夏の終わりの幻 上
夏のある日、私は家の近くにある川へと来ていた。
夏休みももう終わる。
週が明ければまた学校へ通わないと思うと気が遠くなる・・・
宿題などは終わっているが学校へ行くような気分ではない。
だからと言って友達と遊び足りないわけでもないし学校が嫌いなわけでもない。
私の心の中は夏の眩しい日差しとは正反対の曇り空だった。
川辺で日差しを浴びながら流れる水を眺める。
ここにいても心の中に晴れ間が差すようなことはない。
ただ家よりはマシなだけだ。
はぁ・・・とため息がこぼれる。
いくら悩もうが解決しないであろう悩みを永遠と考えていると・・・
「どうしたのー?」
と後ろから女の子の声がした。
「え?」
と驚きで心臓が飛び出るかと思った・・・
ここで人に話しかけられることがあるなんて思いもしなかった。
どことなく声があの子に似ている・・・じゃないなにか返さないと!
返す言葉を考えていると
「わっ!?あっえ、えと・・・!ごめんなさいいきなり話しかけちゃって!」
なんであなたまで驚いてるの・・・
「こちらこそごめんなさいこんな所で話しかけられるとは思わなくて」
「そ、そうですよね!あんまり人も通らないですもんね!」
少女はなにやら慌てていた。
変な子と思われたくなかったのだろうか。
少女の言う通りここは地元の人ですらほとんど通らないようなところだ。
田舎過ぎて人がいないだけというかもしれないけど・・・
それにしてもこんな子この辺りに住んでいたかな?
帽子であまり顔が見えないが年もあまり変わらなそうだし夏の帰省だろうか?
考えても埒が明かないので聞いてみることにした
「あなた見たことない事ない気がするけどこの辺りに住んでるの?」
「あ~・・・えーと・・・いえ!住んでないです!」
なんの間だったのだろう・・・
「帰省とか?」
「そ、そんなとこ・・・です。」
煮え切らない返事だったけどまあいいか。
「なにか落ち込んでるんですか!!」
急に声でか!びっくりした・・・
それにしても・・・
「私そんなに負のオーラ出てたかな?」
「ご、ごめんなさいそんなつもりじゃないんです!ちょっとため息が聞こえてきて後姿が暗くて・・・えーと!そう!暗かっただけです!!」
そんな暗い暗い言わないで・・・傷つく・・・
フォローされてる気がしなかったというかフォローする気あったのだろうか。
「そ、そそそそれで!なにかあったんですか?」
おろおろしながらももう一度聞いてくる少女にふっと笑ってしまう。
「な、なんで笑うの!」
少女が頬を膨らませながら怒る。
可愛い。
「ごめんごめん可愛いなと思っただけ。なんでそんなに気になるの?」
「なんとなく気になって・・・だってあんなでかいため息初めて聞いたんですもん!」
ため息がでかかったと言われるとなんだか恥ずかしい。
「ちょっとね、悲しいことがあってここでぼーっとしてれば少しは気分も晴れるかなーって思ってたんだ。ほら!日光浴びたほうがいいって言うじゃん?」
「夏の真昼間にずっと浴びてるのは逆に健康じゃなくなりそうではありますけどね・・・」
確かに。
日焼け止め様にも限界はあるだろうしね・・・気をつけよ・・・
「お姉さんは今悲しいんですか?」
ぶっこんでくるなーこの子・・・
「悲しいというか・・・寂しいというか・・・」
どう話したものか悩んだが私は正直に話すことにした。
「妹がね、病気で死んじゃったの。」
「・・・」
少女は黙ったまま聞いている。
「元々体が弱かったんだけどまさかこんなに早くいなくなっちゃうなんて思ってなかった。だから何も・・・姉らしいことができなかったんじゃないか・・・もっと優しくしてあげられれば良かったんじゃないかとかずっと思いながらここでぼーっとしてたんだ。」
本当に今更悔やんでも仕方ないことだ・・・だってもう妹はいないのだから。
私は両親に妹のことについて胸の内にある後悔や悲しい気持ちをあまり話さなかった。
だって辛いのは私だけじゃないから。
「ねえ・・・私は良い姉だったのかな?」
ふと心の中でずっと思っていたことを口に出してしまう。
今日初めて会った少女に言ってどうすると思いながらも口に出してしまった。
「ごめんね!そんなこと言われても困るよねってうわっ!」
謝ろうとした瞬間私は後ろから抱き着かれていた。
「妹さんはきっと幸せだったはずです!今の話だけでも妹さんのことをよく考えている優しいお姉さんだと私は思いました!大丈夫です!」
と涙交じりの声で言ってくれた。
「今の話だけでそこまでわからないでしょー」
嬉しいながらも少し茶化してしまう。
「わかりますよ。だって妹さんのことが大好きなのは十分伝わりましたから。それだけで十分ですよ・・・妹さんだってお姉さんのことが大好きだったはずです!私が保証します!」」
それでも少女は真剣に返してくれる。
「そう・・・かな?ありがとう。」
私はうまく返すことができなかった。
本当は涙が出そうなほど欲しかった言葉だった。
妹にも大好きな気持ちは伝わっていたのだろうか。
我ながら単純だと思ったが少女に言われて少し心に晴れ間が差した気がした。
私はいつの間にか完全に号泣し始めてしまった少女の頭を帽子越しに撫でてあげた。
昔は妹にもしてあげたなぁ・・・なんて思いながら泣き止むのを待った。
「ごめんなさい泣いてしまって・・・私が泣いてどうするんだって感じですよね。」
「ううん。良い姉だったかはあの子にしかわからないけどあなたのおかげで少しは自信持てたし元気出たよありがとう。」
「大丈夫、お姉ちゃんは素敵なお姉ちゃんだよ。」
抱き着く腕の力がぎゅっと強くなる。
私はお姉ちゃんと呼ばれついドキッとしてしまう。
「ごめんなさい!ついお姉ちゃんって呼んじゃいました!恥ずかしい・・・」
それにしても謝ってばかりだなこの子・・・
「そんな謝らなくても気にしてないって、大丈夫だから。」
「うん・・・」
まだ少ししょんぼりして下を向いていたけど泣かれずには済んだようだ。
「そろそろお家帰らなきゃ・・・」
気が付けば日も暮れていた
「じゃあ帰ろうか。」
元気出させてくれたお礼は言わなきゃね!それと・・・
「あなたのおかげで元気出てきた!まだこっちいるなら明日も私はここにいるからまた会ってお話ししようよ。」
余り人をこうやって誘うことはないのだがまた話したいと思い誘ってみる。
「明日には帰っちゃうから会えないかも・・・」
としょんぼりしながら話す少女。
会えないのかぁ…残念・・・
「そっかー正月とか来年とか来るならここ見に来てよ!私いるかもしれないからさ」
「うん!また来たらここに来てみるね!お姉ちゃんに会うの楽しみにしてる!」
「約束だからね!またね!」
「うん!約束!またねお姉ちゃん!来年!」
と指切りを交わして自分の家に帰った。
またすぐ会えるといいな・・・
そういえば後ろから抱き着かれたり帽子だったりで顔あまり見えなかったなぁ・・・どんな顔してたんだろう?
ていうか・・・名前すら聞いて無くない?私も名乗ってないし・・・
それからもう二度とあの少女と会うことはなかった。
両親に聞いてもみたがこの近くにそんな歳の子供が帰省している家なんてなかった気がするとい言われてしまった。
もっと遠くの家の子なのだろうかそれともあの日に見た少女は夏の終わりの幻だったのだろうか・・・なんちゃってそんなわけないか。
またいつか会えたらいいな。
初投稿です!初めて書いた作品なのですが良ければ最後まで読んでいってください。