どこに出しても恥ずかしくない魔法少女
うす暗闇のなか、トーチの灯りを頼りに洞窟内を進む。
先頭を歩くハリソンの手にしたトーチの灯りがゆらゆらと揺らめく。反響する音に、歩きやすいとは言いにくい地面。
そんな洞窟内を歩き回ってもう何時間になるだろう?
「次はこっちへ進みますか」
壁面にトーチを近づけ、刻まれた✕印を見ながらハリソンが反対側を指さす。
「この先はあまり道が分かれてないといいんだがな……」
疲れがにじむレオンの声はもっともだった。
「あー、マップ機能ほしい!」
「マップ機能もだけど攻略本プリーズ!」
RPGのようにマップ機能もなければ、攻略本も当然ながらない。
そうなるとどうなるかというと……ひたすら足でかせぐのみ。
どの道を進むか悩み、進んだ先は行き止まりなんてことはザラにあり、引き戻しては目印につけた印のない方向へと進む……という繰り返しは地味に体力と神経を削っていく。
さらにはそこに戦闘や罠の回避も加わるのだ。
つまりは疲れる。ものすっごい。
「これでミレーヌちゃん用の武器がショボかったらキレる」
「ですがさきほど見つけたローブはいいモノですし、期待は持てると思いますよ」
「防御力もかなりのモノだ」
手に入れたばかりのローブを触りながら頷くレオン。
そんな彼が身につけているのは藍地に金の模様が入ったスタイリッシュなオシャレローブ。
キラキラ王子のレオンが身につけても違和感がないどころかふつうに恰好いい。
宝箱に入ったそれを見つけたときはエマも喜んだし「良かったですね」と声もかけたが……自分の手にしたフライパンと比べると、思う所がなくもない。
以前手に入れたハリソンの剣だって文句なしに恰好いいし、クルトだって勇者に似合いそうな盾を手にいれた。
……剣と盾の両手持ちは戦いずらいらしく、ほぼ使ってないが。
それに対し、自分はなぜフライパンばかり……と足元の小石をポイッと蹴った。八つ当たりだ。
「どうやらゴールは近いようですよ」
ハリソンの声に顔をあげれば、その先に立派な扉が見えた。
洞窟内には似つかわしくない、重厚で重々しい扉。
みんなの顔が一気に引き締まった。
「開けるぞ」
クルトとハリソンが扉を押す。
ゆっくりと音を立てて開かれる扉。
そしてその先には予想どおりボスらしき魔物がいた。
獅子のような巨体に三又に分かれた蛇のような尾。
口から生えた牙は不自然なほど大きく、それを見せつけるように魔物は大きく口を開いて咆哮をあげた。
戦闘開始の合図に緊迫感が漂う。
剣を手に走り出すクルトとハリソン。
まずは足を狙うようだ。
ミレーヌは短い詠唱を唱えつつ、水の刃でクルトたちの補助をする。
レオンは攻撃魔法の準備を整え、エマも武器を手にすぐに動けるように魔物の動きを目で追う。
緊迫した戦い。
それなのにエマの手にした武器がフライパンという事実がとても悲しい。
間一髪でクルトの剣をかわした魔物が口から火の玉を吐き出した。
詠唱を組み上げている途中だったレオンへ向けて放たれたその攻撃を、エマはフライパンで弾き返す。このフライパン、攻撃力と防御力は何気に高いのだ。
お返しとばかりにレオンが魔法を放った。
火柱が魔物に向けて一直線に走る。
濁った声を上げて炎に包まれる魔物はそれでも絶命していなかった。
もはや火だるまになりながらも暴れまわる獅子もどきを迎え撃つようにクルトが剣を突き刺す。
絶命した魔物が燃え尽きてからクルトは剣を引き抜いた。
レオンへと振り返り、剣を握ってない方の手で頭をかく。
「炎の勢いがヤバくて、マジびっくりしたんだけど」
「私も驚いた……」
まじまじと自らの手を見下ろすレオン本人にとっても予想外の火力だったようだ。
「ローブのおかげでしょうか」
防御力だけでなく、魔力補正もかなりの一品らしい。
いいなーと激しく羨みつつ、祭壇のような場所にぽつりと置かれた宝箱に近づく。
「これはますます期待が持てそうかもですね。さ、ミレーヌちゃん開けてみて」
さぁさぁと促せばミレーヌがそっと蓋を開ける。
中身は杖だった。
「わぁ!ミレーヌちゃん超似合う」
性能とは別のとこでエマは手を叩いて声をあげた。
魔法少女のステッキとして売り出しても大ヒットしそうな美しい杖はすごくよく似合っていた。
ミレーヌ自身が魔女っ娘スタイルの美少女ということも相まって、そのままアニメのヒロインができそうだ。
その後に判明した性能もかなりのもの。
大変だったけど、苦労して迷宮に挑んだ甲斐があったようです。




