さぁ、始めよう。俺たちの記者会見②
次回の続きです
照明が真の顔を照らす。彼の表情は、先ほどまでの司会者とは打って変わり、静かな自信に満ちていた。手元の資料を軽く叩き、真は話し始めた。
「まずお手元の資料をご確認下さい。私達、側近のみで作った資料です。ですので、男性でも、このような資料を作れると分かっていただけたら幸いです」
会場のあちこちから、かろうじて聞き取れるほどの小さな囁きが漏れる。 「これ、この子たちが作ったの?大人が付いてサポートしたんじゃないか?」 「信じられないな、いくら西園寺グループでも……」 真は、それらの声に微塵も動じず、無視を決め込む。最初から信用などされていないことは承知の上だ。
彼の背後の巨大なスクリーンに、一枚の写真が映し出された。 「現在、スクリーンに映し出している写真は、私とタクミの6歳の時の写真です。私達、側近は、全員、孤児です。親は、居ません。この様な頃に私達、側近は、彰様に拾われました」
写真に映る幼い二人は、今の洗練された姿からは想像もつかないほど、野生的で、どこか影があった。
「私と久保は、今の様にキチンと皆様とお話しできる様な子供ではなく。孤児院の施設の職員さんを『俺の奴隷達』と言う様な、それはもう、悪い子供でした。女の子達には、手を挙げ暴言を吐く様な悪い子供だったのです」
会場の空気がわずかにざわつく。その赤裸々な告白が、資料の信憑性とは別の、彼らの話の重みを増していく。
「マルコポールとエバンスは、紛争地域の子供達で、残念ながら写真等はありません。こちらに来てからの写真ですが、人の死を間近で見て育っています」
真は声を張り上げた。 「そんな子供達でも、今回の男性矯正施設に入り、しっかりとトレーニングと勉強をすれば、私達の様に社会で働ける様になります」
◎施設の詳細が次々と説明されていく。
料金: 国からの補助金で賄える。
◎施設環境: 近隣住民への配慮から、全て島や広い山などに設置。
◎返金保証: 入所して合わなかった場合は、全額返金。
◎規律: 職員に暴力を振るう、施設を壊すなどの行為には、反省部屋または本人からの支払い。家族への金銭の無心は「ダサい、情けない男性はまさか居ないでしょうから」と一蹴される。
◎禁止事項: 携帯やパソコンは厳禁。甘え心を抱かせないため。
◎面会: 家族や恋人からの訪問は固くご遠慮願う。「立派な男になる為の施設ですからね」
真の瞳はまっすぐ記者たちを見つめていた。
「西園寺グループと私達が全身全霊を掛けて『立派な男』にしてみせます。西園寺彰の様な素敵な男性が増える為の施設だと思ってください」 「僕たちが出来たのに、出来ない情けない男性はこの世には居ないと思います。そんなダサい! 情けない男性は居ないと思い、この『施設』を作っています。男性の方々、素敵な『男性』になるために来られてください」
マイクは久保ことタクミに移動する。彼は大人用の施設について具体的に説明した。
「大人の施設は、各自の1人部屋。6畳ほどで、ベッドと勉強机、クローゼットがあります。掃除道具もありますので、掃除はしてもらいます」 「お風呂・シャワー室・トイレ、そして食事をする場所は共有です」
タクミは静かに、しかし力強く続けた。 「実に残念な事ですが、今の男性達は、『協調性』のカケラも無い方が多いと分かりました。企業に勤めて行くのに『協調性』は、『必須』ですので、そこも育てて行こうと思っています」
記者たちは頷く。この点の指摘には同意する者が多かったようだ。
次にマルコポールとエバンスが、子供達の施設について説明する。
「子供達は、2人部屋で12畳ほどの広さです。ベッドと勉強机があります。お風呂・シャワー室・トイレは、共有です」
マルコポールが説明した。 「子供達は、やはり、『切磋琢磨する親友』が必要だと思います。私達は、ずっと、2人部屋でした。マルコポールと『色々励まし合い』、『時には喧嘩』もしました。そんな私達は、やはり、子供は2人部屋が良いと思い、今回のプランにさせて頂きました」
エバンスは優しさの中に厳しさを秘めた声で付け加える。 「親御さんが次に、息子様とお会いになる時には、『立派な息子さんに会える事』は、保証します」
そして、マイクは西園寺彰、俺の元へと戻ってきた。数時間の質疑応答タイムを経て、記者たちは施設の必要性に納得したようだった。
「長い時間、皆様方ありがとうございます。最後に私、西園寺彰から今後の私の話をさせてもらいます」
俺は静かに、決意を口にした。
「私、西園寺彰は、今回の世界ツアーを最後に、学業と『男性の社会進出』の仕事の為、アーティスト活動はお休みしたいと思います」
その瞬間、会場は水を打ったように静まり返った。
「…………え? どうした。アーティストなんて、いつ辞めてもいいぐらいなんですが……」
数十秒の沈黙の後、誰か一人が「わーっ」と泣き出したのを皮切りに、会場は地獄絵図と化した。
カメラマン、記事、海外の記者やカメラマンまでもが、大粒の涙を流し、絶叫する。 「「「「「いやー!」」」」」 「「「「「この世の終わりよー!!」」」」」 「「「「何を生き甲斐にすれば良いのよ〜」」」」
司会者までもが泣き崩れて、機能停止している。カオスだ。カオスすぎる。
隣の4人も、この異様な光景に困り果てている。既に六時間が経過し、夜遅くなっているというのに、誰も帰る気配がない。
「あのー、また、大人になり落ち着いたらしますのでー」 そう言っても、「「「彰君は、私達ファンを捨てるのですか?」」」と、世界中の言葉で非難される始末だ。
俺は立ち上がり、マスコミの方々に向かって訴えた。 「俺は、学校も行かなくてはならないので、どうしても、世界ツアーは無理なのですよ!皆様方、後からアンケート調査して私が出来る事を考えるのは行けませんか?」 薔薇を背負った俺の必死の提案も、ファンには届かない。
「「「「「「いや!彰君。無しなんて死ぬ!」」」」」」
彼らは完全に座り込んでしまった。その目は真剣だ。これは一大事らしい。
やむを得ず、俺はエバンスに司会をしてもらい、公開アンケート調査を急遽実行することにした。司会者は泣き崩れて使い物にならないからだ。
結局、記者会見は徹夜となり、夜食や朝食を挟んでまで続行された。
その結果、決定したことは、まるで取引のような、異様な内容だった。
コンサート: 日本で年間10回のコンサートを行うこと。場所は全て、移動時間短縮のため西園寺グループのドーム
◎デジタル活動: 5人全員でニューチューブを始めること。
◎リリース: CDとDVDは毎年出すこと(癒しが必要とのこと)
◎世界中のマスコミは、全て彰様のために動くこと。
◎男性達が施設に入るように、世界のマスコミは誘導するTV番組を制作すること。
◎施設にはマスコミの一部が入り、施設の良さをアピールしていくこと。
「とにかく、アーティスト活動は辞めないで!辞めたら死ぬ!」 「グッズもCDも買うから!ホテルやサポートもするから!とにかくお願いします!」
凄まじい熱量で要求され、話し合いで決まったのは、アーティスト活動の継続だった。
帰りは、俺たち5人が来てくれた記事、カメラマン、全ての人と握手会をして、やっと、やっと会場を後にした。
終わったのは、翌日。
なんてハードな記者会見だったんだ。
来てくれた人達は、みんな最後はニコニコだったけれど、俺たちはただただ疲れたのだった。
誤字報告ありがとうございます。




