黙秘権を要求します!
「へ?」
一歩前に踏み出せば、すかっと空振りしてキョロキョロと辺りを見渡す。
周囲には驚愕の表情を浮かべてこちらを眺める神官さまと騎士さまたち。
エアリスの胸ぐらを今まさに掴もうとしたエマは気づけば神殿へと戻っていた。
わけもわからずキョトンとしていると、胸の前で腕を組んだ神官さまたちがひざまずいて祈りを捧げだしたのにギョッとする。
「あの……これはいったい?」
助けを求めて騎士さまを見れば、目をぱしぱしと瞬かせたあとでおずおずと説明してくれた。
「周囲が光に包まれた瞬間、あなたの姿がこつ然と消えたのです。そして再び光とともに現れた。こちらこそあなたに聞きたいです。いったいなにが?」
「気づけば知らない空間にいて、エアリス神とお話を……」
「エアリス神様と……?!」
すごい勢いで神官さまたちが食いついてきた。
祈りのポーズのまま詰め寄られるのがすっごい怖い。
その後、神官さまたちに拝まれたり、質問攻めにされながら、騎士さまに連れられ再び馬車に。このままお城に連れて行かれるっぽいです。
切実におうちに帰りたい……。
諦めモードでついたお城。
一生足を踏み入れることなんてないと思っていたお城はさすがの煌びやかさだった。
だけどそれに感動する間もなく、さくさくと玉座の間へと連行される。
大きな広間には豪奢な椅子に腰かけた王様と王妃様。
そして王子様らしき男の人たちと、ちょっとぽっちゃりしたお姫様(?)に他にも重鎮らしき貴族たちが数名いた。
王の前には毛色の違う二人の男女。
きっとこの二人が自分と同じく選ばれた被害者かと手の甲を見れば、予想通りクラルスの花の紋様がそこにはあった。
「そなたが最後の一人か。城への急な召喚にさぞや驚いたことだろう」
よく通る声で王様が口を開いた。
威厳はあれど気づかいの見える様子に、横暴系の王様じゃないことにエマはほっと息をついた。
当然のように「魔王を倒してこい」とか開口一番のたまうヤツなら最悪だった。
社長のお話し……ならぬ王様のお話を聞き、専務のお話し……ならぬ宰相の話を聞く。
どちらも平社員なら熱心に耳を傾けるフリをしなければならないとこも、実質拒否権がないとこも同じだ。
世界を救ってほしい、という壮大すぎて全然プランが浮かばない課題を課せられ、勘弁してよと思いつつエマは無の心境だった。
そして自己紹介。
年のころは18歳ぐらいだろうか?爽やかイケメンの青年がニカッと笑いながら片手を差し出してきた。
「俺はクルト。職業は勇者、剣聖の称号を与えられた剣の使い手だ。これからよろしくな」
爽やかさ100%みたいな笑みを浮かべるクルトの手を、はぁとあいまいに頷きつつエマはとる。
がっしりとした腕は力強く、腰に差した剣はなにやら神々しい。
ザ・勇者!って感じがすごくする。
続いて控えめな笑みを浮かべて進み出たのはエマより少し年上の可愛らしい美少女。
黒髪に黒いとんがり帽を被った少女はまさに魔女っ娘。
「まさかの萌えっ子」
唸るようにエマは呟いた。
それくらい可愛い、どことなく前世のアニメキャラを連想させる美少女だった。
「えっ?えっ?」とエマの反応に慌てる様子は純粋そのもの。
前世の経験からぶりっ子に苦手意識を持つエマは心底安堵した。
「魔法使いのミレーヌです。得意な魔法は水魔法です。女の子がいっしょで安心しました。至らないところもあると思いますがよろしくお願いしますね」
はにかみつつぺこりと頭をさげるミレーヌに「こちらこそよろしく」と笑顔で返す。
だけどその笑顔はやがて引きつり、固まった。
無言で向けられる周囲の視線。
これはあれですよね?
私の番の自己紹介待ちですよね?
ダラダラとエマの背を冷や汗が伝う。
この場で言うの?
自分の職業と能力を言えと??
引きつった笑顔のまま、エマはなんとかごまかせないだろうかと無駄な知恵を絞るのだった。