怒りの導火線に火がついた
村はもうすぐそこなのだが、切り株に座ってひとまず休憩。
遠目に村が見えて安心したのか「おなかすいた……」とミケルがしょんぼり呟いたからだ。
その呟きにつられたのかミシャのおなかもくぅと鳴き、おあつらえ向きに座るのにちょうど良さそうな切り株を発見したので休憩することにしたのだ。
「どれがいい?」
そう言ってエマが魔法の鞄から取り出したのはロールパン。
エマの魔法の鞄の中には保存食、作り置きの軽食etc……とにかく食べ物は超豊富。
今回は相手が5歳ぐらいのこどもとあって、お外でも比較的食べやすいロールパンをチョイス。
具材はタマゴ、ハムレタス、ウィンナーの3種です。
「「おいしい!」」
ミシャがタマゴ、ミケルはウィンナーを選び、ちゃんと2人ともお礼をいってからパクリとかぶりつき瞳を輝かせた。
小さなお口で夢中でパクパク食べる姿が可愛らしい。
森の中を歩きまわってエマたちも小腹が空いたのでおやつがわりにロールパンをつまむ。
真ん中を切って、バターやマスタードをぬって、具材をはさむだけのロールパンは作るのも楽チンで小腹みたいにもぴったりなのです。
「そういえばどうしてミシャとミケルは森に来たんだ?こどもだけじゃ危ないだろう」
一口で半分ぐらい食べながらクルトが問いかければ、おなかも満たされにこにこだった2人がしょぼんと見るからにうなだれた。
「探しに来たの。でも迷子になっちゃった」
「探しに?なにを?」
「おともだち」
なんでもおともだちが昨日からお家に帰っていないらしい。
村の大人たちが必死にその子を探すなか「お外に出ちゃだめよ」という言いつけを破って2人は家を抜け出したとのこと。
話しを聞いたエマたちはざぁっと顔色を青くした。
「村に急ぎましょう!」
「今ごろ大騒ぎじゃん!」
のんびり休憩している暇じゃなかった。
2人を抱き上げ、大急ぎで村へと向かった。
予想通り村は大騒ぎだった。
村に足を踏み入れた途端、人を呼ばれて棒などを持った獣人に取り囲まれた。
「その子たちを放せ!!この人さらいめ!!」
「違います!!違います!!」
フー!と尻尾を膨らませて威嚇してくるお兄さんたちに必死に首をブンブン振る。
……なんか似たような勘違い、前もあったよね。
村人たちの怒気に怯えたミケルが涙を浮かべてぎゅっとクルトの胸に顔を埋める。
ハリソンに抱かれたミシャが「あ、お母さん!」とにこにこと手を振った。
「ミシャ!ああっ怖かったでしょう!!」
「うん。森で迷って怖かったけど、このおねーちゃんたちが助けてくれたの」
にぱっと答えたミシャの言葉に村人たちが「え?」と固まる。
一方、エマたちはコクコクと首を上下運動。
「森でこの子たちと出会って、迷子みたいだったんで連れてきたんです」
どうやら誤解は無事に溶けたようだ。
「大変申し訳ありませんでした」
「あの子たちの恩人にとんだご無礼を……」
一斉に頭を下げられエマたちは恐縮する。
獣人の皆さんは感情に素直らしく、頭に血が上りやすいが恩義も人一倍大事にする性質らしい。
ぺたりと垂れた猫耳とへにょんとしたしっぽにエマたちの視線は釘づけだ。
触りたい……と手がわきわきしそうになる。
ミシャとミケルは冒険で疲れてしまったのか別の部屋でお昼寝中。
大人たちから盛大な謝罪を受けつつ、エマは気になっていたことを問いかけた。
「迷子の子は見つかったんですか?」
重く沈んだ表情にまだ見つかっていないんだと……そう思った。
「そもそも迷子ではないんです。きっとあの子は……カイはさらわれたんです」
若い女性が涙を拭いながらもその瞳に怒りを宿す。
「さらわれた?」
「獣人のこどもや若い女性は人気があるんですよ。だから誘拐して売りはらおうって輩があとを絶たねぇ」
別のおじさんが机を叩きながら声を荒げた。
「売り……はらう?」
「犯人を探し出して絶対にカイを取り戻してやる!」
「ですが……居場所はわかるんですか?」
「俺らは獣人だ。鼻がいい。いま手分けして犯人の居所を突き止めてる最中だ」
おう!絶対に助けだすぞ!と村人たちが声をあげるなか、ふ、ふふ……と乾いた笑いが響く。
「あんな可愛い子たちを誘拐して売りはらうですって……?許すまじ!犯人!!」
「ええ!!相応の報いを受けるべきですわ!!」
ダンッ!と立ち上がり天を向いてエマとミレーヌは吠えた。




