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 そうして、

「はぁ、はぁ……」

 と、アラフォー室長の松本清水子は、まるで、スポーツを終えたかのようにしながら、

「おぉいッ!! 円子ォ!! 黒桐ィ!!」

「は、はぃぃッ――!」

「ドクペ持ってこぉぉい!!」

「か、かしこ、まりぃ!!」

「は、はい!」

 と、VR演習を手伝っていた部下のふたりを呼びつけ、ドクターペッパーを頼む。

 ちなみに、黒桐廉太郎はというと、可もなく不可もなしの容姿で、よく転生してそうなマンガに出てくるテンプレM字型ヘアの男である。

 そうして、ドクターペッパーを待ちながら、

「ああ……、ほんっと、疲れたし……」

「うん、疲れたよね。松もっちゃん」

「ですよね」

「ああ”? お前らは、たいして疲れてねぇだろが? パパ活コンビ」

「パパ活コンビって、ねぇ……」

「そうですよ。何てこと言うんですか、松本さん」

 と、パパ活コンビ呼ばわりする松本に、西京と瑠璃光寺のふたりがつっこむ。

 そうしながらも、

「室、長! ドクペ持って来ました」

「あ、あと、うんめい棒です」

「おう、あんがと」

 と、部下のふたりが戻ってきた。

 ドクターペッパーを開け、

「かぁーッ! う、んめッ!」

 と、アラフォービューティが、まだ昼前にもかかわらず、まるでアフターファイブのビールのような爽快な声をあげる。

 また、うんめい棒の、ナポリタンスパゲッティ風味を手に取りながら、

「ほい、あんたらも」

「あ、ああ、」

「ありがとうございます。ナポリタンスパゲッティ風、味……?」

 と、ふたりは困惑気味に受け取りつつ、

「これで、ちょっと、僕たちは出てっていいかい? 松本っちゃん」

 と、西京が聞いた。

「あん?」

 松本は、一瞬、ポカンとしながらも、

「ああ、そろそろ昼だしな。どっか、食いに行ってくんの?」

 と、時計の時間を見て、ピンときた。

「いや、食べに行ってくるっていうよりもね、ちょっと、駅に、駅弁を買いにね」 

 西京が、答える、

「ああ”? 駅弁だと……? そのために、わざわざ駅まで?」

 松本が、怪訝な顔をした。

 まず、列車に乗るわけでもないのに駅弁を買うときた。

 そして、その駅弁を、改札から入場して買いにいくわけである。

 確かに、“わざわざ”感があるのは間違いない。

「まあ、いうて、すぐ近くじゃないか。ちょっと、気になる駅弁があってね」

 この特別調査課であるが、丸の内にある。

 ゆえに、東京駅は近い。

「いや、いうて、アンタたち、普段、調査で全国中回るじゃん? 十津川警部シリーズみたいに。駅弁なんて、しょっちゅう食えるだろ」

「まあ、そうだけどね」

 話すように、この西京太郎と瑠璃光寺のふたりであるが、特別調査課の中でも、ある意味で特異なポジションにいた。

 邪神や陰謀、その他もろもろの絡む案件の調査のため、全国的に、地方の現地に赴くことが多いのだ。

 松本のいうとおり、トラベルミステリーの十津川警部シリーズさながらに。

 そうしていると、

「気になる駅弁って、どこの駅弁すか?」

 と、零泉が聞いてきた。

「東京駅だと、いろんな地方の駅弁が、売っているからね。そうだね……? 今日は、米原の駅弁でも、買ってみたいね」

「は? 米原だって? あの、滋賀だか岐阜だか、よく分かんない微妙なとこの」

「何てこと、言うんだい」

「しかも、何か、東海道新幹線のくせに、豪雪地帯っていうワケの分からん」

「まあ、確かに、あそこから関ケ原にかけては、いつも雪が降ったり積もったりしているけどね」

 米原をディスる松本につっこみつつも、雪については、西京も同意する。

 続けて、

「むしろ、下手すれば、北日本よりも雪が積もることもあるらしいからね」

「何で、そんなに雪が降るんですかね?」

 と、瑠璃光寺。

「伊吹山のせいだろうな。確か、積雪のギネス記録があるらしいし」

 答える松本に、

「むしろ、東京を舞台に演習するよりも、米原でも舞台にしたほうが良かったんじゃないかな」

「ああ”? 何で、米原なんかで――? まあ、東海道新幹線の、交通の要衝っちゃ、要衝だけどな」

 と、西京が冗談半分に言った。

 また、駅弁に話を戻して、

「それで、どんな駅弁があるんですか?」

「そうだ、ねぇ……」

 と、聞いた黒桐に、西京はスマホ画面を見せる。

 近江牛だったり、サバの棒ずしなどの一般にイメージしやすい定番ものから、ビワマスの炊き込みご飯。

 それから、『ごり』と呼ばれる琵琶湖の固有種の小っちゃい魚や、エビ、アユの佃煮、また、同じく固有種の、焼きモロコ。

 あとは、赤こんにゃくだったり、丁字麩ちょうじふのからしあえ、豆腐田楽や漬け物など、何かご当地っぽいナニカ、と――

「はぇ~……、こうしてみると、滋賀の料理も、食べてみたくなりますねぇ」

「あれ? 零泉、関西出身じゃないの?」

 と、感心する零泉に、黒桐が聞く。

「いや、私は関西いうても、和歌山のほうやし……、――ていうか? 滋賀って、関西なん?」

「まあ、言われてみれば、」

 と、トーンダウンする黒桐に、

「いちおう、近畿地方であるとのことだけど、関西かどうかは、微妙に意見がいろいろとあるらしいね」

 と、西京が補足しつつ、

「まあ、近畿地方で、関西の文化圏なんだろ? あと、琵琶湖の水止めたろかって京都と喧嘩してたし、関西でいいんじゃね? 知らんけど。どうでもいいけど」

 松本が、『知らんけど』からの『どうでもいいけど』のコンボでまとめる。

 また、そこへ、

「ところで? 滋賀と言えば、鮒ずしとか、ないんすかね?」

 と、零泉が聞いてきた。

 まあ、滋賀県イコール琵琶湖、琵琶湖イコール鮒ずしの、単純な思いつきだろう。

「いや、そんな、くっせぇの、さすがに駅弁じゃ無理だろ?」

「何か、『うっせぇわ』みたいな語感だね。その、くっせぇわ、って」

「ああ”? 何言ってんだ、てめぇ?」

 と、何気なしに言った西京に、松本がキレつっこみする。

 そのようにしつつ、

「まあ、とりあえず、僕たちはこれで出るよ」

「ああ、さっさと行って来いよ」

 と、西京と瑠璃光寺のふたりは出ようとした。

 その時、

 

「あっ――? ちょっち、待ってよ。西京」

 

「うん? どうしたんだい?」

 と、思いおこしたように呼びかけてきた松本に、西京は振り向く。

「何か、話してたら、駅弁食いたくなってさ。ちょっち、パシらせてよ?」

「パシらせてよ、ってね、」

 西京が、「おいおい」とつっこみたそうな顔をしながらも、

「まあ、いいけど……。それで? どの駅弁が、いいんだい?」 

「ああ、瓦そばの駅弁って、あるじゃん? あれ、買ってきてよ」

 と、瓦そばと来た。

 長州は山口県の、郷土料理というか、ご当地グルメである。

 その名のとおり、湾曲した瓦の上で茶そばを焼いたものだが、その由来は西南戦争にあるとのことらしい。

「瓦蕎麦、だって? そんな、駅弁じゃなくて、店に、食べに行けばいいんじゃないかい?」

「たまには、駅弁のでもいいじゃん。てか、いま、疲れてっからさ、出歩きたくないし、出歩きたくないからパシらせてんだし」

「はぁ……、やれやれ、わかったよ」

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