痛いと言いたい遺体
その遺体は「痛い」と言いたかった。
けれど、死人に口無しとは良く言ったもので、口はあるにはあるのが、これが残念、ピクリとも動かない。
口だけでなく、体のどの部位も動かない。
眼球も動かない。
が、どういう仕組みか、見たいと思うものを見ることだけはできている。
直接映像を流し込むように、目ではない何かで、どうにかして見ることだけはできている。
もし、体がほんのちょっとでも動いてくれたなら、「痛い」と言いたいこの痛みは既に解消されていただろう。
だが現実は、体は僅かさえも動かなかった。
そして、痛い、と思うから「痛い」と言いたいのに、それさえも言えない。
痛い、と思うのに「痛い」と言えない。
ふと、遺体は何かを思い出した。
それはきっと、遺体にとって、とてもとても大切な記憶。
好き、と言いたいのに「好き」と言えなかった昔。
だから、目で訴えた。
見続けた。
見続けた。
三年間。
「「「 三年間 !!!」」」
今日は、僕たち、私たちの卒業式!
「「「 卒業式 !!!」」」
辛かった、三年間。
楽しかった、三年間。
積もりに積もった、沢山の思い出!
「「「 思い出 !!!」」」
積もりに積もった、積年の恨み!
「「「 積年の恨み !!!」」」
今、僕たち、私たちの願い事が叶うとしたら、動く手足が欲しい、喋れる口が、声が、翼が欲しい!
「「「 欲しい!!!」」」
貴方のところへ行きたい!
「「「 行きたい!!!」」」
好きだった、だから見ていた。
ただ見ていた、見続けていた……それだけなのに……。
何故、私は殺されなければならなかったのか?
埋められなければならなかったのか?
ただ見ていただけなのに、好きだっただけなのに。
お義母さんが……ああいけない、結婚の妄想が……お母さんが、貴方のお母さんがごみ袋を捨てに玄関から出た隙にお家にお邪魔して、貴方の部屋にそっと忍び込んでいただけなのに。
貴方のお部屋?
それは勿論、お年玉をはたいて買った高機能高倍率の双眼鏡で、外の通りから貴方のお家の窓という窓をくまなく観ていたから、知っていて当然!
「「「 当然!!!」」」
クローゼットの中にお邪魔して、少し息苦しくなって、今度はベッドのお布団の中にお邪魔して、そうしたら貴方の体温がまだそこに残っていて、匂いもして、胸の奥がきゅんと甘くうずいて、くすぐったい気持ちになったの。
とてもとても幸せで、徹夜の張り込みの緊張がとけたのもあって、気が緩んで眠ってしまって……大きな悲鳴がして飛び起きようとして、でも首が痛くて苦しくて、力任せに押さえつけられていて……。
見ていたの、ずっと見ていたの。
好き、と言いたいのに「好き」と言えなかったから。
でも今は、痛い、と思うから「痛い」と言いたいの。
でも言えないの。
だからね、見ているの、ずっと見ているの。
ねえ? 視線を感じるでしょう?
ずっとずっと見ているの。
どんどんやつれていく貴方を、見ているの。
だからほら、早く、助けてよ?




