レオン王子の負傷
いくつもの炎の矢が放たれた。
それだけならなんなく躱せる攻撃だった。
だけど間が悪く、目の前の魔物の相手に手いっぱいで……。
後方から放たれたそれに反応が遅れた。
「ミレーヌ!」
いち早く気付いたクルトが叫び、ミレーヌが振り返ったときには炎の矢はもうすぐ目の前だった。
飛びのくより早く肩を押され、目の前で金髪が揺れる。
「……ぐっ!」
「レオン!」
「レオン様!」
敵を斬り捨てながらクルトとハリソンが駆け寄る。
エマもフライパンをブンブンと振りまわしつつ、急いでレオンたちの元へ。
襲い掛かってこようとする魔物は、ソルトが牽制するように炎を吐いて遠ざけてくれている。
「治療するから、魔物をお願い!」
肩から矢を生やし、膝をついたレオンの前に座り込み叫んだ。
「ミレーヌちゃん、火を消して。あと傷口を冷やして!」
「え……あ、はいっ!」
自分を庇って負傷してしまったレオンに半ば放心状態だったミレーヌは、エマの言葉に慌てて水魔法を操る。
矢を抜き、まずは傷口にポーションをぶっかける。
確実に出血が押さえられ、ある程度傷がふさがった傷口にエマは両手をかざした。
癒しの力を発動すれば、淡い光が傷口を包んだ。
それからある程度の治療を試み、急いで町を目指した。
肩を貫通した傷は思いのほかひどく、ポーションとエマの癒しの力だけでは完治とは至らなかった。
傷が悪化しては大変なので、安静のために3日ほど町に滞在することが決定。
コンコン、とノックをすればハリソンがドアまで出向いて開けてくれた。
別に「どうぞ」と入室許可くれれば自分で開けるんだけどな、と思いつつ相変わらずの紳士対応に感心しながら入室する。
ベッドの上には上半身に包帯を巻き、身を起こしたレオンの姿があった。
クルトは居ない。宿の裏で鍛錬でもしているんだろうか?
「宿のおかみさんがリンゴくれたんで持ってきました」
手の中には真っ赤でツヤツヤのおいしそうなリンゴ。
「こちらへどうぞ。私は少し席をはずします」
ベッドの側に椅子を置いてくれたハリソンは水桶と水差しを持って部屋をでた。
もしかしたら気をつかったのかもしれない。
心なしか気落ちしているレオンをちらりと見て、エマは用意された椅子へと座る。
果物ナイフを取り出し、するすると刃を滑らせた。
「迷惑をかけてしまって、すまない」
小さく頭を下げられ、手を止める。
「迷惑?」
「この怪我のせいで……足止めをさせることになったから……」
じっと目を見て首を傾げれば、言い訳するように口ごもるレオンの姿にエマは微かに目を細めた。
「別にレオンさまはなにも悪くないでしょう?ミレーヌちゃんを庇ってくれたんですし」
「それは……そうだが、でも私がもっとうまく対処していれば……」
「レオンさまの行動は勇敢でした。誰も迷惑なんて思ってませんよ」
「だが……」
じれったくなってきて、エマはナイフを皿に置いた。
「逆にお聞きしても?あなたは私たちに不平不満を抱いてるんですか?」
「は?」
碧眼が真ん丸に見開かれた。
ぱちぱち、と瞬きする姿を「男のくせにまつげ長っいなー。さすが異世界の王子。テンプレ通り美形だわ」と無遠慮に眺める。
なお、怪我のせいもあって上着を肩からはおり、肌も多少露出している姿だがそんなことで頬を染めるようなエマではない。
「きゃ!」と恥じらうような感性は持ち合わせていないのです。
「なぜ、私がエマたちに……?」
「だって“もっとうまく”対処できなかったのは私たちも同じでしょう?攻撃を喰らいそうになったミレーヌちゃんに怒ってます?この勇者、仲間を守れよってクルトに憤ってます?このエセ聖女、なんでこんな傷も完治できないんだ!って私を罵りますか?」
「まさかっそんな!」
ブンッ!と首を振るレオンにエマは小さく笑った。
急に動いたことで痛みに顔をしかめたレオンの背にクッションがわりの枕を追加し、再びナイフを手に取る。
「私に至ってはお小言もらっても「おっしゃる通りです」って返すしかないんですけどね。もうちょっと精進します」
「そんなことはない。エマのおかげでだいぶ良くなった」
「ありがとうございます。じゃ、この話はこれでおしまいってことで」
切り分けたリンゴを皿に盛って、「はいどうぞ」と差し出した。
「で?ついでに話したいこととかあります?」




