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【神池】

作者: 赤茄子





これは、ひと夏の不可思議な思い出。





私の叔母の家の近所には、【神池】という小さな神社がある。

水神様を祀る小さな神社でその中にある池が地元では有名な場所だ。

池の近くにある急勾配の階段を登っていくと小さな神社がありそこかれ見える海は本当に美しくて観光客なんかは涙が出そうなほど美しいというほどである。

しかし、絶対に神社の祠には触ってはならないと言われていた。

中に入ってもいけない、お社から離れた場所に設置された賽銭箱以外には絶対に触れてはならない。

それがこの神社の約束事だ。

それこそ私の祖母の祖母の代からずっとずっと言われてきたことで【神池】の生き物も虐めたり不敬なことは絶対にしてはならないという言葉がずっとずっと語り継がれてきた。

神社の社に触るなんてことは、常識があれば絶対にしないことだ。

それに生き物を虐めるなんてことも常識と一般的な倫理観があればしないことだ。

だから、これはただの子供に対する常識を付けるためのものなんだろうなと…私は思っていた。




その日は、本当に暑い日で海も綺麗に澄んでいて観光客も多いとても忙しい日だった。

小遣い稼ぎに、夏季休暇や冬季休暇によく地元でアルバイトをしていた私はその日も親戚の民宿で泊まり込みのバイトをしていた。

程よく扱き使われながらお客さんの相手をしていた時だった。

大学生の泊まり客が「近くに観光地はないか?」とフロントに尋ねてきた。

三人グループで言い方は悪いが[感じの悪い]お客さんで私はあまり話したくないなと思ったがそんなわけにもいかず内心ため息をつきながらこの辺りの観光マップを渡した。

彼らは、地元民しかしらない場所がいいと笑ったが私はどうにも彼らが信用出来ず【神池】のことは話さなかった。

地元の神様のお家にこんなの入れたくないという純粋な思いからだったが彼らはあまり納得していないようだった。

インターネットで調べたら近くに神社があるらしい、そっちに行こうと三人組の一人が言った。

内心舌打ちをしつつオススメはしませんよ、なんにもないところですからと言って会話を止めた。

感じの悪いバイトだと思われただろうが三人組自体にもう関わりたくなかった。

それから他のお客さんの相手をしながら夕飯の支度や部屋の案内などしているうちに三人組のことをすっかり忘れてしまった。

叔母が「客が足りない」と言った。

今日の泊まり客が70人ほどで夕飯も余りはあっても二人分程度なのに五人分残っているのだという。

確かにそれはおかしいと思ったが叔母が顔をしかめて「嫌な予感がする」といった。

私もそれは思っていたことでなんだか風が肌にベタつくような不快感もするしぞわりと悪寒がした。

20時を過ぎてようやくあの三人組がやってきた。

夕飯の時間ギリギリに帰ってきたことで叔母は顔を顰めたがそれよりさっさと食べてしまって欲しかったのか夕飯の準備を始めた。

三人組は、ケラケラと笑いながら観光地について何にもないといいながらこれだから田舎はと嘲笑った。

心底不快であったが客だから仕方ないと夕飯の皿を並べてさっさと奥に引っ込んだ。

「…なんだか【神池】がおかしい」板前さんがそう呟いたのを聞いて叔母が顔をゆがめた。

心底、面倒だというような顔で私も似たようなものだっただろう。

板前さんは、地元の人間でずっと奉納の儀を納めてきた家の人間でもあった。

人一倍、神社の変化に敏感で変な話、霊感のようなモノをもっている人だった。

「とりあえず明日見に行ってこよう…今日はもう遅い。夜中にはいると【連れてかれる】からお前ももう上がりなさい。」

板前さんは、そういってそっと私の背を押して従業員用の客室へと行きなさいと強く言った。

後片付けも残っているのに良いのかな?と思いながらもとりあえず板前さんの言う通りに部屋へと戻ってその日は寝た。


翌日、朝食も終えて他のお客さんが帰っていく中で三人組の一人が私に声をかけてきた。

「なあ、鯉の骨って溶けるっけ?」訳の分からない質問だった。

【神池】には大量の鯉がいるがあれはただの鯉である。

魚の骨が突然溶けるなんてはずは無い。

意味が分からないと思ったのが顔に出たのか三人組の一人は「なんでもない」といって笑ってそのまま三人組揃って帰っていった。

確か、あの人たちは自前の車だったなと思い出しながらなんとなく気になってその様子を見ていた。

「…ーーちゃん、見ちゃいけんよ。あれはもう駄目さね」

いつの間にか来ていた坂の下にある民宿の女将さんがそっとそう言って私の手を引きそのまま建物の中へと引っ張りこまれてしまった。

なにが駄目なのかさっぱり分からなかったがなんとなく嫌な予感がした。


プルルルル、プルルルル


次のお客さんをいれる準備をしているとフロントの電話が鳴った。

「はい、ーーーーーです。ご予約ですか?」

大体、昼頃にかかってくる電話は、予約の確認か魚屋か豆腐屋だったのでそういうと焦ったような男の声がした。

「ふざけんじゃねぇぞ!!!おい!!!

お前!!あの神社なにがあんだ!!!!正直にいえ!!!!!!」

怒鳴りつけるような声に思わず電話口から耳を離した。

なんのことだか、さっぱり分からないしあんまり関わりたくないなと思った。

「駅から出られない!!!助けてくれ!!!なんで!こんな、!、なんで?!!、」

鯉の骨が溶けるとかなんとかいっていたあの男の声がして私は更に顔をしかめた。

なんて悪質なイタズラなんだろうと…その時本当にそう思ったのだ。

「たすけて!!!!!なんでもするから!!!

ここから出して!!、!!」

半狂乱になった男達の声に顔をしかめてそのまま電話を切った。

本当にその時はなんとも思わなかったのだ。

なんて酷いいたずら電話だろうと、この忙しい時になんてはた迷惑なと苛立ったくらいだった。

それから三日間、私は彼らのことを思い出すことも無かった。

板前さんが【神池】でなにかあったらしいと言って神主さんや神職の人達が集まって話し合いをしていたがそれもたまにあることでなんとも思わなかった。

「こんにちわ、ーーー警察署のものですが」

そう言ってやってきたのは、近くの町の警察署の刑事だった。

ドラマみたいだなと思いながらその刑事さんの話を聞くとどうやらここの泊まった客が行方不明で一人が最近変死体として見つかったのだとか。

なんて物騒な世の中だろうと思ったが自分には関係ないと思ったので宿の女将である叔母を呼んだ。

そのまま部屋の掃除をする為に四階に上がるとなんだか肌が泡立った。

[たす……け、……]

どこからか変な声が聞こえた。

どこかで聞いた覚えがある気がするのに全く思い出せない。

[ふふ、ふふふ]

綺麗な歌声のような美しい笑い声が廊下に響いて思わず布団をあげる顔をあげた。

ただの空耳だといえれば良かったがなんだか聞き覚えがあったのだ。

そう、神社のお祭りで聞いたのだ。

ふと気になって【神池】の方をみた。

なんとなく見てはいけない気がした。

いつもと変わらぬ美しい海と森がある。

なのに【神池】のある場所だけ異様に目がついた。

そうだ、あの池は…そう、地元の人間以外があそこの生き物や水に触れると祟があるのだった。

「……そう、だ…気にしちゃいけないんだった」

そう、気にしてはならない。

地元の人間は、あそこは神聖な場所であることを知っている。

気難しい神様がいることも、あそこの池には恐ろしく美しい鯉と亀がいることも知っている。

だからこそ、近寄ってはならなかった。

そっと記憶に蓋をして大きく息を吐く。

魅入られてはならない、気がついても知らぬフリをしなければならない。

気に入られたら【連れてかれる】から。




「それで、電話の復歴がここにありましてね?

だれか彼らと話していませんか?」

刑事さんがまだフロントで叔母と話しているのを見てあぁ、そういえばと思い出した。

「私、はなしたと思います。」

そういうと刑事さんは、ひとつ頷いてどんなことを話したのかと聞いてきた。

「なんだかおかしなこと言ってて…駅から出られないとかなんとか」

そういうと叔母がさっと顔を青ざめさせた。

刑事はそれに気が付かなかったようでひとつ首をかしげた。

「そりゃおかしいな…この辺りに駅なんて無いはずなんだが…」

「そうなんですよ。祖母の時代に落石事故があってからここに電車は通ってないんです。

駅も線路も藪と森に飲み込まれちゃってもうどこにあるかもわからないのに……」

刑事さんは、とりあえずとその電話について聞いてきたが私は何を言ってるんだかさっぱり分からなくていたずら電話だと思って切ってしまったのだといった。

それもやむ無しといえると刑事さんは言ってくれた。

しばらくして刑事さんが帰っていくと叔母は私を連れてすぐに実家へと帰っていった。

「いいかい?これから5年はあっこに来ちゃいけん。神社にも近寄っちゃいけん。海にもだ。」

叔母が母と話していると祖父がやってきて私に言い聞かせるようにそういった。

水神様の神社には近寄ってはならないと祖父はいうとぐっとなにかを耐えるような顔で私の手を握りしめた。

ぼぅっとしと頭の中にあの時聞いた声が聞こえてくる。






[ふふ、ふふふ……さあ、おいで、おいで、私の子]







そういえば、昔……誰も知らぬ廃線を見つけたことがあった。

トンネルの中に残ったひしゃげた線路を思い出してその奥に男が逃げ惑っているのが見えた。

あれは、なんだったのだろうか。

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[良い点] はっきりと明かされないが、ある程度は分かっているかのような、祟りの形や法則。それが不気味さを醸し出しています。 きっと、数年に一度以上くらい、割と頻繁にこういうったこと起こっている場所な…
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