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序章
碧紫神社の境内に並ぶ仲見世通りには、五坪に満たない小さな空き地がある。
しかしその空き地にはほとんどの人が気付かない。大晦日から元旦にかけて初詣で境内がにぎわうときも、お祭りで縁日が開かれる夜も、桜の季節も紅葉の季節も、ぽつんと空いているその土地に気が付くのはほんのわずかなニンゲンだけ。
しかしそこに気が付いたニンゲンは、そこが空き地であるとは気づかない。なぜなら、そこに見えるのは小さな小さな喫茶店の入り口だからだ。
わずか一間ほどの間口の店舗は平屋づくりで、柱と屋根は鳥居と同じく鮮やかな朱色。表に出された縁台にはにこにこと微笑む老人が座り、さらにその奥へと目を向ければ店内で白い髪の店員たちが慌ただしく客に茶を運んでいるのが見えるはずだ。
昭和の香りが漂うレトロなガラスの引き戸には、これまた小さな看板がかかっている。その名を見れば勘の良いニンゲンは気が付くかもしれないが、それも今は稀だろう。
その店の名前は高天原茶房――八百万のカミサマたちがおしゃべりに来る彼岸と此岸の境目に建つたまり場である。