もはや逃れられぬ宿命
こ、怖いぃぃぃとへっぴり腰で泣き言をいいながらフライパンをフルスイング。
「次々来るんですけど~!」
「危ねっ!頼むから俺らに当てんなよ」
「ご、ごめっ……」
現在、エマたちは魔物の猛攻を受けていた。
あっちからもこっちからも、なんなら頭上からも急降下してくる魔物の群れにほぼ振り回す勢いでフライパン。
ひゅんと過ったフライパンがすぐ脇を掠め、クルトから苦情が飛んだ。
「もう少しだけ耐えてくれ!」
早く早く!とエマたちが急かすなか、レオンの放った炎が一直線に前後の通路を覆った。
感じる熱風に腕で顔を庇う。
だけど熱を感じたのはほんの一瞬、すぐさまミレーヌの生み出した水の膜がみんなを包み込んだ。まるでそれはひんやりとしたシャボン玉の中。
透明な膜の向こうに見える地獄絵図に、へたへたと腰を降ろす。
場所はとある洞窟。
迷宮の一種である洞窟にて、うっかり罠を発動させてしまったようだ。
結果……。
大量の魔物がわらわらと出現。
控えめに言って、死ぬかと思った。
炎によって一掃される魔物たちを見ながら、ある意味元凶ともいえるとある神にエマは怨嗟を送った。
ことの発端は昨日の午後。
道を歩いていたエマは足を止め、ちょっと待ってと手を突き出した。
「どうしました?」
「ちょっと電波受信しそうです」
エマの言う電波、それはエアリスからの通信だ。
何度か声を受けているおかげか、なんとなくその前兆みたいなものを感じ取れるようになっているエマだった。
やがて“お風呂が沸きました”を彷彿させるメロディが鳴り、キラキラとエマの周囲を舞う光。
地味に目立つのでやめてほしいが、これがなければないで「一人で会話してる変な人」になってしまうのでいいんだか悪いんだかだ。
「どうしたのエアリス、なんか用?」
相手が神とか知ったこっちゃねぇ、とばかりに気安く声をかけるエマ。
『耳寄り情報のお知らせです』
神のわりにノリが軽く、存外俗っぽい兄ちゃんは弾んだ声でそう告げた。
こんな感じでたまーにエアリスはお役立ち情報を投下したり、「その辺にタチの悪い盗賊団いるから倒してくれない?」とかお願いを放り投げてきたりする。
リアル、天の声。
「耳寄り情報?」
『そう、そっから少し先に洞窟があってね。そこの宝箱に魔法使い用の武器がいくつかあるからミレーヌとレオンの戦力UPにもってこいだと思うんだ』
「……私のは?」
『…………ないよ』
声だけで姿は見えないのに、そっと目を逸らすエアリスの姿が見えた気がした。
『だいたいエマは武器新しくしてばっかじゃん』
「…………」
『……うっ。ごめんって。悪かったからその無言の抗議やめて。あと別にエマの武器は僕が選んでるわけじゃないからね?』
「神のくせに」
『神だって万能じゃないんだよっ!第一なんでもできるなら君たちに背負わせないで自分で動いてるし…………』
しゅん、と語尾を掠れさせていくエアリスに、とりあえず責めるのはやめた。
「それでその洞窟でミレーヌちゃんたち向きの武器が手に入るのね?」
『うん。迷宮の難易度としてはちょっと高めだけど、魔法使い2人の戦力が上がることを考えたら利点は大きいと思うんだ』
「わかった。ありがと」
そんな感じで電波通信は終わった。
納得して訪れたのだから、全てがエアリスのせいとは言えない。
それはわかっているけど、自分たちばっか大変なのは腑に落ちないのでやっぱり文句ぐらい言いたい。
あともう一つ。
「私もフライパン以外の武器欲しいんですけど?!」
地面にぺたりとお尻をつきながら叫べば、仲間たちはそっと目を逸らした。
エアリスとの会話でもあった通り、エマはつい先日に新たな武器を手に入れた。
ずばり、熱伝導率の非常にいいフライパン。
以前のフライパン機能に“熱したフライパン”機能が追加された一品だ。
熱したフライパン……つまりはめちゃくちゃ熱い。
物理的な打撃ダメージだけでなく、じゅうぅぅぅという熱した武器での打撃という……ある意味でものすっごく凶悪極まりない武器。
なお、使用者のエマはうっかり触っても火傷しない。
地道にレベルUPを積んだ結果、身体能力の向上と共にナイフ類も少しは使えるようになったエマだが、主な武器はやっぱりまたフライパンだった。




