モン〇ンじゃなくてポケ〇ン系
喉を鳴らして威嚇してくる目の前の存在。
それはこの世界ではじめて目の当たりにする、だけどファンタジーでは定番中の定番と言っても過言ではない存在ではなかろうか。
すなわち、ドラゴン。
「え……ちょっとこれ、ヤバくない?」
「……だな」
目の前のドラゴンさんを刺激しないよう、小声でコソコソと言葉を交わす。
救いは「一狩りいこうぜ!」なモン〇ン的なガチのじゃなくて、ポケ〇ンキャラに仲間入りできそうな可愛げのあるフォルムなこと。
大きさも人間の背丈ぐらいとやや小ぶり。
……とはいえ、ドラゴンの実力など未知数なのです。
勇者さまなら大丈夫なのだろうか?とクルトを窺うも、その勇者さまも自信満々とはいかないようだ。
怖気づいてはいないものの、その表情はいつもの軽快な表情とは程遠い。
そもそもな話、クルトだけならまだしもエマを背に庇いつつというのが結構なハンデだ。
私、超絶足手まといですね、ごめんなさい。
心の中でエマはそう謝罪した。
切実にレオンたちの助けがほしい。
「そっとあっちに行けないかな?」
できるなら引き返したいが、みんなと合流するにはドラゴンさんの方向へ行くしかない。
ちょっと距離を置きつつ、そっと試しに足を踏み出せば威嚇された。ひぃ。
「なんとか気を引きつけて、その間に一気に走るか……。エマは振り返らず走れ」
耳元に落とされた微かな呟きに「でもどうやって?」と問いかけ、ふと気づく。
注意を向けるのに最適なものを持っていることを想い出し、魔法の鞄をゴソゴソと漁った。
取り出したのは一見カラフルなボール。
だけどただのボールではない。
けたたましい音が鳴りだし、ピッカピッカ光っては動くのだ。
以前立ち寄った町のおもちゃ屋さんで買ったもので、クルトたちを驚かせるイタズラに使ったこともある。
目だけで合図を交わし、クルトが剣を手にドラゴンへと走り出した。
鋭い爪が剣を弾く。
さらに何度か斬りつけ、ドラゴンとクルトが進行方向から移動したところでエマはボールを持った手を振り上げた。
ドラゴンの脇に落ちたボールが激しく鳴り、点滅しだす。
狙い通りにドラゴンの意識がそちらに向いたところでエマとクルトはそれぞれ走り出した。
だが、大きな木の脇に差し掛かったところで攻撃が飛んできた。
直撃こそしなかったものの、体勢を崩したエマは転ぶ。
「きゃ!」
「エマ!!」
羽ばたきが聞こえ、同時に重い音が響いた。
なんとか身を起こしたエマが目にしたのは、木に叩きつけられたクルトの姿と……自らを見下ろすドラゴンの姿。
とてもじゃないがフライパンで対峙できそうもない相手に、エマの体が小刻みに震える。
苦し気に呻くクルトを見て、そして斜め下へと視線を走らす。
ドラゴンの口が大きく開かれた。
ぎゅっっと目をつぶり、エマは庇うように両手を広げた。
「……あれ?」
数秒たっても覚悟していた痛みも衝撃もこず、恐る恐る目を開ける。
目の前にはドラゴン。
だけどそのドラゴンは先ほどまでの威嚇していた姿と違い、どこか不思議そうにエマを見下ろしていた。
「食べない……の?」
問えば意外と可愛らしい動作でこてんと首が傾げられた。
鋭い爪が生えた腕を持ち上げられ、再び目をつぶる。
だけどやっぱり痛みも衝撃もこない。
目を開ければ、身を引きずってエマの元に辿り着いたクルトに背に庇われた。だがクルトもドラゴンの意図がわからず、警戒したまま次の行動に移れずにいる。
宙に伸ばされた爪。
それはまるで指をさしているようだ。
その先を辿れば、2羽の鳥。
傷ついた親鳥に、ドラゴンや人間が居るというのに逃げようともせずピィピィと親鳥から離れないヒナの姿があった。
ついさっきエマが両手を広げて庇おうとした存在だ。
「この子たちを食べる気?」
眉をしかめて口にすれば、ふるふると首を横に振られた。
え……?っていうか、言葉、通じてない?
再びクルトと顔を見渡す。
どちらともなく、こくりとひとつ頷いた。
「……俺たちの言葉がわかるのか?」
こくり。
「なんで攻撃してこないの?」
こてり。
そうしてふと思いつく。
最初にドラゴンが立っていたその位置。
エマが走り抜けようとして攻撃されたその位置。
「もしかして…………あなたはこの子たちを守ろうとしてた……?」
こっくり、と首が縦に振られた。




