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おもいつき短編集

YES MAN〜ギルドをクビ? ちげーよこっちからやめてやるんだよ!〜

作者: ジッタK
掲載日:2020/12/24

俺はイェスマン。

否と言ったことがない。

てゆーかぁ。

呪われてんだよね。

親の三角関係のイザコザでさ。

親父が振った女が魔女だったとか。

詳しいことを聞く前に両親とも死んじまったから、よく知らねーんだけど。

とにかく俺は魔女の呪いでノーと言えない体になっちまった。

めっちゃ苦労したね。

「パン買ってこい、ダッシュで」

なんて言われようもんなら、ホントに買いに行かなきゃ気がすまなくなる。

たとえパン屋が山向こうにあろうと、ダッシュで。

「死ね」とか「この壷を100万で買え」とか言われなくて良かったぜ。

言われたら人生詰んでた。

まとめると。

どんな命令(あるいはお願い、提案、推奨)にもハイと言ってしまう。

ハイと言ったことを達成できないとすげー嫌な気分になる。

このふたつがセットで俺を呪ってくれている。

んなわけで、俺はストレスフルな日々を過ごしていたわけ。


でもって今日。


「今日限りでお前はクビだ。とっとと荷物をまとめて出ていけ」


「はい、分かりました!」


ギルマスに言われて、俺は元気よく返事をした。

そしてとっとと荷物をまとめる。

俺がすがりつくとでも思ってたんじゃねーの?

拍子抜けした顔のギルマスを無視して、俺はギルドハウスをあとにした。

これで自由だぜ、ひゃっほい!


まぁ俺は。

それほど頭がいいわけじゃねぇが。

なんでもかんでも言われたことすべてにハイハイ応えて平然としていられるほどマヌケでもねぇ。

で、考えたわけ。

つーかむしろ考えない時間がなかった。

どうやったらこの呪いから逃れられるかを。

そしたらなんか?

時代が追いついたっつーの?

最近すげーアイテムがでてきたじゃん?

あのあれ、ワイヤレスイヤホン。

そうあのちっこいヤツ。

しかもノイズキャンセリング機能付き!

ノイズってあれだよな?

不条理な命令とか、コッチの都合を無視した命令とか、相談の体を装った命令とか、そんなんだよな?

それをキャンセリング!

控えめに言って希望に燃えたね。

まぁ実際は思ったほどキャンセリングしてくれねーんでいろいろ小細工が必要だったわけだが。

こいつのおかげで人生変わった。


自分で言うのもなんだか、俺は優秀なギルド構成員だった。

探索でも事務作業でも言われたことは卒なくこなすし、残業も休出も否と言わねぇ。

上から見りゃあ、使い勝手のいい駒だったろう。

んで、こき使われた。

挙げ句、失敗しようもんなら、烈火のごとく責めやがる。

一応説明しとくけど、受けた仕事を絶対に成功させる、なんて効能は呪いにはねぇ。


「手をはばたかせて空を飛べ」


と言われても、空を飛ぶことはできねーんだ。

もういいと言われるまで、手を振り続けることはあるとしても。

でもって俺はすげー嫌な気分になる。

だから俺は頑張った。

仕事を失敗しないためのスキルアップに残った時間すべてを費やした。

当然無茶ぶり増えまくり、こき使われすぎの悪循環で。

過労死を意識しはじめた頃、俺はワイヤレスイヤホンを知った。


んで。

ノイズキャンセリング機能を改良するために電子工作を学んだ。

外界音を完璧に遮断する音源を作るためにDTMもやった。

ワイヤレスイヤホンを隠すために、髪を少しだけ伸ばした。

あと読唇術を少々。

そして。

理不尽な命令がくだされそうになった瞬間、スマートウォッチをタップし、ノイズキャンセリング機能を最大にして、登録しておいた音源を再生させた。

その結果、俺は仕事を失敗しまくった。

もちろんわざとだ。

もちろん怒られまくったが。

もちろん俺は平気だった。

つまり。

相手が何か命じようとしている時に、俺はたまたまイヤホンで自作音楽を聴いていた。

だから相手が何を言っているのか分からなかった。

俺はハイハイ言ったかもしれねーが、それは音楽に対する合いの手で、相手の命令を許諾したという意味でのハイではない。

長髪でイヤホンが見えないので、相手はそれに気づかないが、そんなこと俺の知ったこっちゃねぇ。

命令とは関係なく俺は自発的に仕事を手伝うが、力足らず失敗してしまう。

しかしそれは命じられて行ったことではないので、呪いが発動してすげー嫌な気分になることはない。

完☆璧。


でもって昨日。


「俺は晴れて自由の身となったわけだ、ひゃっほい!」


ローカル線のベンチシートはガラガラで、ひとり言もデカくなろうってもんだ。

目的地は山奥ダンジョン。

暫定無職の俺は探索のため一月分の食糧等を用意して、そこに向かっていた。

時刻は午前10時すぎ。

昨日は退職の手続きやら探索の準備やらで寝不足。

今朝も早よから出てきたせいで眠い。

古い車両と狭軌道の織りなすリズムは俺を夢の世界に誘う。

とかなんとか。

車窓から紅葉した山々をぼんやり眺めていると、車内にアナウンスが流れた。


『次は〜。山奥〜山奥〜。お降りの際は〜、お忘れ物のないようお気をつけください〜。次は〜山奥〜』


幸いなことに、不特定多数を相手にした言葉に対して、呪いが発動することはない。

しかし俺はアナウンス通り、降りる準備をはじめた。

忘れ物がないよう気をつけながら。


駅から山奥ダンジョンまで車で1時間かかる。

歩きだと5時間くらい?

昔はシャトルバスがあったそうだが、不人気なダンジョンゆえに今はもうない。

ひび割れたアスファルトを俺は歩いた。

落ち葉を踏みながら歩いた。

落ち葉を踏みしだく音を楽しみながら歩いた。

暫定無職の俺は。

命令されてでなく、スキルアップのためでもなく、呪いから逃れるために頭を悩ます必要もなく。

ただ歩いた。

もしかして、生まれて初めてかもな。

とかなんとか。

休憩をはさみつつ、目的地に到着。

辺りには俺以外誰もいない。

さすが、年間踏破者数が小数点以下の不人気施設。

ダンジョン入り口のゲートは木製で、それは斜めに傾いていた。

俺は隙間をくぐり、ダンジョンに入った。


ダンジョンの中はある意味快適だ。

なにしろ人語を発するモンスターはいない。

俺にわかる言語で命じてくれないと、俺はそれに応えることはできない。

人を見れば襲ってくるモンスターたちを、俺は片っ端から斃していく。

一応説明しとく。

俺がいまやってるのはレベル上げだ。

モンスターを斃すと経験値がもらえて。

経験値が一定の基準に達するとレベルが上がる。

レベルが上がると身体が強化される。

なんともふざけた現象だけど、ダンジョンが地球上に発生して以来ずっとこのルールなんだから文句はねぇ。

スキルアップは頑張ったけど、レベルアップにはとんと縁がなかったんよね。

なにしろギルドの奴ら俺をパーティーに加入させずに探索手伝わせるんだもん。

普通に考えりゃ訴訟もんだぜ?

ま、ようやく自由になれた俺が。

はりきらない理由はない。


8日後。

山奥ダンジョン最深層に到着した。

俺のレベルは4から10に上がっていた。

ステータスカウンターで確認した。

間違いなくレベル二桁になっていた俺は感動の雄叫びを。

挙げなかった。

ダンジョン内で騒ぐとモンスターが寄ってくるからな。

あと、こんなの大したことないねって流したほうがクールでカッコいいからな。

誰も見てないけど。

ダンジョンコアは透明な超高強度素材の中心でほのかに輝いている。

宙に浮かんでいるみたいだ。

この透明なやつに触れれば、俺のステータスに踏破実績が記録される。

当然のことだが、暫定無職の俺は、これからソロの探索者としてやっていこうと思っている。

後ろ盾のないソロにとってはこーゆー踏破実績がけっこう大切なわけ。

俺のキャリアはここから始まると言っても過言ではない。

とかなんとか。

問題は。

俺が透明なやつに触れてから、ダンジョンコアの明滅が激しくなって、いまにも爆発するんじゃないか、みたいな。

あれ、えっと?

おかしいな?

こんな現象訊いたことないんだけど?


目が覚めると俺は小さな部屋の固いベッドで横になっていた。

牢屋みたいな部屋で岩盤浴みたいなベッドだった。

身体を起して、ベッドに腰かけてみる。

そしたらビビったね。

部屋の隅っこで怪しげなおっさんがこっちをじっと見てるのに気がついたんだから。

思わず「おわぉっ」とか声が出ちまったぜ。

目が合うとおっさんはニヤリと笑って言いやがった。


「目が覚めたようだな探索者君。さっそくだが君にお願いしたいことがある」


俺はスマートウォッチをタップした。


「ーーーーーーーーーー」


ははっ何言ってんのか分かんねーよ。


「ーーーー? ーーー! ーーーーー!?」


なんだよこのおっさん。

そしてここはどこだよ。

よく見ると壁とか床とかはダンジョンのものと似てやがる。

つーことはここは山奥ダンジョンの一室か?


「ーーーーー! ーー! ーーー! ーーー!」


つーかよくしゃべる奴だな?

俺、帰ってもいいっすかねぇ?

だる。

30分くらい喋り続けたおっさんはとうとう諦めたのか頭を横に振った。

そしてどこから取り出したのか知らねーが、水っぽい何かの入ったグラスに口をつけていた。

俺、帰ってもいいっすかねぇ?


『あらためて。私の〈声〉がわかるかね、探索者君?』


!!!!!

こいつ、脳内に直接!?!?!?

やべー!

さっきこいつお願いとか言ってやがったし。

このままじゃ、俺の自由時間が終わってしまうぅぅぅ。


てかさ。

俺って所詮レベル10のビギナー探索者じゃん。

でさ。

もうわかってると思うけど、このおっさんはダンジョンマスターみたいなもんじゃん。

まあさ、今まで報告がなかったからって、言葉を話すモンスターが絶対存在しないって証拠はないわけで。

それがいま覆されたわけで。

つーか。

脳内に直接は卑怯だろ。

対処しようがないじゃん。

え、あるの?

そ~ゆースキルが。

駅前のスキルアップ講習で取得できますかねぇ?

あ、やっぱ無理っすか。

終〜了〜。


話をまとめると。

おっさんはやっぱりダンジョンマスターで。

利用者が少なすぎるせいでみかじめ料が払えず破門。

故郷に帰ることにしたから、たまたま現れた俺にこのダンジョンを譲る。

ってことらしい。


つーかみかじめ料ってなんだよ?

破門ってどこからだよ?

故郷ってどこにあんだよ?

ダンジョンって譲れるもんなのかよ?

そもそもダンジョンマスターってなんだよ?

と、まとめてツッコミ。


まあ。

いらねーよ、ダンジョンなんて。

と、思ったんだけどね。


結局、押しつけられる感じでダンジョンを受け取った。

頼まれるといやと言えない男なんだわ、俺って。

脳内に直接、ってやつの対処スキルを取得するまではね。

ま、頑張ってみよーかなと。

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