ブチ切れ遊ばす
天国から地獄。
人さらいたちはつい数十分前までご機嫌で酒を煽っていた。
獣人のこどもは高値がつく。
中でも猫、犬、うさぎなんかは人気が高く買い手も多い。
「あのガキ一匹で大金持ちだ」
ぎゃははははと下品な笑い声をあげながら酒瓶片手に祝杯をあげていた……はずだった。
いくつかある拠点のひとつ。
出荷前の“商品”たちを捕らえている小屋でバカ騒ぎをしているところに妙な連中が乗り込んできた。
武器を手に警戒しつつも、このときはまだ男たちには余裕があった。
剣を持った男は要注意だが、人数は自分たちが勝っている。さらには美しい少女が2人。
いかにもか弱そうな少女達を人質にとれば…………。
上玉の獲物が自ら飛び込んできた、とばかりにニヤニヤと笑みを浮かべる人さらいたちは気付いていなかった。
少女たちが全然か弱くなんかないことを。
そして、
自分たちの所業にたいそうブチ切れ遊ばしておられることを。
フライパンで物理的ダメージを与え、逃げまどう男たちに向けエマは両手を差し出した。
「怒りのハバネロソース!!」
悲鳴をあげるその口へ向け、マヨビームならぬハバネロソースを噴射。
「ぎ、ぎやあぁああ!!」
「あががががっ!!」
喉を押さえたりむせこんだりしながら苦しむ人さらいたち。
キレてるのでタバスコよりさらに刺激の強いハバネロソースにてお送りしております。
とっても辛みが強くて危険なので良い子は人に向けちゃダメですよ☆
もちろんタバスコでもダメ!
「あらあら、苦しそうですわね。お水をどうぞ?」
ふわりと浮いた水球が人さらいたちの顔面を覆った。
ゴボゴボと水を飲みこみながら顔を覆う水の塊から逃れようとジタバタと暴れ、やがてその力が弱まっていく。
白目を剥く直前でミレーヌがパチンと指を弾けば水球は水へと戻った。
「怖っ……」
「恐ろしいな……」
言葉は違えど同じ意味の呟きをクルトとレオンが漏らす。
なんというか……一緒に乗り込みはしたけど完全に出番がなかった。
完全にエマとミレーヌだけで戦力は足りていたし、下手に制止しようものならその怒りがこっちにまで向きそうで隅っこで見てた男性陣です。
「女性は怒らせてはいけないといいますが……身に刻みます」
ハリソンの言葉にうんうんと深く頷く。
酒瓶が散らかった部屋の奥にさらにドアがあった。
ドアを開けば手足を縛られ猿ぐつわをされた少女たちの姿があった。
涙を浮かべて後ずさる彼女たちに「怖がらないで」「助けにきたの」と声をかける。
被害者たちを宥めつつ、クルトたちは思った。
部屋が別で良かった、と。
さっきのエマとミレーヌを見てたら確実に怯えられていた。
だって怖かった。
ちょっとどころか、かなり、すっごく、怖かった。
エマと同じぐらいの人間の少女が3人、そしてこげ茶の髪に同色の猫耳の男の子が1人いた。
「カイくんかな?」
口から猿ぐつわを外しながら問いかければ、大きな瞳がパチパチと瞬いた。
「どうして……ぼくのなまえ……?」
「村のみんなが探してくれたのよ」
「ミシャちゃんとミケルくんもとっても心配してますわ」
「……ミシャ、ミケル…………ふぇっ……」
安心したのか肩を震わせて泣き出したカイを必死に宥める。
ぎゅっとしたり、頭をなでなでしているのは泣き止ませるためで……欲望に負けたわけじゃないです……たぶん。
誘拐された状況を聞き出したり、被害者たちを家に帰すための手続きには本職騎士のハリソンが大活躍してくれて女の子たちは迅速に家に帰れた。
種類の違うイケメンたちに2人ほど女の子の瞳が♡になってて、もう少しいっしょに居たそうでもあったり。
「カイッ!!」
「……カイ」
ヴェルニーニへ戻れば無事なカイの姿を見つけたミシャとミケルが泣きながら駆け寄ってきてカイに抱きつく。
その勢いにまとめて転びそうになるこどもたちを間一髪クルトが支える。
「おねーちゃん、おにーちゃんありがとう!」
「「ありがとう!」」
村人たちからもかなり感謝され、その日は盛大な歓迎の宴が催されたのでした。




