どう考えても武器がオカシイ
「ふふっ……」
据わった目をしてエマは笑う。
「ふふふ……」
手にしたモノを大きくスイングしながら、乾いた声で笑みを漏らす。
茂みから飛び出してきた物体目掛け、渾身のフルスイングを放った。
「怖いからその笑い止めて」
剣を振り魔物の体を真っ二つにしながら苦言を呈してきたクルトをキッと睨みつけ、ダンッと地団太を踏んだ。
「しょうがないじゃないっ!荒みたくもなるわよっっ!!」
エマは荒んでいた。
意気揚々と旅立ってから3日目。
現実は甘くない。
それを心の底から痛感していた。
馬車で移動した隣町は広大な森がすぐそばにある。
旅といえばレベル上げは必須。
……ってことで昨日エマは人生はじめての魔物との戦いに挑んだ。
初回はおなじみのスライム。
魔法や剣が使えずとも、がんばればこどもにだって倒せる初心者に優しいモンスター。
エマも無事に勝利を収めた。
それはいい…………。
ただどうしても納得できないことがある。
いままた木の後ろからぽよよんと飛んできたスライムに強烈な一撃をおみまいする。
フライパンで。
苛立ちをこめるようにフルスイングするエマの手にあるもの。
それはどっからどう見てもまごうことなきフライパンである。
「そりゃあね「がんばる!」って意気込んだからって、なにもかも上手くいくわけじゃないわよ。気持ちでなんとかなるなら誰だって成功者だし、努力も素質も乙女のおまじないもな~んも必要ないっつーのっ!!」
叫びとともにスライムがぱこーんと木へと打ち込まれ、タラララッタラ―♪と脳内でレベルUPの音楽が響いた。
はぁはぁと肩で息をすれば、クルトやレオンが両手を広げてどうどうと宥めてくる。
「でもほらっ、攻撃だけじゃなくて防御もできるし!」
「強度があるだけでなく、重みも感じないんだろう?」
必死にフォローに走るその気づかいは嬉しいが、つっこまずにはいられない。
「でもフライパンだけど」
目を逸らされた。
そう、フライパン。
エマの武器はフライパンだった。
この世界の装備は誰でもどれでも装備できるわけではない。
そんでもってエマが装備できる武器はフライパンとナイフ類だけだったのだ。
「やはり職業の看板娘の関係でしょうか……?」
「ぐっ……」
ハリソンの一言にぐぬぬっと呻く。
それを言われると非常に痛い。
なにせ聖女を嫌って「看板娘で!」と駄々をこねたのは自分だ。
「だからって武器がフライパンっておかしくないですか?みんなは剣や魔法で恰好良く戦ってるのに私だけフライパン!どう考えてもおかしいですよね?!理不尽っ!」
ガクリと地面に膝をつく。
「しっかり、エマさん……」
「ううっ、ミレーヌちゃん……」
「そう気を落とさずとも、レベルがあがれば他の武器も使えるようになるかもしれないから」
「クラルスの花に選ばれた皆さまはレベルの上がり方も早いですしね」
「攻守ができるのは貴重だぞ。なんだかんだで性能だっていいんだし…………フライパンだけど」
抱き起してくれるミレーヌと、フォーローをいれてくれるみんなの優しさが身にしみた。
エマの武器:強度抜群のフライパン。
渾身の力でフルスイングしても凹みません。
物理攻撃にも魔法攻撃にも対応できます。
かなりの強度ですが使用者に限り羽のように軽く扱えるすぐれもの。
このふざけた説明文が表示されたときにはガチでブチ切れそうになった。
……むしろキレた。
職業の影響なのか、他にも大小さまざまなナイフや包丁類は扱えるものの、ナイフを使いこなして戦えるだけの身体能力がエマにはない。
結果、攻撃だけでなく防御もできるフライパンをブンブン振り回して戦っている。
「だから、なんっで私だけギャグ要因なのよーー!!」
天を仰いでエマはエアリスに向けて怒鳴った。