真実
「あなたをここで死なせたりしません。」
そう言うと少女は口笛を吹く。すると何処からかゴリラのような二足歩行動物が現れた。
「シャラン、運びなさい。」
少女とシャランと呼ばれた動物は倒れている少年を担いで森の奥に消えていった。
「…ん………」
今しがたまで眠っていた少年が体を起こす。
「ここは?」
その目に写る光景は現世では拝むことも出来ないだろう美しい自然だった。
現世は今、人間の手で美しい自然が失われている。
工業が発達し、住む場所を確保するために森を切り倒し海を埋めているのだ。
「ここは…もしかして、天国?」
「いいえ違います。」
「!?」
突如聞こえたのは何処か神秘的な女の声。
「ここは『秘境』。今は失われた大いなる自然の眠る地。」
「秘境って…おいおい冗談もほどほどにしてくれ。なぜ干渉できない俺がここにいる?」
少年の言うとおり、秘境は人の干渉の出来る場所ではない。異人もまた然り。
しいて言うなら干渉できるのは自然を司る女神メテュスの加護を受けた者だけ。
しかし、その恩恵を受ける方法が解っていないためまず干渉は出来ない。
「選ばれたからですよ…」
「何に?」
「女神メテュスより…現世の未来を託すものに…です。」
「なんじゃそりゃ、訳わかんね。女神なんていねーだろ。んなもの。それに未来って…何なんだよ。」
「そのままです。女神メテュスはいます。今あなたの目の前に。」
そう言って現れたのはエルフの少女。見た目15歳だろうか…幼いながらも普通じゃない雰囲気の少女だ。
「このまま侵食が進めばこの星の未来の行き着く先は滅亡でしょう。それを食い止めるため、我々は現世に生きる若き希望に力を与え託すことにしました。」
「その中に俺が含まれていると…てか滅亡ってありえねーだろ。」
「いいえ、時を司る女神ノルンが見た結果、あと数十年でこの星に広がる海原の大半が埋まり、大地に根を張る樹木達は切り倒されます。そしてあふれかえった人々は争い、やがて滅びます。」
「んなあほな。」
「論より証拠。見たほうがいいですね。」
そういうと少女基女神メテュスは少年の額に手を当て、何かを唱える。
「何――」
少年の記憶はそこで途切れた…
――――――――――――――――――――
「ここは?…うわっ!?」
少年の足元には数多の死体。
「これは…すげぇことになってやがる。」
視線を上げ空を見ても分厚い雲が空を覆いどんよりとしていた。あちらこちらで火の手が上がっており、まさに地獄絵図だった。
そのとき
ドッゴーーン
「キャァーーー」
爆音と共に悲鳴が上がり人々が一目散に散っていく。
「なんだよ…あれ。」
少年の視線の先には大量の人…人…人
その後ろには巨大な鉄の塊…戦車があった。
「全軍突撃!!」
兵隊の中一際目立つ軍服を着た男がそう叫ぶと同時に数多の兵士が駆け出し戦車が唸りを揚げる。
たちまち町は新たな火の波に飲まれ、灰と化した。
「これが…真実?」
その時少年目掛けて戦車が火花を散らす
「うあぁ!」
叫び声を上げ起き上がる少年。視線の先には広大な自然とエルフの少女が
「ゆ…夢?」
「解りましたか?この星の未来。人類の結末を。」
「あ…あぁ」
「それが真実です。」
「少し…考えさせてくれ。」
一方森林内部
「何処へ行った?」
「隊長!こちらにはいません」
「こちらもです」
「あの傷でどこかにいけるとも思えん。もう一度探してみろ!」
「りょうk…」
そこまで言った時、もう一人の隊員が隊長を呼んだ。
「隊長!ここに血痕と何かの足跡が!」
「何!?それは本当か!!」
「こいつです!」
そこには確かに痕跡が残っていた。
「よし今すぐ調査隊を呼び、NO156のものか調べろ。」
「了解」
隊員たちはベースキャンプにいる調査隊を呼びに戻って行った。