危機
車に乗って帰宅しようとすると、足や腕まで骨になっていた。
「何が起きてるんだ。」
「僕、骨になっちゃったよ。」
車の外で骨になった8歳くらいの子供が泣きわめいていた。俺はしょうがないと思い、車の扉を開けた。
「君、どうしたんだ?」
「お兄さん、誰?」
「俺は通りすがりの男だ。何で泣いてるんだ?」
「ママとパパが僕の姿見て、僕にうちの子じゃないとか言ってどこかに言っちゃったの。探しても探してもママもパパもいなくて。」
「そうか。」
おそらく両親も同じような状況で困惑したんだろう。しかし子供を傷つけるような一言を言うのはどうかと思う。我ながら、こんな状況でも割と冷静だと感じた。
「とにかく、見過ごすわけにはいかない。しばらく俺が面倒を見る。車に乗っていけ。」
「でも知らない人について行ったらママにカンカンに怒られるよ。」
こんな状況でも律儀で、両親のことを思ってる。もしかしたらちゃんとした家庭の生まれなのだろう。
「まあこんな見ず知らずの相手についていくのは良くないな。ママの言うことが怖いならこれ以上何も出来ないな。」
車に乗ろうした時、男の子は俺にしがみついた。
「一人は一番怖い。お兄さん悪いではないよね?悪い人じゃないならママとパパを一緒に探して。」
俺は面倒臭いと思いながらも、面倒を見るのに加えて両親探しを手伝った。
「うわー、怖い。」
俺の顔が骸骨になって、男の子は怯えている。
「俺もなりたくてこんな顔になってるじゃないんだよ。生まれつきの顔もそうだけど。」
俺はバックからお面を取り出して、顔に装着した。
「何それ?」
狐が変顔してるお面を見て、男の子は爆笑していた。
「そんなに笑うな。これでも被らないと怖がるだろ?」
「だって面白いんだもん。」
俺は趣味でお面を集めている。動物のお面や銀行強盗がしそうなフェイスマスクなども集めている。時々コスプレとかもする。
「そういう趣味で常に常備してるんだ。悪いが子供用のはないからな。」
「ねえ、他に面白いお面ないの?他の面白いお面してみてよ!お面屋さんにはじめて会った。」
「話聞いてないな。それに俺はお面屋さんじゃない。」
「そうなの?お兄さん、お面屋さんで生活してるんだと思った。」
小さい頃の夢をふと思い出そうとしていた。中々思い出せない。少なくともお面屋さんでもプログラマーでもないことは分かる。
「俺はこう見えてもプログラマーしてるんだ。」
「プログラマー?カッコいい!」
「プログラマーになりたいのか?」
「テレビやYouTubeに出るような仕事したいよ。とにかく人前にたってみたい。」
「良いじゃん。それより名前聞いても言ってもなかったな。俺はジョーだ。」
「僕はダニエル。小学生で好きな強化は算数。苦手な強化は音楽。ジョーも音楽出来ないでしょ?」
「これでも昔はギターやってたからな。」
「そうなんだ。」
俺は車を運転してる最中、何人か骸骨になってる人を見かけた。よく見ると、空をかける鳥達でさえも骨になっていた。
「そんな馬鹿な。鳥まで骨に?」
運転中電話が来た。
「父さん、何だ?」
「病院にいる人達皆骸骨になったんだ。看護師とかもパニックになってて誰も母さんや俺のこと見てくれないんだ。今から病院に来て。」
おそらく医療崩壊みたいなものが起きているのだろう。
「悪いが今来たところで俺に何ができる?ただ見てることしか出来ないだろう。誰もこの状況を飲み込めていない状況なんだぞ。」
「いるだけでも良い。頼む。」
誰か冷静な奴がいれば心が安定すると思ってるか?俺はダニエルを見て、一瞬無言になった。
「ジョー、どうしたんだ?来てくれ。」
「俺もパニックになってる看護師と同じく、手が離せない用事があるんだ。他をあたってくれ。」
誰も面倒見れないダニエルをほっとくことは出来ず、そのまま電話をきった。
「誰から電話だったの?」
「ダニエルには関係ないことだ。それより家にむかうぞ。」
車の外ではよどんだ空気が広がっていた。
「外怖いよ。」
「外を見るな。余計怖くなるぞ。」
家に着くとすぐに食事の準備をはじめようとしたが、骨の身体の為、お腹は空かなかった。
「ダニエル、何か食べるか?」
「僕、お腹空いてないよ。」
俺だけではなかった。大好物のラーメンの写真を見てもまったくお腹が空かなかった。骨になると思考が変わってしまうのか。しばらく家でゆったりしてると身体全身に痛みが走り出した。今まで感じたことのない物凄い激痛だ。
「ダニエル…」
「苦しい…ジョー、助けて…」
ダニエルも激痛で苦しんでいた。俺には助けられる力もなかった。
しばらくして目を覚ますと、痛みは全く無かった。むしろ何だか軽くなった感じがした。洗面所に行って深呼吸をした。すると鏡に自分の姿が映る。
「何だこれ?」
骸骨の姿なんだが、見た目は怖くなく、売れない下手なイラストレーターが描いたような骸骨だ。
「ジョー、何その顔?」
「指を指すな。」
「もしかして僕も?」
ダニエルも鏡を見ると、自分の姿に驚いた。
「漫画の世界にいるみたい。」
テレビをつけると、骸骨化して国内だけではなく、国外もかなり混乱していた。政治家でも混乱していた。動画配信とか見ても、顔を売りにしてる配信者がほとんどアカウントを消していた。顔を売りにしてるのを隠していても骨になればすぐバレる。同時に暗いニュースも数々流れた。骨になったショック飛び降りなどで自ら命をたった人が急増した。世界全体が暗くなる中、俺とダニエルはそんなに深刻な状況だととらえなかった。特別イケメンでモテモテでもない俺にとって骸骨くらいになったところでダメージはなかった。好きと思った女の子にタイプじゃないとフラれることが人生で何回もあった。気にすることでもない。結局世界中の人が骨として暮らさなきゃいけない世界になる前でも、人間はいずれ骨になるんだから。
「ワンちゃん可愛い。」
ダニエルは犬のマックスとたわむれていた。人間だけではなく、犬や猫も骨に変わっていた。骨になっても、マックスは俺によくなつく。大事な仲間だ。
「マックス、ボールで遊ぼう。」
「ダニエル、もう外は遅いぞ。」
「ボールで遊ぶだけだよ。」
「とにかくもう少ししたら寝る準備をするぞ。奥の部屋は誰も使ってない。自由に使って良いよ。」
そう言えば、おもちゃとか一つもなかった。おもちゃは昔に全部捨てた。大人になると本当に使わなくなるもんだ。俺は子供欲しいと思わないからなおさらだ。
「部屋なにもないよ。ぬいぐるみとかないの?」
押し入れから奇跡的に綺麗な状態のテディーベアを発見した。
「熊さんだ。テディー、遊ぼう。」
テディーを持っていきながらそのまま部屋に行ってしまった。マックスもダニエルを追うように部屋にむかった。
「早速名前つけてるよ。」
使ってない部屋には少し物を置いてるが大したものは置いていない。ダニエルも部屋に行ったので、父さんに電話したが、中々でなかった。デーヴィッドに電話した。
「デーヴィッド、元気にしてるか?」
「まさにクレイジーな状況だったな。いつまでクレイジーな姿でいなきゃいけないのか。おそらく国家の陰謀だな。」
「世界的なことだが、国家の陰謀か分からないな。新たな自然現象か人間が新たな進化をとげたとも思えるな。」
「まあ良かった。骨でお腹が空かないから働く意味なんてないだろ。ちょうど解雇されたかいはあったな。」
予想通り、デーヴィッドはこの状況をポジティブにとらえた。
「骨になった記念に世界中を旅行しようぜ。お前も仕事辞めろよ。」
「辞めるも何も、しばらく皆仕事つけないだろ。俺達みたいな骨になった状況を楽しんでる変人なんて中々いないんだから。」
「そうだな。」
俺は電話越しでデーヴィッドと冗談を言い合った。自分でも気づかないくらい骨の自分に満足してる。