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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

魔王99

作者: 空仰 石

 某所、とあるお城。


「ペラン様、そろそろお時間かと」


「ああ」


 俺の名はペラン。これから邪神様を召喚、力をいただき、魔王となるところだ。


「長いことかかりましたね。ようやく苦労が」


 俺に話しかけているのは女執事のエーレ。


「言うな、エーレ」


 この城には俺と彼女の二人しか居ない。

 3年前、世界に8人いる魔王の一人でもある父が他界。一人息子の俺に家督が譲られたが、非常に能力が低く周りの者達は「魔王の器ではない」と愛想を尽かし、皆暇を取りまくった。結果二人だけが残った。魔物すら居なくなった。ちなみに母は俺が子供の頃に死んでいる。


「ペラン様、王座に邪神様を召喚するために必要な邪香を」


 王座に邪香を設置。少し後ろに下がり呪文を唱える。


「最悪にして最強の神よ、我が前に現れいでよ」


「シュゴォー」


 邪香から大量の煙が。その煙の中に薄っすらとドクロのようなものが見えた。


『ゴフゥーー、我を呼ぶものは誰だ』


 俺はそのドクロに跪き、頭を垂れる。


「お初にお目にかかります、私はペランという魔族です。貴方様から力を授かりたく」


『ふぅー、よかろう。では我の前に』


「ハッ」


『ホアーーー!!』


 ふふっ、遂に力が手に入る。見てろよ、今まで馬鹿にしやがった奴らめ。ここから俺のサクセスストーリーが始まるのだ!


『あ』


「どうしました? 邪神様」


『ごめん、呪いがかかっちゃった』


「は?」


『99歩、歩くと死ぬから』


「ええっ!?」


『じゃ、じゃあね。ごめんね、お役に立てなくて!』


「ちょっとぉ!」


「せめて呪いは解除してもらえませんか!」


『無理』


『さらばだ!』


「シュゥー」


 煙が邪香に吸い込まれていった。


「おい!」


「邪神の野郎、逃げやがった!」


「落ち着いてください、ペラン様」


「これが落ち着いてられるか!」


「頭の上に99って数字が出てますよ、って動かないほうが」


 エーレの話を聞かず王座にある邪香に近づく。


「この中にあいつが!」


「ドクン!」


「な、なんだ!」


「98に減りましたね。邪神様が嘘を付くとは思えないし、実際99歩歩くと死んでしまうのでは」


「ぐ!」


「とにかく落ち着いてください」


「ぐぐぅーー!」


 1時間後。


「ハァー」


「落ち着きましたか」


「ああ、大丈夫だ」


「もう1度呼び出すことは出来ないんだっけ」


「はい、魔王の器を持っている者が一生に1度だけ召喚できます」


「ふむ」


「故にただの魔族の私では召喚はできません」


「わかった」


「ああ、それといつもどおりの話し方でいいぞ、エーレ」


「そうね、儀式も終わったし」


 エーレとは幼馴染だ。彼女も早くに親御さんを亡くしている。


「それでも力が手に入ったんじゃない?」


「そうだった!」


 厄介な呪いはついたが力も手に入ったはずだ。


「よーし!」


 俺は手を前に出し魔法を放とうとした。


「まったまった!」


「こんなところで魔法を使ったら最悪お城が吹っ飛んじゃうよ!」


「そうだな」


「かと言って確かめられないってのは」


「上の方はどうだろう」


「上?」


「うん、上。昇降が大丈夫ならこのままお城の屋根を破壊して外に魔法をぶっ放すのは出来るかな」


「ふむ、まだ98歩だ。試してみるか」


 エーレが用意した小さなはしごを登る。明らかに一歩以上、上り下りしたが数字は減らない。昇降は問題なしか。


「んじゃ次は、とう!」


 エーレが飛び上がる。城の屋根を突き破りその上へ。


「ペランちゃん、飛べる? もしくは魔法で来れそう?」


「うーん」


「無理そうだな」


「じゃあロープで引き上げるね」


 俺をロープで縛り、引っ張り上げた。


「到着」


「さて、お待ちかねの魔法タイムだ」


「見せてやるぜ! 魔王となった俺の魔法をな!」


 手のひらを近くの山脈に向ける。


「ファイヤーボール!」


「ズオォーーン!」


「グシャーーン!」


 となる予定だった。


「ポロン」


「ジュ」


 小さな炎の玉が勢いなく下へ。そしてすぐ炎が消える。


「……」


「変わってねーじゃねえか! 呪いがついただけか!!」


「ちょ、ちょっと。暴れないで。足場が悪いんだから」


「ちくしょーー!」


「ガタン」


「あ」


 板を踏み外し直滑降。


「いけない!」


 エーレが飛び降りてくる。


「ペーラーン、どうだ。魔王になったか、って落ちてるー!」


「ズドドド」


 おや? あのおっきなおっぱいはお隣の魔王候補のトラマじゃないか。彼女とも幼馴染、昔から仲が良かった。


「まにあえー!」


 それにしても必死のダッシュ。そうだよな、下手すると死ぬし。

 そうだ、トラマ。はやくしないとお前の幼馴染が! あ、このセリフ、なんか魔王っぽい。


「うおりゃ!」


「バシン」


 トラマがうまいこと俺をキャッチ。


「ナイスキャッチ、トラマ」


「言っとる場合か。な~にが起きたの」


「かくかくしかじか」


「はー、そんなことが。まあ、あんたらしいけど」


「納得しちゃうの!?」


「ありがとう、トラマ」


「まったく、エーレがついていながら」


「ゴメン」


「しっかし厄介なことになったな」


「まあ――」


 気が少し落ち着いてきたからだろう。

 尿意が。


「あ、エーレさん」


「なに?」


「おしっこ」


 ツボっぽいものを用意してくれた。そこへシュバッと。


「あ」


「今度は?」


「デカイほう」


「……これは大変だな」


 小一時間ほど3人でお話を。


「今日は帰るよ。また来る。解呪に関しては調べてみよう」


「おう」


「またねー」


 トラマは城から出ていった。


「はぁ、ため息しか出ないな」


「状況が悪化したねぇ」


「ポツポツ」


「ザー」


 俺に雨粒が降りかかる。


「すみません、雨降ってきたんでなんとかしてください」


「はいはい」


 2日後。


「王座から動けないわけだし、王座を改良したいところね」


「そうだな。ベッド型王座とか」


「カシャン」


「ん?」


「魔族がいました。成敗しましょう」


「あ、あれは勇者!」


 武装した人間が5人、城に入ってきた。


「うむ」


「しかも奴は魔王殺しのアーサー!」


 魔王殺しのアーサー。殺した魔族は数しれず、狙われたものは確実に死ぬとか。


「私では勝てないわ。もうだめかしら」


「剣を渡せ、エーレ」


「え?」


「はやく」


「は、はい」


(一体何を。もしかして一矢報いるつもり!?)


 剣を逆さに持つ。そして刃を俺に向かって突っ込ませる。


「ストーップ!」


 エーレが止めにはいった。


「何してるの!」


「勝てないだろ! 惨たらしく殺されるより潔く! お前は俺にかまってないではやく逃げろ!」


「そんなこと言ったって!」


「何やってるんだアイツラ?」


「構いません、片付けてしまいましょう」


「いや、まて」


「どうしました、アーサー様」


「おかしいと思わないか? この状況」


「ふーむ」


「そうですね。ここへ来るまでに魔物が一匹もいませんでした。妙な感じはします」


「それにあの魔族、こんな時に剣をもうひとりの魔族に突き立てようとしているし。いや、まてよ」


「そうだ、気がついたか。多分、あの女魔族は今がチャンスとあの魔族を殺そうとしているのだろう」


「いつ殺しにかかっても構わないってやつですか」


「それに見ろ、あの女の表情を。必死だ」


「ふむ」


「男の方も必死に見えますね」


「それだ」


「どういうことですか?」


「誘っているんだ、我々を」


「!?」


「わざわざ殺させようとしているんだ、あの女に苦戦するはずがない」


「そもそもやばければ普通逃げるだろ? それすら感じさせなかった」


「確かに……」


「ヤツからは危険な匂いがする。今回は新人も多い。戦いはやめておこう」


「はい」


「そうしましょうか」


 城から出ていく人間たち。


「あれ?」


「なんか助かったみたいね……」


「しっかし、このままではいつやられるかわからん。対策を立てないとな」


 呪いに勇者に。俺の人生お先真っ暗だ。

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