発見
デーヴィッドと話していたら気がつかぬ間に眠りについていた。ダニエルはもう起きていた。
「ジョー、どこか連れてって。」
「もう少し休ませて。」
ダニエルはつまらなかったので、マックスとひたすら遊んでいた。起き上がって顔を洗った。
「ジョーは本当は映画監督になりたかったんだね。」
「何だそれ?」
「ここに書いてあるよ。」
俺はダニエルが使ってる部屋に、小さい頃の記録を保管してるのを忘れていた。
「そんなもの見て楽しいか?」
「楽しいに決まってるよ。」
自分の夢を思い出した。昔は映画監督に憧れていたんだ。映画と言ってもドキュメンタリー映画の監督に憧れていた。俺はスマホとタブレットを持って、マックスとダニエルを連れて外に出た。
「待って。テディーも一緒が良い。どこ行くの?」
「これから街角の人にインタビューして見る。今日から今までやってた仕事を辞めて、小さい頃の夢に挑戦してみる。」
隣の家を見ると空き家のはずが、誰か引っ越してるような痕跡があった。早速入居が決まったのかだろうか。家から隣人が出てくる。
「お前、あん時の!ケンジだったけ?」
何と、その隣人はトラブルになったジョンだった。コーラを片手に喋っている。
「ケンジじゃねーよ。俺はジョーだ。」
骨になっても、何故かお互い誰だか分かった。他の人は認識できないのに。
「骨だからコーラ飲めないだろ。それに砂糖の塊だからそんなの飲んだら身体に悪いぞ。」
「これだけ持って気分だけ味わうんだよ。」
また面倒なことに巻き込まれそうな予感だ。
「それより何でここに引っ越すことになったんだ?そんな話、誰かが引っ越すなんて1回も聞いたことないぞ。」
「今日、俺が決めた。だって皆骨になれば、誰がどこに住んでるか行政も把握してないだろ。問題ないさ。骨になってから、やりたいこともっとたくさん出来る。」
「骨の状態でもやってることアウトだけどな。それほど世界が崩壊しきってる感じか。」
周りからしたら空き巣が入るとか不法侵入されるとか考える余地もないだろう。
「俺はこの骨の姿のままの方が過ごしやすいな。」
「どうして?」
ダニエルとジョンが聞く。
「骨になった時点でアジア系という枠組みで見られることがなくなるから。そんな枠組みで差別する人間がくだらないと思ってても面倒なやつなんてたくさんいる。どうせ皆、骨になるのに、外見や文化の違いで人を見下すのにエネルギー使って、もっと骨になる前に周りとか気にせず自分の人生をしっかり向き合えよとは思うな。」
俺は過去に露骨な差別を受けたことがある。例えば、地下鉄に乗っていて白人至上主義の男性に突然殴られたことがある。周りの人は誰も助けてくれなかった。最初傷ついて、夜中までグロテスクなゲームしたり、葉っぱなど吸ったり、アルコールを接種をしまくって不摂生な生活を送っていたが、そんな連中の為に自分が落ちるところまで落ちる必要は無いと思い、元の生活に戻った。とはいえ、そんな人間に遭遇しないという保証はどこにもない。中には俺に突然中国語で「你好」と声をかける連中をたまに出くわすこともある。中華系の知り合いがいるが、俺と同じようなことされたが聞くに耐えない酷い発音をしてたと言っていた。
「ごめん、ジョー。」
「分かってる。子供相手に怒ったりしないよ。」
ダニエルの頭をゆっくり撫でた。
「それより、この子はお前の子供なのか?」
「両親に見放されたから、俺が一時的に面倒見てるんだ。」
「俺は子供いないから分からねーが、そんな骨になって子供を見放す酷い親がいるんだな。」
「僕のパパとママは酷い親なんかじゃない!パパとママはきっと僕を探してる。本気で僕のことをうちの子じゃないって言ったわけじゃないよ。」
ダニエルは涙目になっていた。
「ジョンの言ってることは間違いではないが、この状況では言うことじゃない。ダニエル、俺がいるから心配するな。」
「よし、街中インタビューとダニエルの両親探しやるか!」
「お前らそんなことやってるんだな。俺も良ければ付き合うけど。」
「映画監督が俺の夢だった。仕事しなくても生きていけるならやりたいことをやる。特に手伝ってもらうことなんてないけど、ついてくだけなら何も問題ない。」
「ジョー、お前少しは面白い人間だな。」
「少しはとか余計だな。」
だんだん俺とジョンは打ち解けていった。
「そこのお姉さん、インタビュー良いですか?」
ある女性に声をかけた。彼女は顔を隠したままずっと泣いていた。
「駄目だ。次行くぞ。」
どこもかしくも暗い雰囲気だった。全てを失ったような人がわんさかいた。
しばらく歩いてるとダニエルが大声をあげる。マックスもいつも以上に吠えていた。
「ジョー、あの人が危ない!」
高層マンションの最上階で一人の女性が飛び降り自殺しようとしていた。
「ジョン、お前はここにいて時間稼ぎをしてくれ。俺とダニエルとマックスであの最上階に向かう。」
暗証番号が分からないので、住民が入っていくのを狙い、一緒に建物に入って行った。エレベーターはなかなか来ない。
「ちくしょう。早くしないと本当に飛びおりてしまう。」
エレベーターに乗るとどんどん上に行く。最上階についた。急いで該当する部屋を探して当てて入った。
「やめろ!そこから飛び降りたらどうなるか分かってるのか?」
「何よあんた達!不法侵入だわ!これから私は死ぬの。こんな骨の姿で希望も何もないでしょ。」
「警察ならいくらでも呼ぶが良い。骨の姿で満足してる人間もたくさんいる。よく考え直せ。ここから落ちたら粉々になるんだぞ。骨になったくらいで簡単に命を落とすのか?そんなの違うだろ。」
「あんたのような他人でただの凡人達に指図なんてされたくないわ。あんた達凡人と私じゃ生きてる世界が違うし、私の気持ちなんて到底分からないわ。」
こんな状況でも彼女はかなり上から目線で高慢な態度だった。
「私はモデルよ。モデルは私の天職だし、仕事じゃなくても自分そのものをアピールできるのよ。あんた達と違って見た目が命なのよ。影で生きてるような生き方はしたくないの。」
声でどんなモデルか分かった。彼女は有名なモデルで、彼女を知らないものは世間にいないくらい有名だ。彼女の名前はアンナ・ガルシア。噂によるとマネージャーや共演者に対してかなり偉そうな態度をとることがある時がある。
「凡人ってそんなに悪いことなのか?そんなプライドに左右されて命を落としていいのか?」
「この見た目で何が出きるのよ!答えられないでしょうが。」
「ダサいかもしれないが、凡人も言うほど悪いものじゃない。お前が凡人って言ってる人間も自分なりの幸せをつむぐ努力をしてるんだ。それに凡人なりの幸せだってある。確かに何が出来るなんて俺には答えはすぐには出せない。それにお前は周りからどう見られるか常に気にしてるのが幸せなのか?それが自分らしい人生なのか?違うだろ!その素晴らしい骨格でもう一度モデルやれば良いだろ。」
「もうこんなんじゃ誰も見てくれない。」
「今俺達が見てるだろ。」
彼女はだんだん涙を流しそうになっていた。
「見ろ、この骨格を。そんなにスタイルも良くないだろ。」
「そうね。全然良くないわ。」
彼女は少しくすりと笑った。
「そんなに笑わなくても良いだろう。」
笑った勢いで彼女は足を滑らせ落ちそうになっていた。
「捕まってろ。」
後ろからダニエルが支えても中々持ち上げられない。骨だからなおさらだ。
「あまり強く引っ張らないで骨が折れそうだわ。」
「待たせたな。」
後ろからデーヴィッドがやって来て、一緒に彼女を救い出した。部屋の方には彼女の熱狂的なファンがやって来た。
「良かった。生きてた。」
アンナのファンの女性が泣いていた。
「周りを気にしすぎなくても十分ファンがいる。骨だろうとファンがいることを忘れるな。」
それにしても芸能関係に携わったことのない俺が有名モデルとこんなに話すなんて凄い驚いてる。
「ジョー、早速お手柄だな。」
「損得の為じゃないからな。」
結局その日は忙しくなりインタビューが出来なかった。