従魔というもの
旅をはじめた頃も戦力として力不足は感じてはいた。
なにせ最初はフライパン打撃でスライムしか倒せなかったし……。
その頃に比べれば攻撃手段は格段に増えてはいるのだ。
普通の冒険者としては充分通用するし、そこそこの地位を目指せるぐらいにはステータスだって上昇している。
けど、目的は 世界を救う こと。
向かう先は 魔族の長たる魔王 の元。
どう考えても目指すものが壮大すぎる。
「そもそも同じ転生組2人に対して私だけ扱い可笑しい!」
転生チートが“マヨビーム”な時点で絶対にオカシイ!
先割れスプーンでスープのジャガイモをブスリ!としつつ「だってマヨビームだよ?!」と嘆けば、キリッとした表情でクルトが口を開いた。
「正直、神チートだと思う」
「黙れ、マヨラー」
ムダにイケメン勇者仕様なのがマジ腹立つ。
思わず絶対零度の声がでた。
「いやマジ。はじめて能力聞いたとき、マジで女神降臨したと思ったしっ!」
「マヨラーにとって神でも世界を救う役には立たないから」
「立つって!むしろ俺は救われた!!マヨがあれば百人力!!」
いつもみたいにじゃれ合うような言い合いがはじまる。
なんだかんだで(食事面で)大活躍なマヨビーム。
大変お世話になってるし、きっとある日急にマヨビームがだせなくなったら軽く絶望するぐらい大切な能力になりつつある。
…………が、それはあくまで食生活に関して。
世界を救う使命を帯びた勇者パーティの一員の能力としてはどうなの?
ちなみにエアリスを脅して強奪(?)した別の能力、癒しの力はあんまり成長していない。
元の職業が聖女のくせに適性がないのか、レベルUPは極ゆっくりだ。
簡単な傷ぐらいは癒せるようになったけど……ポーションでイケんじゃね?程度です。
ぐぬぬ……。
「別に能力なんて個人差あるんだし、戦闘面は俺らを頼ってくれりゃーいいじゃん。俺はエマの食事のおかげでがんばれるよ?」
あぐり、と大きな口で作り置きのシーチキンおにぎりにかぶりつきながら、なんてことなさそうにクルトが言った。
「その通りだ。元々無理を押し付けたのは私たちで、君たちには本当に感謝している。エマは足手まといなんかじゃないし、どうか気に病まないでほしい」
「私にとってもエマ嬢のおいしい食事は活力の1つです。それに町や村での交渉など色々な面で助けられてもいますから」
穏やかに励ましてくれるレオンに、気遣いに満ちたフォーローをくれるハリソン。
みんなの優しさにほろりときたエマの手をミレーヌが握った。
「私もエマさんが居てくれて良かったです。エマさんが居るだけでとっても心強いですもの」
「ミレーヌちゃん……」
握られた手をぎゅっと握り返す。
感動に浸っているところで微妙な音楽とキラキラ発生。
『はいはーい!お困りのエマに提案でーす』
「おいコラ、元凶」
『ごめんなさい。調子に乗りました』
軽ーいノリで電波通信してきたのは神ことエアリス。
感動に水を差してきたエアリスにドスの効いた声で返せば、速攻謝罪してくる神(一応)。
相変わらず省エネ対応ではエマにしか声は聞こえないようで、みんなが口を閉ざすなかエアリスが用件を切り出した。
『そ、それはそうと提案なんだけどね。従魔を持ったらどうかな?』
「そんなことできるの?」
『適正も必要になるから、できるかどうかはわかんないけど」
「わかんないんかーい!」
思わずエマはツッコんだ。
「神なんだからそこはどうにかしなさいよ。役に立て。たまには」
『たまにとか酷い……。純粋に相性とかもあるし確約はできないけど、エマならできそうな気もする。運もの凄いし』
「運だより……」
電波交信そこで途切れた。
なんだったんだ?と注目してくるみんなにエマは口を開く。
「なんか、従魔を持ったらどうか?って提案でした」
「従魔か。たしかにいいかもしれない。さすがはエアリス神」
あごに手を当てて頷いたレオンにこてりと首を傾げる。
「そもそも従魔ってどんななんです?」
その質問にはレオンに目を向けられたハリソンが答えた。騎士団の中には従魔を持つ者もいるらしい。
「従魔とする魔物の種類は様々です。魔力を与え、双方の同意のもとに成り立ちます。力で従える者もいれば、絆を結ぶ者もいますね。戦力としても扱えますし、大型の獣ならその背に乗ることなどもできますよ」
「おおっ、便利!」
「エマ嬢は適正があるのでしょうか?」
「わかんないけど私なら運でなんとかなるんじゃ……って言ってました」
「「「「運……」」」」
4人が微妙な顔をした。ですよね。




