反省ともうしないかは別物です
「大変ご迷惑をおかけしました」
謝罪しつつ手にしたトレーを押し出す。
床に三つ指をついてこそいないものの、その姿は「ははー、どうぞお納めください」とお詫びの品を差し出して謝罪する人そのもの。
場所は宿の一室。
トレーの上に載っているのはハムや野菜を挟んだパンに具沢山のスープなど。
夕方前には森から帰り、一休みしたあとで作った簡単な夕食だ。
体は疲れているものの、料理は気晴らしにもなるし、なによりおいしいものが食べたい。前世の食の記憶を想い出してしまったからなおさらだ。
欲求に忠実なエマは初日に早々女将に交渉して厨房の使用権を得たのだった。
そんなこんなで机の上に並ぶのは宿の夕食であるおかず数品と、エマの作ったパンとスープ。
パンは元々用意されていた主食のパンに具材とマヨを投入しただけですが。
いただきます、ありがとうございます、おいしそうです、口々にそんな言葉をかけてくれる仲間の優しさが身に染みて後ろめたさがちょっと増す。
「ほら、エマも食えよ。スープ冷めるぞ?」
「うん。いただきます」
ぱちりと手を合わせ、エマも食事をはじめた。
部屋にはエマたちしかいない。
何故ならここはクルトたちの部屋だからだ。
この宿には一階に食堂があるが周囲に気兼ねしなくていいように部屋でとっている。ちなみに食事は男性陣が運んでくれた。紳士。
女性であるエマとミレーヌは別部屋だが、食事はみんなでとった方がおいしいし、旅のことを話すにもちょうどいいのでみんなでとる。
「本当にごめんなさい」
しょんぼりしながら謝るエマをみんなはなんでもなさそうに励ます。
そもそもなんでエマが反省しているかといえば、先程の森での一件だ。
武器がフライパンという世の不条理に嘆き荒んだエマ。
キレたことも荒んだことも後悔はしていない。
だが……それとみんなに迷惑をかけたことはまた別だ。
エマの武器がフライパンなのはエマのせいではないが、断じてクルトたちのせいでもない。
パーティの経験値はメンバーにも付与されるが、それは功績に応じる。
つまりなにもしなくてはちょびっとしか手にはいらない。
エマよりずっと戦闘値が高い彼らはエマを守りながら面倒な魔物を相手にしつつ、スライムなどエマでも倒せる魔物を譲りながら戦ってくれたのだ。
それなのにキレ散らかして迷惑をかけたことには反省してる。
…………きっとまた戦いの場になったらキレる自信はあるけど。
だって現に昨日もそうだったし。
だって武器がフライパンだよ?
しかも能力がマヨビーム…………。
理不尽すぎる現実にやけになったようにエマは両手にもったパンへとかじりついた。
ハムと野菜を挟んだだけのシンプルなパンだけど、運動したあととあってお腹もすいていたのですごくおいしい。
マスタードが効いてるし、なによりマヨネーズが偉大。
以前だったらパンを食べる時はスープがお水がぜったいに欲しかったけど、パンだけを食べてても口がパサパサしない。しっとり感と全体をまとめてくれるマヨネーズは控えめにいってもいい仕事をしていた。
マヨビームに憤りつつも、なんだかんだでマヨを堪能しまくっているエマだった。