日常の変化
今日もパソコンをカタカタと動かす。頭の中には心を無にしてC言語が頭にたくさん浮かぶ。引き受けた案件が多く、頭の中はまさにコンピューターのようだろう。しかしそれは自分にとってそこまで苦ではない。俺は大学を卒業して、エンジニアになって数年が経つ。最初は自分で案件を取るのにかなり苦戦したが、今は人並みに仕事の依頼は来てそんなに困っていない。そんな俺もいつの間にか32歳。彼女も子供もいないが一人の時間をなんとなく過ごす。
「もしもし、明日お父さんとあんたの所行くよ。そろそろ良い年だから、結婚も考えなさいよ。」
「俺は一人で良いよ。結婚はしたい時にすれば良いだろう。」
母はやたらと俺に結婚を勧める。付き合える異性もいないのに、結婚など出来るわけない。
何かと自由な国だが、うちの家系は父が韓国系アメリカ人で、母が日系と中華系アメリカ人だ。家系的にやたら結婚を勧めてくる。俺は結婚などに縛られず、普通に彼氏彼女の関係でいたいし、一人を好む。時々俺を偏屈男と言う奴もいる。
「おお、ジョー、元気にしてたか?」
あるバーのテーブルの目の前に親友のデーヴィッドがいた。
「最近仕事引き受けてるから中々時間とれなかった。」
お酒の匂いが口に広がる。喉を通っていく。
「お前は仕事に好かれるんだな。少しは仕事のことをふって、新しい彼女作れば良いじゃん。」
「今は作る気がない。でも突然良い人が現れたら良い。」
「何もしないとチャンス失うぞ。別れて1年経つぞ。」
俺は別れた年月も数えていなかった。それくらい最近は仕事とプログラミングのことが頭を覆い尽くしていた。一方デーヴィッドは気分によって仕事をサボりまくったり、成果を残せず解雇になった。仕事がなくても何もなかったかのように色んな所を旅して遊んでる。そんな彼の精神の強さが時々羨ましくも感じる。俺の場合仕事クビになっても大したことではないが、流石に転職はする。良い年してサボり癖があって怠け者だが、悪いやつではない。
「デーヴィッドは彼女と付き合ってもう1ヶ月か。俺にもその幸せくれよ。」
笑いながらデーヴィッドを叩く。
「痛いからやめろよ。ジョー。」
デーヴィッドが幸せそうで何よりだ。俺達は子供の時から付き合いで、2人の間の仲は子供の時のままだった。
「あそこの席に座ってる女性とかシングルマザーだぞ。気になってたら声をかけてみたらどうだ?もしかして俺と付き合いたいのか?」
「適当なこと言うな。」
またデーヴィッドの耳を指でつまむ。
「分かったから。」
俺達はいつものように笑う。大人になっても俺たちの仲は変わらない。ずっと子供の時のままだ。
「デーヴィッドが幸せで何よりだな。今回はいつも以上に優良物件だな。」
「ああ。俺でも女を見る目が無かった。スタイルとかそういうのばかり重視して来たけど、ヒステリックなのはもうマジで勘弁。」
デーヴィッドは何かと振り回されるような恋ばかりしてたので、今回の相手には自他ともに安心している。
デーヴィッドは無職でお金も少なかったので、家まで車で送った。
「もうそろお金ヤバいんじゃないか?ちゃんと仕事見つけろよ。」
「何とかなる。心配すんな。俺のことよく分かってるだろ。それより今度モントリオール旅行しようぜ。もちろんジョーの車でな。」
「何でそうなるんだよ。」
呆れつつも、失業して落ち込んだり体調崩したりしなくて心の中で安心した。何故なら高校時代の時、道で車に轢かれて救急搬送されるような事態があったからだ。あの時は親友ながらかなり気が動転していた。最終的には奇跡的に回復して退院した。
「それほどジョーと親しい仲だろ?」
「そうだけど、何でもかんでも大丈夫なわけないだろ。」
「悪い悪い。」
何気ない日常が変わりだそうとしていた。
スーパーで買い物して、自宅に戻るとゴールデンレトリーバーのマックスがすぐ俺のところに駆け寄った。元々は他の飼い主に捨てられそうになっていたが、その後俺がマックスの里親になった。何があっても、マックスは俺が誇れる仲間だ。
「マックスまたせたな。すぐご飯用意するからな。」
マックスは勢いよくペットフードを口にする。そんなマックスを背中の辺りからゆっくり撫でる。いつもこんな日常だ。
突然、電話がなり響いた。父さんからだ。
「おい、マックス家族が電話してるんだから早くでろよ。緊急事態なんだ。」
「そんなこと言われても俺は部屋の掃除とか食器洗い、マックスに餌をあげてたんだぞ。それよりそんな緊急な用事って何だよ?」
「今から落ち着いて聞け。ジョー。」
「言われなくても聞くよ。」
「母さんの手が突然骨になったんだ。」
「は?何言ってるの?昼間から何のジョーク?冗談言ってるでしょ。」
「嘘なんかじゃない。母さんはさっきその手を見て気が動転して失神して、救急搬送されたんだ。」
「何がなんだか分からないけど、今すぐ車で行く。話は着いてから聞かせてもらう。」
「頼んだぞ。」
父さんの言ってることは明らかに嘘ではないのが分かる。でも母さんの手だけ突然骨になるなんて何を食べたり、身につけたりしたらそうなるのか中々検討がつかない。急いでるところにマックスが近づいて来た。
「マックス、悪いが行かせてもらう。ただ事では無さそうなんだ。」
マックスは寂しそうに俺を玄関まで見送った。車に乗ってしばらく移動すると、渋滞に巻き込まれてしまった。
「クソ!早く動きやがれ、このポンコツ集団め。」
あちこちでクラクションの音が鳴りまくり、皆イライラしてる様子だった。後ろにいた車がわざとぶつかって来た。俺はとっさに降りて、文句を言いに言った。車には俺と同年代くらいのカップルが座っていた。
「おい、今わざとぶつけただろ?へこんだんだけど。」
「こっちは急いでんだよ。」
「謝罪なしか?それに急いでるのはこっちも同じだ。」
「お前の思ってる以上にこっちは緊急事態なんだ。」
「そっくりそのまま返すよ。そのセリフをね。」
女性も一緒に俺に怒った。あちこちでクラクションが鳴り止まない。他にも俺達のように、言い争いしてる運転手が何人かいた。
「ちょっと早く戻ってくれない。」
「クソ、何でこんなことに。」
男はかなり焦ってる様子で、スマホで写真を見せて来た。衝撃的な写真だった。
「これを見ても、緊急事態だと思わないのか?俺の親父の腕が全部骨になってるんだぞ。」
これはただの偶然なのか。
「俺の母親だって同じだ。」
見てもいないけど、母さんは手だけ骨になってる状態だった。しかし男の父親はもっと重症だった。周りの人達も俺達と同じようなことを言い争っていた。
「とにかく後で弁償してもらうから。」
「そんなことより、このままだと進めないから空いてる車で移動したほうが速い。」
そのまま空いてる車に乗り移り渋滞を抜け出した。ようやく病院についたがかなりの人が集まっていた。しばらくすると俺の指に少し違和感を感じた。見てみると指が骨になっていた。焦った俺はとっさに手袋をした。
「何だこれ?俺の指が…」
「俺も同じだ焦るな。今は父親に会いに行くのが先だろ。」
病院前も人だかりでパニック状態だった。1時間後くらいにようやく俺達は親のもとに行けた。
「そう言えば名前なんて言うんだ?ケンジとか?」
「勝手に決めるな。俺はジョーだ。」
「俺はジョンだ。また会おうな。」
「もう二度と会わないけどな。車で送ってくれたことだけは感謝するよ。」
そんな一言を吐き捨てて、病室に行った。母親の姿を見ると完全に骸骨になっていた。
「ジョー、びっくりするかもしれないけど、これが私なの。」
「母さん、声とか雰囲気で分かるよ。」
姿を見られたくないためか布団の中に隠れながら話した。
「父さん、その腕…」
父さんの腕も骨化していた。看護師さんの足も骨になっていた。何が何だか分からない。何かの伝染病なのだろうか?しかし誰も身体の痛みは感じていない。痛みを感じない感染症?もしくは魔法の力?不思議なことに出血もしてなくて骨になってる。時間が過ぎるたびに俺の手も骨になってしまった。
「何で俺まで。ジョー、お前は大丈夫か?死ぬなよ。」
「いや生きてるけど父さんと同じ状態。」
俺は手袋を外して、骨になった手を見せた。俺は訳も分からず病院を飛び出した。病院を出ると骸骨になった人や部分的に骨になってる人がほとんどだった。