スライムの意外な活用法
ジェラートをスプーンですくって口へと運ぶ。
「ん~、おいしー」
優しい甘さに思わず顔もほころぶというもの。
「こちらも美味しいですわ。一口どうですか?」
「いいの?じゃあお言葉に甘えて。こっちもどうぞ」
「ありがとうございます」
カフェのテラス席にて、お互いのジェラートをシェア。
小物屋さんに洋服、お菓子といくつものお店をまわってエマたちは今日という自由時間を思いのままに堪能していた。
……類まれない美少女2人連れとあって、度々絡まれることを除いては。
今しがたも「かーわいーねー」「彼女たち、ひまー?」と声をかけてきたチャラい兄ちゃんたちを追い払ってばっかりだ。
天気もよくて気持ちいいけど、テラス席は失敗だったかも。
そんなことを思いながらまたパクリとスプーンを咥える。
見掛けはか弱い美少女でも、エマはチャラい兄ちゃんごときに怯むような性格はしていないし、なんならミレーヌはしょぼい盗賊団ぐらいなら魔法で一網打尽にできる実力者。
なので面倒ではあるが特に実害はなく、カフェでの小休憩を終えた。
目当ての看板を見つけ、エマはお店を指さした。
「ちょっと寄ってもいい?」
「……はい、構いませんけど」
少しだけミレーヌが不思議そうな顔をしたのは、お店が魔物素材を加工するお店だったからだろう。
武器や防具、さまざまな製品に加工される魔物素材だが、武器等を新調する予定は特にない。
エマの目的は別のものだ。
「らっしゃい」
低くぶっきらぼうな、あまり客を歓迎していると思えない声。
なにやら作業をしていた厳ついオジサンはおざなりな掛け声とともに顔をあげ……ポカンと一瞬表情を止めた。
数秒の後、強面がわずかにしかめられる。
「何の用だ?入る店を間違えたか、嬢ちゃんたち」
鋭い目に、隣のミレーヌがぴくりと震えた。
だけどじっとオジサンを見たエマはにっこりと笑う。
目つきも鋭いし、筋骨隆々、おまけに厳つい強面と三拍子そろって盗賊の首領と言われた方が信じられそうな職人さんだが腕は良さそうだ。
手元の品も、棚に並ぶ商品も質がいい。
態度は接客業向きではないけど、言葉のわりに険はないしきっとただの性格だろうとエマは物怖じもせずに店内に足を進める。
「魔物素材の加工をお願いしたいんですが」
そう言って魔法の鞄から取り出したのは見事な毛並みの毛皮。
ほぅ、と思わずオジサンから声が漏れた。
高ランクの魔物の毛皮ということもあり、冷やかしの客でないと認めてもらえたようだ。
「いい毛皮だ。処理もいい」
「処理をしてくれたのは同行のメンバーですけど」
苦笑いしながらエマは告げる。
「そんで?コイツをどうしてぇんだ?」
依頼を引き受けてくれそうなオジサンの様子に、まだ店の入り口に立ったままのミレーヌを呼びよせつつ、エマはさらに魔法の鞄に手を突っ込んだ。
そうして取り出した素材は……。
「スライム……?」
普通はスライムなど倒した後は放置が一般的だ。
なぜならスライムなどギルドに売ることも出来なければ、武器や防具への加工も不可能。
だが先日、ふと思い立って回収しておいたスライム。
その様子を見ていたクルトたちからは「なにやってんのエマ?」と不審がられた一件です。
「これをどうするってんだ?」
「クッションを作って欲しいんです!」
「ああ゛?」
およそこれまで依頼されたことのない注文だったんだろう。
オジサンの眉が不可解そうに片方あがる。
そう、クッション。
エマが欲しかったのは、馬車の揺れを緩和するクッションだった。
プニプニのスライムを見て思ったのだ、「これ、ゲル素材っぽくない?」と。
「オジサン、旅ってしたことあります?」
「若い頃はよくしてた」
「ならわかるでしょう?馬車に長時間乗るあの辛さ!私たち、まだまだ遠くまで行かなきゃいけないんです。腰とお尻を守るために衝撃を高吸収するクッションが欲しい!」
前のめりなエマの勢いにオジサンが、お、おうと怯む。
だが旅の経験者とあって、その辛さは通じたようだ。
「これを四角く切ってクッションにすればいいのか?」
「いえ、円形のちょっとかけたみたいな形がいいです。中心に穴をあけて、こう、折り畳み式に背もたれも……」




