ボットン便所
こちらは百物語六十四話になります。
山ン本怪談百物語↓
https://ncode.syosetu.com/s8993f/
感想やご意見もお待ちしております!
昔、動画配信者をやっていた者です。
皆さんは「ボットン便所」と言われるトイレを知っていますか。
トイレと言えばもう水洗トイレですが、ボットン便所は汲み取り式トイレなんです。
都会ではもう見なくなりましたが、田舎の方はまだこのタイプのトイレが生き残っていたりするそうです。
当時遊び感覚で動画配信をやっていた私は「ボットン便所の中をカメラで撮影してみた!」という動画を制作することにしました。
必要な機材と時間は確保できたのですが、撮影可能なボットン便所がなかなか見つからず、困った私は「廃墟」の中にあるボットン便所を使うことにしました。
場所はM県にある「Gホテル」の廃墟。
ここはかなり古いホテルだったらしく、1階の従業員トイレがボットン便所だったとネットの情報で知りました。
私は車でGホテルへ向かうと、すぐに目的のボットン便所を探しました。
「やっぱり荒らされてるなぁ…ボットン便所は無事だといいけど…」
予想通り廃墟の中は荒れ放題。トイレの中もかなり荒らされていると思ったのですが、意外なことに従業員トイレは綺麗なまま放置されていました。
「よし、早いところ撮影して帰ろう」
ボットン便所の数は4つ。私は一番奥のボットン便所を選ぶと、すぐに撮影を開始しました。
ボットン便所の撮影は、小さな隙間にも入る小型カメラ使います。暗い場所も撮影できるよう色々と細工しながら、カメラでボットン便所の中を撮影していく。
「さすがに中は何も残っていないか。でも面白い動画が撮影できそうだ」
ボットン便所の中を細かく撮影しながら、少しずつ取れ高を稼いでいく。
「よし、次は奥の方を…」
カメラをさらに奥へ進ませようとしたその時…
ゴツンッ!
カメラが何かにぶつかりました。
「ありゃ、石でも入ってたのかな」
ボットン便所の中に入っていた異物にカメラが引っかかってしまい、上手く動かすことができなくなってしまいました。
「石じゃないな…草の塊かな…?」
異物は何だかモジャモジャしており、カメラに絡みついて離れない状態になっていたのです。
「おいおい…これって…まさか髪の毛か…」
カメラの画面をよく確認してみると、それが草ではなく「髪の毛」であることがわかりました。
「どうしてボットン便所の中に髪の毛の塊が…?」
絡みついた髪の毛を振り払おうと何度もカメラを上下左右に振ってみる。しかし、髪の毛は離れるどころかさらに絡みついてきました。
しかも…
「重いなこれ!どんだけ髪の毛絡みついてんだ!?」
髪の毛が絡みついたカメラは2倍以上重くなっており、片手だけでは疲れてしまうほどの重さになっていたのです。
「これ…本当に髪の毛の塊だよな…まさか…」
そんなことを考えていた途中…
ブチンっ!
髪の毛の千切れる音が便器の中から聞こえてきた。
それと同時に、髪の毛の「主」がカメラに向かって突如姿を現したのです。
「ひぃ!?」
カメラの画面に映し出されたもの。
それは血走った人間の目でした。
その目は画面の向こうにいる私を威嚇するように睨みつけた後、いきなり画面の中から消えてしまったのです。
「………はっ!?」
こちらを睨みつけていた目が消えると、カメラは何事もなかったかのように軽くなっていました。
私は慌ててカメラを回収すると、逃げるようにGホテルから出て行きました。
数日後、私はネットでGホテルの過去について調べてみることにしました。
すると…
『Gホテルでバラバラ殺人事件!犯人は遺体を『トイレ』に捨てて逃亡!?』
そう書かれたネットニュースの記事がたくさん出てきました。
動画企画は中止になり、私は二度とあのGホテルへ近づくことはありませんでした。