色気とエロを消す
早朝、トレーニング室の扉を開けた瞬間、俺は四人に捕まった。
号泣している真とタクミ、そして本来ここにいるはずのないアークとイアン。「彰様が生きてて良かった」という言葉と共に、四人が俺に抱きついてきたのだ。
「「「「彰様が生きてて良かった」」」」
その声を聞いて、俺の胸は熱くなった。こんなにも俺のことを心配してくれていた。俺は、いつの間にか自分で何でも抱え込み、相談しなかったことを痛感した。お婆様と木村の言う通りだ。これからは、もっと周囲を頼ろう。
「4人とも心配掛けてゴメンなぁ〜」
俺も涙を流しながら四人を抱き締め返し、結局、早朝から五人で大号泣となった。朝のトレーニングは中止。代わりに、温かい空気に包まれた。
少し落ち着いてから、俺は木村に尋ねた。
「ところで何故? イアンとアークも居るんだ? 色気とエロがコントロール出来ないと会ってはダメだと言われてたのに?」
クールダウン用のアイマスクを渡し終えた木村が、淡々とした口調で答えた。
「私がいるから問題無いと言いました」 「それに、これから彰様の側近として俺たち4人もニューチューブとかにも出るから同じ修行をするべきと言われました」 「五人とも鍛えるプランがあるそうです」
真とイアンが顔を輝かせる。
「僕は彰様と一緒が嬉しいです!」(イアン) 「私も彰様から離れません!」(真)
田辺が静かに次の指示を待っている。俺は改めて四人に顔を向けた。
「一緒に行ってくれる?」
四人は顔を見合わせ、声を揃えた。
「「「「私達は彰様から離れません!一緒に行きます!」」」」
俺は再び涙腺が緩むのを感じた。「ありがとう、皆。一緒に頑張ろう」
木村は即座に田辺に指示を出した。
「田辺。朝食後迎えるように寺には連絡してください。それと例の訓練をしますから用意しといてください」 「木村さん分かりました」
木村は俺たちの方へ向き直った。「朝食後に向かいます。皆さん食事が終わり次第、寺に向かいます。遅れずに車の所まで来なさい」
五人の新たな修行は、こうして始まった。
俺たちは寺に着いた。
相変わらず木村は息1つ乱れていない。この急な階段を登ってきたにもかかわらず、余裕で俺たちについてくる。恐ろしい。
「皆さん着替えてきましたね。ここでは皆さんに**『無』になる修行**をしてもらいます」
木村の言葉に、俺たちは首を傾げた。
「意味が分からないと思います。人は気配というものがありますね? この気配を**『0』にして動く事を意味します」 「精神が高ぶったり荒れたりしたら人は気配が上がります。これをどんな時でも『無』にすると、人が居ることが分からなくなるんです。いわゆる影が薄い人**を目指してください」
そして、木村は俺たちに問うた。
「今、田辺が居ますがあなた方は田辺が見えますか?」
俺たちはキョロキョロと周囲を見回す。
「は? 田辺? え? いつから居ない!」 「田辺さんが確かに居ません!」 「階段登った時はいましたよね?」 「え?マジでどこに行ったんだろう?」
俺たちが田辺を探していると、木村が静かに呼びかけた。
「田辺。成功してます。出てきていいですよ」
その瞬間、いきなり目の前に田辺が現れた!
「「「「「田辺さん!」」」」」
あまりのことに全員が呆然とする。
「今回はこれを修行してもらいます」
木村の言うことはいつも次元が違う。これは凄いぞ!
「先ずは座禅から始めます。そして御経を読み、書写をし、心を『無』にしていきます。地味な作業だらけですが、『無』に近づきます」
修行が開始された。
はじめの一週間は本当に辛かった。
正座なんてしたことのない俺たちの足は感覚を失い、動けなくなる。大声を上げたいほどの足の痛みに、煩悩がささやく。筆を使うことも初めての五人は、書写に大苦戦した。
しかし、二週間目に入ったあたりから、「無」というものが朧げながら分かり始めた。いつの間にか時間が過ぎていき、木村に声を掛けられるまで、皆の心が「無」の境地になっていた。
三週目には、いつの間にか「無」を全員が完全に取得出来ていた。
「皆さん『無』の境地が分かったようですね?」
木村は穏やかに微笑んだ。その表情は、普段の厳しさの中にも、深い満足を滲ませていた。
「最初来た時に比べて心が澄んでいる。今なら『無』が使えるでしょう? 5人とも使ってみてください」
木村に言われて俺たちは心を「無」にする。
「皆さんキチンと使えてます。定期的にここに来て益々鍛えていけば良いでしょう。良く5人とも頑張りました」
木村が笑ってくれた。この滅多に見られない笑顔は、それだけで十分な報酬だった。
俺たちは無事に「無」を取得し、俺もやっと色気とエロさのコントロールという長年の課題を克服した。
修行を終えた五人は、互いに顔を見合わせた。皆の表情は、以前よりも清々しく、自信に満ちている。
俺は皆に向かって深々と頭を下げた。
「ありがとう皆。そして、木村、田辺ありがとう。これからも宜しく」
「無」の修行が終わると、すぐに木村から指示が下された。
「今回のツアーで迷惑をかけた者たち、そして田辺。全員、西園寺グループの特別ボーナスを握って旅行へ行きなさい」
五人の絆が深まり、そして心を鍛えられた「無」の修行は、こうして一旦幕を閉じた。




