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親友

作者: 秋月 周

 私の親友が、十月頃に同学年の女子と交際を始めた。嬉しかった。自分のことのように、それはそれは嬉しかった。心の底から祝福した。幸せになって欲しい。誰かのことをここまで想うのは久しぶりだった。

 私は現在、親友と親友ではなくなってしまった。原因は全て私にある。

私の、彼の恋人に対する物理的な距離が近かったのだ。会話をする時の距離が。彼はそれに嫉妬した。そして嫉妬する自分が嫌になり、彼は別れを切り出した。彼らは僅かな期間、ただの友達に戻ってしまった。かなり短い時間で、復縁を果たしたらしいが。

復縁後、彼は私に嫌がらせをするようになった。授業内で協力するところを、除け者にした。彼のクラス内での地位と権威を利用して、私を不利な立場に追いやった。

どうしようもなく苦しい。私は、彼と一生親友なのだと思っていた。大人になって、居酒屋に入り、二人きりで、美味い酒と飯に舌鼓を打つのだと思っていた。

けれど、現実はそうはいかないのだろう。私の行動が、私の常識が、彼との関係を崩壊させた。ただただ申し訳ない。彼らの気持ちを無碍にした、最低な行為だったのだろう。自らの悪事は理解しているつもりだ。

 悲しみで狂いそうだ。私は未だに、彼を親友だと思っているのに。お互いの感じている関係値の差に絶望しているというのが、第一の理由だ。第二に、親友からそういった行為を、受けることになるとは思わなかったからだ。第三に、既に過去と同じような関係に戻ることはないのだろうと、確信しているからだ。

私は、彼に許しを乞う訳ではない。彼の嫌がらせが、私に対する正当な罰であるなら、それらを全て受け入れる。けれど、苦しいじゃないか。

 彼とは幼稚園から教えて十年以上、共に時を過ごしてきた。

幼い頃、彼と毎日外で遊んだ。運動が得意な彼に、野球を教えてもらった。

ゲームが得意な彼と、ゲームをして遊んだ。

勉強を一緒にした。得手不得手は互いにあるから、それを補い合った。

歌を一緒に歌った。大人たちの前で、声変わりをする前の可愛らしい声を張り上げた。

幼少期、親から受ける、精神的無意識下の虐待の支えは彼だった。もちろん彼一人が支柱だったわけではない。だが私には、彼がヒーローに見えた。全て私より一枚上手だった。けれど、彼は対等に私と接してくれた。だから歓喜した。

今は、どうだろう。なぜこうなってしまったのだろう。私が全て悪いのは理解しているつもりだ。けれど、私は単なるきっかけでしかなかった。別れを切り出したのは彼自身だし、嫉妬も彼がしたことだ。こんなことをここで書くのはずるいが、私は反省しているつもりなのだ。

 私の常識がおかしかった。間違っていた。だから、距離感を直した。再び、人の視線や声色を窺いながら会話をするようにした。もう一度書くが、私は彼に許して欲しい訳ではない。彼が許さないのは、きっと彼にとっての常識だから。普通で、至極当然のことだから。だから、許して欲しいなんてこと、私は微塵も思わないし、きっと思ってはいけない。

でも怖いのだ。非常に鮮明な恐怖を抱いているのだ。私の中で、彼が親友でなくなるのではないかと、思ってしまう。彼を、嫌ってしまうのではないかと、想像してしまう。彼との過去の日常が、非日常に変わることに恐怖してしまう。

彼の中で、私は塵未満の存在なのだろう。それは構わない。だが、私の中ではヒーローなのだ。ヒーローに消えて欲しくない。自分勝手で、浅薄で、母親と同じような醜態を晒していることを十分理解している。だが、どうすれば良いのだろう。

どうして、こうなってしまったのだろう。

 親友よ。いいや、秋月周よ。親友を消さないでくれ。でなければお前は、深い絶望にまたもや突き落とされる。死にたくなる。

ああ、やっぱり駄目だった。

なあ親友。言わないと決めていたことがある。しかし、やはり駄目そうだ。ここでなら、言ってしまっても構わないよな。君はここに来ないだろうし、秋月周という名前に出会うことすらないだろうから。

親友、俺を、どうか許してください。

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