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異世界勇者への風評被害

 

 大きな街は店も人も多くて活気がある。


「そこの兄ちゃんたち!一本食ってかねぇか?うまいぞぉ!」


「ジュースはいかが?果汁100%よ」


 噴水のある広場を中心とした通りは特にそうだった。

 歩いているだけであっちこっちの出店から客引きの声が飛び交う。


「あっ、あのお菓子おいしそう」


 ふわりと漂うハチミツの香りとおいしそうな見た目につい声をあげてしまった。

 すぐに口を手で押さえたのは、つい20分ほど前にも同じような展開で買い食いをしてばかりだからだ。


 バツの悪さを感じつつも、呆れた目で見てくるクルトへは軽く睨み返した。


 だって両手に串焼きを何本も握っている彼に責められるいわれはない。断じてない。


「いくつか買いましょうか」


「え?いいんですか?」


魔法の鞄(マジックバック)にいれておけば保存もききますし。明日からはしばらくこういった甘味なども手に入りにくいでしょうから」


「「ありがとうございます」」


 店主に注文をし、ハリソンが渡してくれた紙袋をエマとミレーヌは笑顔で受け取った。


 本日は魔物の討伐を午前中で切り上げてお買い物日だ。


 それというのもある程度レベル上げが出来たため、明日にはこの街を出るから。

 以前ハリソンが口にしたようにこの先はしばらく大きな街がない。

 なので物資などの調達のためのお買い物です。


 ある意味で休息日ということでエマやクルトも楽しんでいるものの……もっとそうなのが意外なことにレオンとミレーヌだった。


 一国の王子といいとこのお嬢さま。

 とくにレオンにいたっては視察以外の街歩きなどはじめてのことで、「あれはなんだ?」「これは?」と珍しくもハリソンを質問攻めにして困らせているほど。

 いつもはわりと落ち着いているが、そんな姿をみればまだ10代の少年なんだなと実感する。


 全員顔がいいためにやたらと周囲の注目を浴びながらも、一通り必要なものを揃えた。


 ……予定にないお買い物のほうがだいぶ多くなってしまったが。


 こういう時、本当に魔法の鞄(マジックバック)は便利だなと思いつつ戦利品をポイポイと放り込む。エマにいたっては食料品も大量購入だ。


「お、壺だ」


 調味料やら食材を扱うお店の前を通りかかったとき、クルトがふいに声をあげた。

 フタをのせられた大きな壺が店の前と横にいくつも並んでいる。


「ほんとだ。ねぇクルト、壺を確認しなくていいの?」


「だなー」


 互いに笑いを含ませながらそんなことを口にしつつ、店の前を通り過ぎる。


「買わなくていいのか?」


 後方を歩いていたレオンに問いかけられ、2人は歩きながら振り向いた。

 会話から壺の中身に興味があると思ったのか、壺を指さしつつ「いいのか?」ともう一度問うレオンにぷっと同時に笑った。


「違うんですよレオンさま。別にあれが欲しかったわけじゃないんです」


「そうそう。俺らの世界では勇者が壺を割るのはわりと定番だから」


「人様の家に無断であがってタンスあさったり、壺わったりね」


 あははと手をふりながら話すのは、某おなじみのゲームなどで有名なあれ。


「実際やったらヤバいよな」


「その点こうやって資金援助も豊富なこの国は良心的……なのかな?」


 そんな風に話すエマとクルトは気付かない。


 後ろを歩くレオンとハリソンが窃盗案件に目を見開いていることを。


「初期装備なんて棒切れだったりもするもんな」


「ステテコパンツとかね。盗んだパンツとかはきたくなーい」


 きゃっきゃっと話しているとミレーヌに焦った声で「お2人ともっ!!」と叫ばれた。


 珍しく大きな声をだす彼女に何事かと振り向けば…………。


「パ、パンツ……?」


「盗んだパンツを……はく、のか……?」


 完全に足を止めたハリソンとレオンがドン引きした目で、元異世界出身の勇者ことクルトを見ていた。


 ちょっぴり変質者を見るそれだった。


 それはそうだろう。

 宿で同室でもある相手がそんなだったら誰でもドン引きする。


 勘違いされていることを悟ったクルトが慌てて否定する。


「違っ!!俺は人のパンツなんて盗らないし、はきもしねーから!!」


 しかしあまりにも大きな声での否定に、道行く人々からもギョッとした視線が向いた。


 とてもいやな注目を浴びてしまったクルトたちは走ってその場から逃げた。

 逃げた先でエマはお腹を抱えて大笑い。


 その後、宿屋で一泊したら体力が全回復するだの、教会で死んだ仲間を生き返らせる話だのを聞いて、レオンたちが「異世界はどうなっているんだ……?」と呆然としたりした。


 現実じゃないですよ、全部ゲームの中の出来事なのです。




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