由香、かりん、詩織にやっと会いに行ける
部屋のドアが開き、俺、中へ入ると、由香、かりん、詩織の三人が揃って優雅な椅子に座っていた。妊娠中の彼女たちに無理はさせられない。だが、俺の視界に入れた瞬間、三人はパーッと顔を輝かせた。
「「「彰くん!会いたかった」」」
喜びと甘さが混じった声が、久々に聞く俺の名を呼ぶ。
――ああ、本当に会いたかった。つわりで苦しんでいる時も、本当は側にいて支えたかった。だが、それは許されなかった。色気とエロの制御が未熟な俺にとって、妊婦である彼女たちは、絶対に刺激してはならない聖域だったからだ。
しかし、その甘い空気は、俺の背後に控える木村の存在に気づいた途端、一変した。
三人は椅子から素早く立ち上がり、一瞬の沈黙の後、張り詰めた声で言った。
「………」 「「「木村さん!お世話になってます」」」
妊婦である彼女たちが、まるで軍隊のように九十度の深いお辞儀をした。その完璧な角度と、表情から一切の私情を消し去った態度は、まるで木村への絶対的な服従を示しているようだった。
(な、何なんだ、この態度は……!木村は彼女たちに一体何をしたんだ?俺の知らぬ間に、三人は完全に調教されているんじゃないか?)
全身から冷や汗が噴き出す。視線は木村に集中し、俺の存在などまるで視界に入っていないようだった。改めて、俺の執事である木村の底知れぬ恐ろしさを実感する。
木村は微動だにせず、静かな、しかし有無を言わせぬ声で三人へ告げた。
「三人とも座りなさい。妊婦にはその態勢はキツいから、椅子に座りなさい」
その言葉に、三人は反射的に、そして驚くほどの早業で再び椅子に腰を下ろした。まるで訓練されたかのような素早さだ。
木村は、俺に向き直り、礼儀正しく頭を下げた。
「彰様。私が居ますと、三人が緊張してはいけませんから、何かございましたらそちらのボタンを押してください。私ではない者が、お茶とお菓子はお持ちします。三人とも彰様と久しぶりに会うでしょうから、ゆっくりしてくださいね。では、失礼します」
そう言って、木村は静かに部屋を出ていった。
木村が去った後の扉を、俺と三人はしばらく見つめていた。そして、不思議と誰も何も言わなかった。誰も木村のことに触れなかった。その方が良い気がしたのだ。
俺はテーブルにつき、まず三人に心からの言葉を伝えた。
「俺が色気とエロをコントロール出来なかったり、相談出来なかったりして、三人の大変な時にサポート出来なくてゴメンね」
謝罪の言葉を聞いた三人は、キョトンと目を丸くした後、詩織が優しい眼差しで言った。
「彰くんは確かに私達に会いに来れなかったけど、それは当たり前のことなのよ。むしろ彰くんは、私達に良くしてくれているわ」
由香がその言葉に頷き、続けた。
「詩織の言う通り。彰は、私達三人の子供たちのために、既に養育費を凄い金額用意していると聞いていて驚いている。しかも西園寺家ではなく、彰本人が用意した多額な養育費だと聞いている。普通の男性は養育費なんて用意しないもの」
かりんも両手を広げて力説する。
「詩織と由香の言う通りよ!今、私達が着ている服だって、子供服メーカーに投資したり、女性用肌着や婦人服専門で商品が良いのに上手くいっていない会社を、西園寺グループの傘下に入れて、いい商品のまま新しく事業展開したりしてるんでしょう?聞いて私達三人とも驚いたんだから!」
「しかも全て、西園寺グループからではなく、彰くんの自腹だと聞いてるから、いくら稼いでいるのか聞きたいぐらいよ」
由香が目を丸くして尋ねる。彼女たちの話は全て本当だ。彼女たちが安心して子育てできる環境を整えるため、俺は水面下で色々と手を打っていた。
「おかげで私達、働いたお給料全く使ってないんだから。私たちめちゃくちゃ稼げる方の女性なのに、お金がたまる一方よ!」
詩織が笑いながら言う。
「食事だって私達の体調を気遣った食事が出来てるし、掃除、洗濯物など家事も全てしてもらってる。やる事無さすぎて、仕事の内容考えたり、読書したりするぐらいしかないんだから」
三人は口々に俺への感謝と、そしてある心配を告げてきた。
「彰くん働き過ぎてるから私達心配よ」
三人は大真面目な顔で俺を見つめる。そして、かりんが突然、大きな声を出した。
「それに彰くん、雰囲気がまた一段と大人になってカッコよくなってる! ハッ! 私たち美容にお金かけないと! そうしないと彰くんに捨てられちゃう!」
詩織も立ち上がりそうな勢いで同調する。
「私もそう思う! こんなに魅力的な彰くんに釣り合うように、私たちも頑張らないと!」
「私も今までそういったものはしてなかったが、それは一大事だな!」
三人の慌てぶりに、俺は思わず笑ってしまった。
「三人とも落ち着いて。三人とも十分に美しいと思っているよ。もし心配なら俺が、三人に美容専門の人頼むし、お金も払うよ?一緒に着いてはいけないけど、アクセサリーとかも贈るし、もっと俺に頼ってほしいなぁ?」
俺の言葉に、三人は同時に「「「美容は大丈夫だから。アクセサリーは頼むかもしれないけど」」」と、見事に揃った返事を寄越した。
「小説とかで見た、憧れのアクセサリーは彰くんに贈ってほしいけど、今は自分磨きした後にしたいと思うの!」
かりんが瞳を輝かせて力説する。
「そうです。子供を産んで、スタイルが戻ってからお願いしたいかなぁ~」
詩織が言い、由香が続ける。
「私はアクセサリー……やっぱり子供の時からの夢だからほしい」
三人は、ウルウルとした瞳で俺を見つめてくる。その可愛らしさに、俺はすぐにでも我が社のアクセサリー部門を呼びたい衝動に駆られた。
「今から我が社のアクセサリー会社を呼ぼうかぁ?後日でもいいけど……」
三人に尋ねると、やはり答えは同じだった。
「「「赤ちゃん産んで、綺麗に体型とか戻った後がいい」」」
他に希望はないかと聞くと、今のところはこれ以上の贅沢はいらないそうだ。自分たちがダメになると言っていた。
その後、俺たちは他愛もない話をたくさんした。そして、久しぶりに庭で四人でゆっくりと散歩をした。夕食には、帰宅した胡桃も一緒に、みんなで食卓を囲んだ。
温かい、穏やかな時間が流れた。
この日、俺は彼女たちへの愛と、その愛を守るための自分の役割を、深く理解した気がした。そして、この先に生まれてくる命と、この愛しい三人を、必ず幸せにすると誓った。




