表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
5/92

第三十四夜 テストは大変なんですかっ!?

 ~まつりばやしのふえのおと~~


 ~よるな~さわるな~


 ~つれていかれてやみのなか~~



「なんだ?その歌………」


 バリッ。


 楓ーーは、煎餅を齧りながらそう聞いた。


「ん?あ。これ?遊びうたよ。」


 蒼月寺ーー夕焼けの空が見下ろす縁側で、紫陽花の咲く

 庭の前。


 優梨が膝にお菊……嘆声し娘(ててなしこ)のあやかし。

 を、乗せながら謳ったのだ。


「遊びうた?」


 バリッ。ボリボリと、齧ってはいい音をたてて

 煎餅を食べる楓。


 縁側でまるで親娘の様に座る優梨の背中に視線を

 向ける。 


 ふんわりと緩くパーマの掛かるライトブラウンの

 髪は……肩より少し長め。

 いつもゴムで一つに纏めている。



「そう。まつ~りば~やしのふえの~おと~~

 よる~なさ~わるなつれ~てい~かれてやみのなか~」


 優梨はリズミカルに歌を謳う。

 膝の上に座るお菊の黒い瞳は見上げていた。


 楽しそうに。


「昔ばなしでよくある……何かに誘われてついていくと良くないことが起きる。って言うお話の歌なの。」


 優梨は楓に顔を向けた。

 振り返る。

 優しげな黒い瞳が楓を覗く。


「ふ~ん。」


 楓は煎餅……齧りながら曖昧に頷く。

 興味は無さそうだ。


 ボリッ


 煎餅齧る。


「昔から……いろんな言い伝えの歌があるのよ。それもきっとあやかしのことなのかな~?」


 優梨は膝に抱えたお菊を覗きこむ。

 黒髪のぱっつんな前髪の掛かるおでこに鼻をくっつけた。


 おかっぱ頭のお菊ははにかむ。


「あ。楓ちゃんも気をつけてね」


 優梨はお菊の頭を撫でながらそう言った。


「ん?なにを?」


 開封された煎餅の袋から一枚取り出す。

 醤油焼けた芳ばしい香りが漂う。


「最近……突然いなくなっちゃう人が、いるみたいよ?」


 優梨がそう言った時だった……。


 ガラッ……


 玄関の戸が開いたのだ。


「すみませ~ん。鎮音さんいますか?」


 男性の声であった。


 途端……楓と優梨は玄関の方に視線を向けたのだ。


「は~い」


 優梨が……紅い着物姿のお菊の腰を掴み膝から降ろす。

 縁側にちょこんと座る。


 立ち上がると優梨は……グレーのワンピースをひらひらと

 させながら玄関に向かった。


 お菊は……楓の方に顔を向ける。

 きょとん。と、その大きな瞳は見開く。


「客だ。」


 楓が言うとふんふん。と、お菊は頷く。

 言葉数はとても少ない。

 ただ……よく笑う。



「え?()()()?夜ですか?」

「そうなんだよ~……何とか頼めないかな?楓ちゃんに。あの娘。腕っぷし強いって評判なんだ。」


 玄関から聞こえてくる優梨と男性の声。


(なんだ?見回り………?)


 楓はお煎餅齧りながら和室から顔だけ覗かせた。

 玄関では、優梨が困惑した表情をしていた。



 ✣



 ーーその日の夜……。


「で?何で……楓が行くんだ?」


 ギッ……


 葉霧は、椅子を後ろに少し向けた。


 ここは……葉霧の部屋だ。彼は……テスト勉強中。

 机の上には、教科書やらが並んでいる。


 白いライトも眩しい程についている。


「ん?だって……用心棒じゃん。オレ」


 後ろに立ってるのは楓だ。

 既に……出掛ける用意をしているのでいつもの如く……


 黒のロングパーカーにライトブルーのジーパン。

 黒のTシャツ姿。


 これが一番動きやすい。


「用心棒?」


 葉霧は……その綺麗な顔を歪めた。

 眉間にシワを寄せる。


「商店街の用心棒。」


 楓はそんな彼を前にしてもへらへらと笑っている。

 締まりの無い顔だ。

 美人なのだが……余り言われない。


 葉霧はくるっ。と、椅子を楓に向けた。

 向き合うと……


 ぐい……


 楓の腰を引く。


「え??」


 突然……ぎゅっ。と、腰を抱かれて楓は驚く。


(な………な………なにしてんの!?えっ!?)


 葉霧はきっと聞こえるであろう……ドキドキしてる

 楓の胸元に顔を埋めた。


(………な……なんですか??何か……しました??え??なんですか~~~~???)


 楓はドキドキとひやひやとで……パニックになっていた。

 身体は硬直してる。


「……楓……ドキドキしてる」


 葉霧は抱きついたままそう言った。

 楓の胸元に……頬をくっつけながら。


「は………葉霧……?」


 楓は真っ赤な顔をしながらどうしていいのかわからず……

 硬直。


 ビシッと固まっている。

 こんなにしっかりと……密着したのは久し振りだ。


 それも……こんな風にされた事はない。


「行ってもいいけど……無茶はするな。」


 葉霧は楓の胸元で目を閉じた。


 ぎゅっ。と、腰に回した腕に力を込めた。


「わ……わかったから……離して…………」


 楓の心臓は限界であった。

 顔を真っ赤にしたまま泣きそうな声でそう言った。


 葉霧はそれを聞くと……目を開けた。

 顔だけ起こす。


 下から覗く楓の顔は何とも……情けなく見えた。


(……心臓バクついてて……こんなに真っ赤な顔して……。ん?今……何て言った?)


 葉霧は楓から離れた。

 腕だけ………腰に回していた。



「離して……って何?」

「え!?」

(な……どうした!?どーした葉霧!?テストって大変なのか!?)


 葉霧は……少し不機嫌そうな顔をしている。

 不機嫌になると……綺麗さが増す。


 楓は困惑していて……顔が歪む。


 するっ……


 葉霧は腕を解く。

 硬直状態の楓から机に椅子を回した。


 シャーペンを手にした。


「商店街の人達が……待ってるんだろう?」


 楓は……葉霧のその声を聞くとハッ……とした。


(……お……怒ってる……のか?声が………おっかない……)


 後ろを向かれては……楓にはわからない。

 ただ……背中から何となく……不機嫌そうなオーラは出てる。


(……よ……よし。オレは……もともと()()なんだ……。そうだ。何もビビることはねぇんだ。)


 ドキドキ………


 楓は心臓をバクつかせながらも近寄る。


 静かに。


 葉霧は後ろにいる気配はわかっているものの……

 平然と教科書を捲る。


 その表情は……やはり少し不機嫌だ。


 楓は……葉霧を背中から抱き締めた。

 ふわっと、乗っかるその感触に……葉霧は教科書から

 手を離した。


 ぎゅっ。


 抱きついてくるその暖かなぬくもり。

 首に掛かるその腕……。


 頬に当たる……楓の少し熱い頬の感触。

 葉霧は楓の腕をそっと掴む。


「葉霧……無茶しない……」


 葉霧の頬にぴたっと……頬をくっつけそう言った。

 いつもの楓の声よりも小さくて……甘えた様な声だった。


 葉霧は……くすっと微笑む。


「それだけ?」


 そう……囁く。

 優しい声で……。


 楓は……少しだけ瞳を開くが……ちゅっ。と…

 ほっぺたにキスした。


 楓の頬は真っ赤。その瞳も潤む。


 葉霧は楓の腕を掴んだまま……その顔を向けた。


「楓……」


 涼し気ないつもの瞳は……何処か熱を含む。


 楓は葉霧の……色気ある眼差しに惹き込まれていた。


 ……その声は聞いた事も無いほど甘く響く…。


 だから……自然と……唇をかさねていた。


(……葉霧………好きだ………)


 正真正銘………三回目の……触れ合いだった。




































評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ