これもある意味、状態異常
理由を聞いたクルトたちはどっと肩を落とした。
ひとまず無事なのは喜ばしいが、理由がひどい。
「びっくりした。魔王の手先でも現れたのかと思っただろ」
「まおー?」
「まおう??」
こてん、こてんと反対方向に首をこてんとさせる可愛い×2にエマとミレーヌは胸を打ち抜かれて膝をついた。
息も絶え絶えに、動機が激しい胸を押さえる。
「こんな可愛い子たちを手先に……?魔王、なんて恐ろしいやつなの……っ」
「極悪非道にもほどがあります!」
ふるふると震えながら慄き、憤るエマたちに、おーいとクルトが声をかける。
どうやらかなり重症のようだ。
「おねーちゃんたちへいき?ふるふるしてるよ?」
「ぐあい、わるい?」
心配そうに幼い瞳が覗きこんできた。
お耳がぴくぴくして、しっぽもへにょんと垂れ気味だ。
可愛いの会心の一撃!
エマとミレーヌは1000のダメージ!!
くはっ!とさらに胸を押さえ呻くエマたちと、なんとも言えない表情で彼女らを見るクルトたち。
「なんだこれ?とりあえずエマもミレーヌも正気に戻ってくんねぇ?」
「エマだけでなくミレーヌまでか……」
「ちょっと待ってくださいレオンさま!そのエマ私はしょうがないみたいな諦めはなんですか?!」
「いやその……」
ちょっと聞き捨てならない言い方に抗議したら目を逸らされた。
「俺はレオンの気持ちはわからんでもない」
「……まぁ私もわからないでもないけど」
「エマ嬢……ご自分で認めてしまわれるんですか」
レオンを擁護するクルトの言葉に、よく考えたらエマも賛成だった。
ちなみにこの間も、エマたちは子ねこちゃん(獣人)たちをなでなでしている。
「それで?結局その子たちは一体……?」
ハリソンの言葉にそういえばと撫でるのを一旦やめる。
茂みからぴょこりと現れた可愛い生き物に夢中になったあまり、エマたちも詳しい事情をまだ聞いていなかったのだ。
ちなみに出会い頭の大絶叫に男の子には大層怯えられました。
「迷っちゃった、って言ってたよね。大人はいっしょじゃないの?」
「……うん」
「えっと、お名前は?」
「わたしはミシャ。この子はミケル」
「おうちはどこかな?」
「わかんない」
ミシャがぽつり答えながら首を振り、ミケルの瞳がじわりと滲む。
泣き出しそうな2人に慌てて頭をなでたり抱きしめたりしながらあやしていると、ハリソンがその長身を屈めてこどもたちに視線を合わせた。大きくて強そうなハリソンにミケルがぎゅっとミレーヌの服を握りしめる。
「村のなまえはヴェルニーニじゃないかい?」
なんとなく響きに覚えがあったのかミシャの瞳が光った。コクコクと小さく頷く。
「知っているのかハリソン?」
「森を抜けた先にある村の名前です」
「……ってことはいま俺らが向かってる?」
「ええ、町で仕入れた情報によると獣人が多く生息するという情報でしたので恐らく間違いないかと」
「本当ですか!良かった、おうちに帰られるよ」
「「本当?!」」
「本当」
「いっしょに行きましょう」
喜んだこどもたちに抱きつかれ、しかもふわふわのしっぽを巻き付けられてエマとミレーヌは撃沈しかけた。
可愛いの凶器。
小さなお手てと手をつないで森を歩く。
エマはミシャと、ミレーヌはミケルと手をつないでいる。
道中、自己紹介をしたりお話をしたこともあって2人ともだいぶ懐いてくれたようだ。
人懐っこい性格のミシャだけでなく、人見知りらしいミケルもときおりはにかみつつ話しかけてくれるのに猫好き女子2人の顔面は緩みっぱなしだ。
やがて前方に光が見えた。
「どうやら出口は近いようです」
鬱蒼と覆われていた樹々の切れ目から向こうの景色が覗いた。
やっと森から抜けられる喜びに、みんなの歩調は自然と早くなった。




