届いてたらきっと抗議しにくる
胸元でドラゴン(小)を抱きしめつつ、山道を歩く。
途中で一度魔物との戦闘があったのだが…………ドラゴンさん、大活躍!
「大幅戦力UP……!」
心なしかドヤ顔のエマ。
火を噴いたり、魔法を放ったりと活躍しているのはドラゴンさんであって、エマの戦力がUPされたわけではありませんが……。
いい子!とばかりに高速なでなでしつつ、可愛くて強いとかマジ最高!とご機嫌で抱っこなのです。
「そういえば、この子って名前とかつけても平気なんですか?」
アニメとかだとよくあるよね、と思いつつ念のためハリソンに尋ねる。
「問題ないと思いますよ。プライドが高く嫌がる個体もいますが……すごく喜んでますね」
ものすごく喜んでいる。
きゅっっきゅう!とお目めキラキラして期待いっぱいの視線を向けられております。
名付けに問題はないようだ。
いい名前がないかなー?と頭を捻らせる。
「……ソルト」
きゅっ?
「ソルトとかどうかな?」
思いついた名前を告げながら顔を覗き込めば、きゅっきゅぅ!!と羽をパタパタさせて喜びをあらわにしたドラゴンさん、改めソルトは嬉しそうにエマの首元に擦り寄ってくる。
「可愛い名前ですね」
「でしょ!響きがパッと頭に浮かんだんだよね」
「意味はないんかい」
「響きだって大事です!それに人間は塩がないと生きていけないんだよ?」
完全なる後付け理由だった。
宿の部屋。
そう厚くない壁からは隣の部屋のはしゃぐ声が僅かに漏れてくる。
きっとソルトを構ってじゃれてでもいるのだろう。
ティーパックを入れたカップをハリソンが3つ置き、礼をいいつつレオンとクルトが手を伸ばす。
夕食の時間まであと少し、なにをするでもない半端な時間をつぶすべく雑談となったのは自然な流れ。
「しっかし、本当に“さすがエマ”だよなぁー」
行儀悪く着替えもせずにベッドに腰かけたまま、カップ片手にクルトが呟く。
そんなクルトに言葉にレオンもハリソンも苦笑いせずにはいられない。
ちなみにこちらはきっちり身支度を整え、椅子に腰かけている。
人目を気にしているわけでもないのに、姿勢すらいいその姿は育ちの良さがにじみでていた。
「エマには驚かされてばっかりだな」
「ドラゴンを従魔にするなど……はじめて聞きました」
やっぱりか、と納得しつつクルトもレオンもカップに口をつけた。
「普通ならまず従えられると思いませんからね。きっと試した者もほぼいないでしょう」
「力も強大なうえに知能も高い種だ。失敗したときのリスクを思えば気軽に試せることでもない」
そう、普通なら。
「エマはてりやきバーガーで釣ったけどな」
「「…………」」
どこまで規格外なんだ。
3人の想いが一致した。
実際、クルトはエマが餌付けをしはじめたときドン引きした。
ムリだろ?!と思ったのだが……あっさり契約を結んでしまったときは開いた口がふさがらなかったものだ。
「マジでびっくりしたわ。まぁ、ソルトの性格が人懐っこいってのもあったんだろうけど……それにしても規格外すぎんだろ。マジで行動が読めねぇ」
「私としては、てりやきバーガーを食べられてキレたクルトの行動も大概だと思う」
「同感です」
「はっ?なんで俺まで……」
矛先が思わぬ方向へ向いて、反論しつつグイっとカップの中身を飲み干した。
空いたカップをそのままベッドのうえにのせ、頭の後ろに手を組み後ろに倒れる。ぽすり、と体を受け止める感触に、目を閉じるとそのまま寝そうで小さく頭を振った。
「ぶっちゃけ「世界を救う」とかどーすりゃいいのかいまいち実感ねぇけどさ。そん時はエマがキーパーソンな気がする。なんとなくだけど」
戦闘力や能力面で見れば勇者であるクルトや、魔法使いのミレーヌの方が圧倒的に高い。
だけどそう思わずにはいられなかった。
エアリス神があの少女を選んだのはきっと理由があったのだ、と。
残りの2人も同意見なのか頷く気配を感じた。
「今後も私たちの予想もつかないことをやってくれそうだ」
「せめて心の準備はさせて欲しいですね」
「そこはほら、エマだし」
ししし、と笑う声と会話は、幸いなことに隣室に届いてはいないようだった。




