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夕日へ向かって走れ、的な?

 

「とりあえずもうちょっとレベル上げをしたら西に向かうんだっけ?」


「はい。小さな村がいくつかあるのでそこを通りつつですね」


 マヨ増量したパンをモグモグと飲みこんでクルトが首を傾げれば、ハリソンが丁寧に答える。


「な~んかイメージと違った。てっきり魔王を倒すのが目的だって思ってたからな」


「そうなることが多いのだけどね。でも……平和的に解決できるならそれに越したことはない」


 苦笑いを浮かべながらもそう告げたレオンの瞳は真摯そのもの。


 魔王討伐こそを求められていると思っていたが……城での講義で一概にそうではないことを学んだエマたち。


 目的はあくまで“世界を救う”こと。


「かつては何百年も戦争が続いた時代もあったそうだし、争いの原因もさまざまだ。魔族が人間を脅かしていた時代もあった。おとぎ話として有名な勇者の話は、その時に人々が魔族に抗い立ち向かったものだね」


「けど魔族と手を取り合って危機的な災害に対処したこともあった……んですよね」


 優等生なミレーヌが講義で学んだ歴史を口にする。


 エマも最初はおどろいた。

 だって魔王を倒した勇者の話は有名だったけど、そんな話は聞いたことがなかったから。


「ああ……そしてそれどころか人間が他の種族を脅かしていた時代もあった。その時の勇者は魔族だったよ」


 そう、魔族=悪ではないのだ。

 それどころか侵略を繰り返し、他民族を奴隷のように扱っていた人間の王を倒すために魔族が勇者だったこともある。


 道理で聞いたことないわけだとエマは納得した。

 大人の事情ってやつで隠蔽(いんぺい)されたんですね、と。


 実際、何代か前の王家がイメージ戦略のために意図的に有名なおとぎ話の方を世に広めた経緯があるそうだ。


 そもそも人を襲う魔物の影響で魔族を忌避する人間は多いが、魔物と魔族は異なる。

 一般的にモンスターというカテゴリの魔物と違い、知性や言語を持ち人型をとれるのが魔族。


 魔物と魔族をいっしょにするのは「哺乳類なんだから」と人と動物をいっしょにするようなもの。

 大枠の分類として間違ってはいないが、そのくくり方はいささか乱暴にすぎる。


 まぁ、なんにせよ魔族と話が通じる可能性があるということにエマは安堵した。


 出来ることなら魔王との戦いなんて恐ろし気なものは避けたいし、可能であるなら平和的解決が一番だ。

 そして王家自体がそれを望んでいるということもありがたい。


 スープのジャガイモをスプーンで割りながら考える。


 いま現在、魔族とも他の種族とも大きな争いは起きていない。

 魔族を嫌う人は多いし、友好とは言い難いがそもそも実質的に関わりはほとんどない筈だ。


「でも“世界を救う”ってどうすればいいんですかね?もう少しエアリスも具体的な指示をくれればいいのに……」


 神を呼び捨てにするエマにレオンとハリソンが微妙な顔をしたが、エマは気にしない。


「心配ごとがあるとすれば、食料問題かな。近年は不作の地も多くなっているようだし」


「それによる領地の侵略などは有り得ますからね」


「でもさぁ、侵略はともかく食料問題とか勇者関係なくねぇ?」


「そうだね。だけど話し合いをするにも人間より強い彼らの元へ向かうには、強い人間じゃないと行きつかない。それに各地の問題を解決することはできる」


「この世界を維持するにはエアリス神様のお力が働いてますからね。地上の問題を解決すればかの方の神力も増えます」


「そうすればエアリス神様がお力を貸してくださるというわけですね」


 話しを聞きつつエマは微妙な顔をした。


 ぶっちゃけ、()()エアリスがそんなすごい存在だっていう実感がぜんぜん沸かないのだった。


「まぁなにはともあれ、世直し、人助けをしつつ西へってことですね」


 魔族の住まう領地ははるか西方。


「夕日の沈む方角だし迷わなくっていいな」


 かかかっと歯を見せてクルトが笑う。


 いざ、西へ!


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