聞き間違えではない
世界を救うはずの勇者パーティ、こどもを攫う不審者に間違えられる?!
そんなネットニュースのトップを飾りそうな緊迫した空気は、当の男の子の「遊んでたらあそこにはまっちゃったの」の一言で無事に霧散した。
村人たちは姿の見えない男の子を探していたらしい。
そこへ「痛い」だの「たすけて」という声が聞こえ……駆けつけたらこの状況だった。
それは誤解もするだろう。
「申し訳ありませんでした。ありがとうございます」
ぺこぺこと頭をさげる村人たちにいえいえと答える。
誤解が晴れて本当になによりだ。
「それで……」
言いにくそうに母親がこどもの全身へと目を向けた。
顔にも体にもべっとりとついた謎の白い物体。
「なにこれ……ベトベトするよぅ……」
半べそをかいた男の子の声とクルトたちからの視線が痛くてエマは胸の前で両手を振った。
別にエマだって嫌がらせでこの子にマヨビームを発射したわけじゃない。ちゃんと理由がある。
「それはマヨネーズという調味料で、体への害や危険性は一切ありません」
まずはマヨネーズの無害性をアピール。
「マヨまみれにしたのは申し訳ないですが……仕方なかったんです。ぴったりとはまってて抜けなかったし、マヨネーズは油分を含むので滑りがよくなるかなって」
「ああ、成程。そういうことでしたか」
納得してくれたハリソンにブンブンと大きく頷く。
決して嫌がらせではないのだ。
現に男の子は痛みもなくつるりと引き抜くことができた。
周囲も納得してくれたようで、疑惑が晴れて一安心のエマだった。
「調味料……コレ、食べ物なの?」
こどもとは現金なものだ。
あれだけ謎の白い物体に怯えていたくせに、正体がわかった途端に好奇心が勝ったらしい。
洋服についたマヨネーズを指ですくってぺろりと舐めた。
そして男の子、テオは目を見開いた。
衝撃に目を見開き、「おいしい」と呆然と呟いたあとはさらにすくって舐め、すくって舐め……それを見た他の子たちも興味津々に手を伸ばす。
我を失ったように謎の白いもったり物体を舐めるこども達の姿に、大人たちも恐る恐る手を伸ばし……。
「ちょっ、その子に群がんないでください!マヨネーズならお皿にだしますから!その子にたからないでっ!ってかその子はお風呂にいれてあげてっっ!!」
「クルトも混ざろうとするんじゃない!」
両手を広げてわらわらと血走った目で男の子にたかる村人をとめる。
仲間に加わろうとしているクルトにはレオンがチョップをかました。
「お恥ずかしいところをお見せしました」
頭を下げる母親に、いえと半笑いで返す。
テオは無事にお風呂と着替えをすませ、お礼にと家へと招待された。
出されたお茶をいただきつつ、母親の後ろでキュウリをむさぼり食っているこどもたちは見ないフリをする。
「まさか勇者さま一行がこの村にお出でくださるとは」
好々爺然とした村長がほぉっほぉっと笑いながら目尻のシワを深める。
勇者のネームバリューはさすがだった。
名乗った途端に村をあげての大歓迎をされた。
自己紹介で「看板娘のエマです」と告げたエマは「は?」「へ?」と職業を5回ぐらい聞き返されたが……。
誘拐犯の汚名が晴れたエマ達は無事に一泊の提供を受け、盛大なお見送りを受けながら翌日にその村をあとにした。
村では数日、エマの残したマヨネーズブームが勃発したのでした。




