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4ニョロ

※蛇の給餌シーンがあります。苦手な方は読むのを控えてください。

 帰路、いつものスーパーマーケットに寄って店内をそぞろ歩く。


 今日はコーヒーを三杯流し込んだせいか、何を見ても食指が伸びない。結局、昨冬以来ご無沙汰だった一人鍋というソリューションに消去法で辿り着き、薄切りの豚肉を手に取る。


 ついでに箱入りアイスも掴んでレジへ。保冷剤にもなるし、一石二鳥。もしくは、一咬二鼠か。二匹の鼠に同時に咬みつく蛇は見たことないけれど。




 さて、帰宅したは良いが、肝心の土鍋が何処にも見当たらない。困った。記憶を探る内に、ボア科屈指の水好きであるイエローアナコンダに水入れとして貸与していたことを思い出した。


 ちょうど良いから水も交換してやろう……という私の親切心など伝わるはずもなく、いきり立つアナコンダの顎をスネークフックで躱しつつ、土鍋を取り返す。


 こうして鍋の中で無事にグツグツ煮立つことと相なった、キャベツと豚肉。この組み合わせ、ポン酢にひたして口に運べば美味くない訳がない。餌を頬張る蛇達も、こういう感覚を覚えるのだろうか。


 そういえば、「蛇達と食材をシェアすれば効率的なのでは」というフラッシュアイデアを検討したこともあったが、流石にやめておいた。グラム換算すると、冷凍マウスはどうしてもコスパが悪いのだ。仕方がないので、現状はせいぜいウズラ卵をタマゴヘビとシェアする程度に留めている。


 でも、アルがもう少し大きくなったら、鶏肉や豚肉をシェアできるだろう。想像すると、胸の内がほっこりしてくる。ほっこりと言えば、湯煎していたマウスがそろそろ解凍できているはず。ほっこり仕上がっていれば良いのだが。



 基本的に、アダルトサイズの蛇には週一回を目処に餌を与える。日誌を開いて、腹を空かせてそうな個体を頭の中でリストアップしていく。


 マウスに触れてしっかり解凍されていることを確認したら、木製トングで掴んで順に鼻先で揺らしていく。


 暫く躊躇いを見せてから、そっと咥えるコーンスネーク。一方、ケージの前に私が立っただけで鎌首をもたげて臨戦態勢に入るのは、食欲旺盛なカーペットパイソン軍団。


 樹上性で神経質なグリーンツリーパイソンには置き餌にして放置。私が見ていないタイミングで登り木から頭部を垂らし、長大な牙を突き立てて締め上げながら飲み込んでいく……



 小一時間が経つ頃には、解凍した二十匹のマウスすべてが愛蛇達の胃に収まっていた。餌を与える予定のない個体もコンディションを確認しながら、水を交換したり排泄物や脱皮殻を片付けていく。


 さらに一時間があっという間に過ぎた。



 飼育下で蛇の寿命は短くて十年、アルみたいな中型種や大型種になると二十から三十年生きる個体もいる。彼らの天寿が尽きるまで、飼い主である私には細く長く生きることが求められる。


 細く長く、まるで蛇みたいに。

 浴槽に身を沈めながら得たその着想に、口元が綻ぶ。


 夜行性の蛇達がそろりと這い出してくる夜半、入れ替わりにシーツへ身体を滑り込ませる。


 蛇飼さんの休日が、静かに閉じていく。




(了)

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