グッズ化できそうな可愛さだった
桃太郎とは?と不思議がるレオンたちに、前世の世界での昔話です、とあらすじを説明する。
きびだんごのくだりより、なにより気になることがあったようだ。
「その……桃を割ったとき、桃太郎は平気だったのか……?」
やっぱ、そこ気になりますよね。
おんぎゃー!と同時に真っ二つだったんじゃないか?って誰もが思わずにいられない。
かぐや姫でも同じ疑問が生まれます。
「しかし……まさかドラゴンを従魔にするとは……さすがはエマだな」
「あれー?確実に褒め言葉じゃない気がする。コイツ予想外のことばっかしやがんなニュアンスですよね?」
「エマ嬢、事の重大さをわかっておられますか?」
「で、でもでもでもでもっ……折角従魔にするなら強くて賢い子がいいじゃないですか!その点、この子は強くて賢いいい子です。しかも可愛い!」
きゅっきゅ~!
エマの言葉に胸を張るようにドラゴンが鳴いた。
「……にしても、コイツ。マジで俺らの言葉わかってるっぽいな」
「一応確認してみる?」
どうやって?と視線を向けてくるみんなの前でエマは魔法の鞄を漁った。2本の旗を取り出し、爪で引っ掛けるようにしてドラゴンに持たせる。
「赤上げて」
さっと赤い旗が上げられた。
「赤下げて、白上げて」
赤い旗が下げられ、白い旗が上げられる。
「赤上げないで、白下げない」
スピードアップして続ければ、瞬間的に赤を上げて白を下げてしまったドラゴンが「フェイント?!」という表情でエマを見る。
「ふっ……まだまだね」
きゅっきゅぅ!
抗議の鳴き声をあげ、再戦を挑んでくるドラゴンと旗揚げゲームをしばし。
「やっぱちゃんとわかってるし、色とかも認識してるっぽいですね」
「確認方法が独特すぎじゃね?」
「だってノリで買った旗だけど使い道がなかったんだもん。いまこそ使うべき!って天命だった」
「天命ってエアリス神?絶対ぇ言ってねぇと思う」
「まぁまぁ、本当に言葉がわかってるかって確認はできたわけだし」
そんな漫才みたいなやりとりをクルトとしていると、レオンが難しい顔つきで腕を組んだ。
「強くて賢い従魔はいい。戦力としても申し分ないだろう。だがドラゴンはやっぱりマズいだろう」
「えっ、種族的に従えちゃいけない決まりとかあるんですか?」
「そうではなく、レオン様が仰りたいのは連れ歩けないだろうということの方ですよ」
なぜに?と首を傾げるエマにレオンが言った。
「このような山道ならまだいい。エマは町や村にドラゴンを連れて歩く気か?」
「……あ」
全然考えていなかったことを言われ、口から間抜けな声が漏れた。
レオンの言うとおりだ。
ドラゴンなんて連れてたら絶対に大騒ぎになる……。
「えっと、でも騎士団には大型の魔獣を従魔にしてる方とか居るんですよね?」
それでも諦めきれず、ハリソンへと詰め寄った。
「基本的には行動を常に共にしているのは小型な従魔ですね。中型、大型の場合は普段は騎士団の従舎で世話をしているか、山や森などで自由行動をしていて必要な時に呼び出す場合が多いです」
「じゃ、じゃあ普段は別行動?」
すっかり“ウチの子!”認識が沸いてしまったエマはしゅんとした。
きゅ!きゅ!
当のドラゴンもいやいやと首を振る。
できることならエマだっていっしょに居たい。
最初ははじめて目にするドラゴンという存在にビビったけど、いまじゃその動作や表情も可愛くて仕方がない。だけど主人である自分がしっかり言い聞かせなきゃ、と心を鬼にしてきゅっと口を引き結ぶ。
「ごめんね?あなたはドラゴンとしては小振りかもしれないけど、人間はきっとびっくりしちゃうの。だから……」
説得の言葉は途中で止まった。
「へ?」とポカンとした声が出る。
エマたちの目の前でドラゴンがどんどん縮みはじめたのだ。
みるみると縮み、最終的に両手で抱えられるぐらいの大きさになったドラゴンはエマの目の前でパタパタと羽を動かす。
きゅっ、きゅゅぅぅ~!
これでいいでしょ?とばかりにパタパタ、パタパタするドラゴン(小)。
「か、可愛いっ!なんかありそう、こんなぬいぐるみ!」
「可愛いです!!」
女子2人の歓声があがった。
黒っぽい体に、つやつやした藍色のお目め。お腹の部分は白で、小っちゃな羽と尻尾もラブリーなドラゴン(小)の可愛さに大はしゃぎ。
これなら絶対、怖がられない……!
ぬいぐるみを抱くようにレオンに向けてぎゅっと抱きしめて言った。
「これなら連れ歩いても問題ないですよね?」
……怖がられはしなくても、なんの生物?って疑問は抱かれそうだけど。
ふと沸いたそんな想いは綺麗に笑顔で覆い隠しました。




