなくとも?」
それは以前から小さな疑問だった。
おとぎ話では勇者とその仲間たちにはクラルスの花の紋様があった。
だけどレオンにもハリソンにもそれはない。
「かなり昔には王家の者にもクラルスの花の紋様が浮かんだこともある。だがそうだな、クラルスの花の紋様を持つ者が現れずとも基本的には同行者を出していた。王家ではなく直系の公爵家からの時もあったが……」
「かなりの危険が伴うのに、ですか?」
「それは君たちだって同じだろう。命を下す我々が知らないふりはできない。第一、実際問題として身分を持つ人間が居ないと旅は困難だ」
それはごもっとも、と素直に納得。
お金やら地位やらでごり押ししないといけない問題だってこれまでも遭遇してきた。
そうはいっても、国のトップの一員を出すのはなかなか大変なことだろう。
「私にクラルスの花の紋様は現れなかった」
ぎゅっと握りしめられた拳が小さく震えている。
「それでも……私が生きている時代に神託が下された。本来なら神託がくだされる事態など起きない方がいい。それなのに…………。私はっ、あの日たしかに歓喜した。兄上のように王を継ぐ器も、政治に長けた優秀な頭脳も持たない私は……自分の存在が認められることを喜んだんだ」
それは正しく懺悔。
レオンが心の奥底に封じ込めた悔恨の想いだった。




