犬の散歩中、「くっ、殺せ」という20cmの女騎士と出会った。
俺、智がマリーナと出会ったのは、愛犬ポチの散歩をしている時だった。
ポチが急に吠え出し、公園の草むらに突っ込んだ。
「おいポチ!」
ポチが何か咥えて戻ってきた。
アニメキャラかなんかのフィギュア?
20cmくらいで青髪の女騎士だ。
「放せこの魔獣が!」
「……フィギュアが喋ってる」
俺はしゃがみ込んで、そのフィギュアを凝視した。
「小人? 妖精?」
「まさか巨人までいるなんて。リアス王国の騎士マリーナ、貴様のような巨人に屈することなど断じて――くっ、殺せ!」
笑ってしまった。だってマリーナ、針みたいなちんまりした剣で戦おうとしてるんだもん。
「なんでそんな小さいの? もしかして異世界転移ってやつ?」
「魔王の魔法を食らったらここにいたんだ。私が小さいのでなく貴様が大きすぎるのだ! 我が国でこれくらいが普通だ! 貴様を倒して祖国に帰る方法を探さなければならん!」
「よくわからんけど、とりあえずうち来る? 俺は君の敵じゃない。ここにいると野良猫か烏の餌になるよ」
「む……仕方あるまい。これも情報収集のためだ」
マリーナは考えた末に俺についてきた。ポチはこの世界で標準サイズの犬だと教えると飛び上がっていた。
程よいサイズだから、一口まんじゅうを買って分けてやる。
「なんてうまいんだ。異世界は侮れないな」などと言う。馴染むのが早ぇ。
1ヶ月経つ頃にはポチを「愛馬ジョゼフィーヌ」と呼び始めた。人の犬に変な名前つけんな。ポチはオスだぞ。
マリーナに話を聞きつつ元の世界に返す方法を探してみたが、収穫ゼロに終わった。どうやらこちらの世界に魔法の源である魔素なるものがないから、魔法が使えないらしい。
今日はマリーナと出会った草むら周辺の探索をしていた。ポチの背にまたがるマリーナ。ポチが何かを見つけて走り出す。
「どうしたジョゼフィーヌ!」
「ポチを変な名前で呼ぶなと言うに」
ポチが茂みに鼻を突っ込んでフィギュアを拾い上げた。
「くそ! はなせ魔獣め!」
デジャヴ。
「マリアン!」
マリーナがポチから飛び降りてフィギュアに駆け寄る。
なんと妹らしい。国に返してやるどころか二人に増えた。
なお一年後、くっころ女騎士は総勢九人になった。野良猫の餌になると夢見が悪いから、保護する。
そのせいで俺は近所の人から密かに『美少女騎士フィギュアコレクター』なる、不名誉な異名で呼ばれているらしい。
異界の魔王、絶対許さん。