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あのときの自分の発言を心底悔いている

 

 少女相手にビビり倒す威厳もへったくれもない神。

 そんなエアリスに「とりあえず座らない?」と言われ、ふわふわの雲の上に座り、出されたお茶を口にする。


「で?」


「その……ね?君が最後に望んだ願いが反映されたっぽいんだよね」


 ごまかすようにあははと髪をかくエアリスの声は尻すぼみに小さくなっていく。


 最後に望んだ願い……。


 前回この空間を訪れた時、希望のチートは聞かれなかった。


 ……と、なると。

 最後の願いというのは生前のことか。


 こくりとお茶を飲み下し、自分の最後を思い出す。



 恵麻はギリギリ30手前のいわゆるアラサー。

 独身・子なしで大手企業でバリバリ働くキャリアウーマンだった。


 ただ、会社自体はブラックでなかったのだが……新プロジェクトのために移動した先の職場環境が最悪だった。

 女好きの上司の誘いを何度も断ったことが原因だ。

 しかも新入社員のぶりっ子が仕事は出来ないけど男受け抜群な役立たずで、その子と上司にいいように仕事を押し付けられた。

 反撃するなり、どこぞへ訴えればよかったものの……あの時はその時間さえ惜しかった。

 結果的に自分がやった方が早いからと無理に無理を重ねて、気付けばぽっくっり。


 最後はたしか……深夜に帰宅し、部屋で缶チューハイ片手にカップ焼きそばを食べていたはず。


 自分で料理をする気力もなく、毎日カップ麺のお世話になる日々だった。

 疲れてたからか味の濃いものが無性に食べたくて、ソースやマヨネーズを追加投入しようとしたけど冷蔵庫の中にちょうど切れてて…………。


「ふっ……マヨビーム!って出せたらいいのに……」


 死んだ目をして笑いながらそんなことを口走った気もする。



 そんな記憶を思い出し、エマは額に片手を当てた。


「言った……。たしかに言ったわ」


 それは認めよう。


「だけどだからって転生特典がそれって可笑しくない?!あんな酔っ払いの戯言(たわごと)、疲れ切った女の妄言を採用するってどうなのよ!」


「ぼ、僕だってまさか転生チートがマヨビームになるとか思わなかったし!」


「まさかそれだけじゃないわよね?」


「えっ?」


「だって聖女よ?このままだと私、勇者たちと魔王の所に行かされるんでしょ?ねぇ、拒否権とかないの?」


「それはちょっと無理だと思う。転生者は能力が特出してるし、レベルも上がりやすいんだ」


「特出した能力……マヨビームが?」


「そ、それは……君だけで他の二人は普通に戦闘能力高いし……」


「理不尽っ……!!」


 エアリスの言葉にエマは崩れ落ちる。


 あと勇者パーティメンバーが転生者なことも判明した。


「マヨビームでどう戦えと?」


 ジトッと見ればエアリスがわかりやすく目を逸らした。


 おい、神。

 目ぇ逸らしてないで責任とれ。


「拒否できないんなら、せめて他にも能力ちょうだい。あと聖女の称号は断固拒否!」


 片手をずずいと出してエマはねだった。


「癒しの力を、ちょっとだけ……」


「ちょっとってなによ?ケチケチしてんじゃないわよ」


 腕を組んで睨みつければエアリスがたじろぐ。


「無理だよ、僕の神力の問題もあるし、個人に与えられる恩恵にも個々の状態に応じて上限があるんだ」


「わかりやすく言うと?」


「ゲームのレベル上げと課金みたいな感じ?どれだけいい装備でも特定のレベルに達したり、条件クリアしてないと装備できないアイテムとかあるでしょ。あんなイメージかな」


「課金は?」


「僕の神力をお金として、課金することで特別にレベルを上げたり恩恵を与えることができるけど、世界の平和を維持するために神力を使い過ぎて余裕がないんだ。あと……エマにはすでに色々と恩恵を与えてるから今の君にこれ以上大きな恩恵を受ける枠がない」


 はぁぁ?と低っい声がエマから出た。


「大きな恩恵?マヨビームが?」


 額に青筋を浮かべて凄むエマからエアリスはそっと視線を逸らした。


「えっと……その、ね?容姿とか家庭環境とか?」


「どーいうことよ?」


「その、だから……生前の君がここに来たとき、君は本当にボロボロで疲れ果ててただろう?家庭にも職場にも恵まれてなかった。そんな君が哀れで、今度は幸せな家庭に生まれるように恩恵を与えたんだ」


「……そのことは評価するわ」


 ムスッとしつつもエマは感謝した。


 今世は前世に比べて本当に幸せだったからだ。

 優しいパパとママ。常連客のお客さんたち。何気ないあの幸せが、この神のおかげなのなら感謝しない理由はない。


 …………その何気ない幸せをぶち壊さないでほしかったものだが。


「あとね、せっかくなら美少女にって容姿も色々こだわって、僕好みの超絶美少女に!」


「このアホ神」


 褒められたことに気をよくしてか、てへ!みたいな感じで暴露したエアリスを地を這う声で罵倒した。


 つまりあれか、ビジュアルに課金しすぎて能力面の枠を使い果たしたってことか!


 静かにブチ切れるエマに慌てたエアリスが両手を胸の前で振る。


「ご、ごめん。新しい能力は無理だけど、いまある能力のレベルを上がりやすくするのなら比較的簡単だから!!怒らないで、ねっ?」


「マヨビームのレベルアップしてなんになるってのよっ!!」


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