第五十七夜 お嬢ちゃんの番
ーー「灯馬!!」
しゃがみこんでしまった灯馬に、一番はやく駆けつけたのは水月だった。
水月は、灯馬の傍に駆け寄るとしゃがむ。
心配そうにその肩に手を置いた。
顔を覗き込む。
「大丈夫だ……」
灯馬は、寄り添う様な水月のその顔を見つめる。心配そうに覗くその、可愛らしい瞳が潤んでいた。
灯馬は、水月の頭に手を置いた。
「泣きそうな顔すんな。」
「だって……」
灯馬は、うるっとしてしまったその大きな瞳に、水月の頭を引き寄せた。その胸元に。
水月はぎゅっ。と、灯馬のTシャツを掴む。ぽろっと……涙が溢れる。それでも頭の上に……顎を乗せてくれたその感触にほっとした、顔をした。
頭を優しく撫でてくれるその手にも。
「大丈夫だ……」
聞こえてくるのは……優しい声だ。
髪を撫でてくれるこの手。
水月は、頷いた。
「うん……。」
楓と葉霧は……一歩引いていた。
「オレら……邪魔??」
「みたいだな……」
葉霧と楓は、近寄れずにいた。
「あ~……お二人さん。そのままちゅ~しちゃいそうなとこ悪いんだが……」
嵐蔵だ。にやにやとしながら、しゃがみつつ灯馬と水月を眺めていた。
バッ!!
と、離れたのは水月だ。
顔を真っ赤にしながら。
灯馬はとても残念そうな顔をしながら、離れてしまった事で浮いた右手を、降ろした。
「いいかな?」
「なんだよ……」
(チッ……ちゅ~しようとしてたのに……)
灯馬は、どうやらその考えがあった様子。
じと~……と恨めしそうに、嵐蔵を見上げた。
嵐蔵は、立ち上がる。
「次は……お嬢ちゃんの番だ。」
「え??」
真っ赤な顔も一気に吹き飛ぶ。
水月は、目を丸くした。
嵐蔵は、水月を見つめる。
「お嬢ちゃんの身を護る為にも……必要だとは思うが……。嫌だと言うなら無理にとは言わねーよ。」
嵐蔵のその声は、少し強い口調だった。
灯馬は、水月を見つめていた。
その眼差しは、とても温かなものだった。
水月は顔をあげた。
「私は、決めたの。楓ちゃんと葉霧くんの力になる。って。だから……私もやります。」
真っ直ぐと水月は、嵐蔵を見つめはっきりと言った。天使の様な笑顔を向ける……美少女は、強い目をしていた。
「水月……」
楓は、いつもふわっとして、守ってあげたい女の娘の様な水月を、知っている。
だが……今の水月は違う。その声は……聴いた事もないぐらい真剣だった。
紅炎の髪が揺れる。
嵐蔵は、水月を見るとにやっと笑った。
少し……意地悪そうに。
「痛いかもよ?」
「え!?」
その声に、水月は一瞬で固まった。
顔が。
物凄く。
「痛てぇってなんだ?なにさせる気だ!」
灯馬……は、立ち上がった。
それはもう……迅速に。
動くより早く怒鳴っていた。
嵐蔵は、錫杖をとんっ。
床につく。
シャン……鈴音の様に響く。
「そりゃー。俺みてーに優しい奴ばかりじゃねーからな。ん?やめとくか?」
紅い眼は……意地悪そうに水月を覗く。少し強張り……考え込む様な水月のその顔を。
水月は……目の前に立つ紅炎の髪を揺らす、大柄な鬼の嵐蔵を、真っ直ぐと見上げた。
「やります。」
ハッキリとそう言った。
「水月……」
隣で、嵐蔵を睨んでいた灯馬の表情は変わる。心配そうに水月に視線を向けた。
「大丈夫よ。灯馬。私……決めたんだから。それに、灯馬と約束したでしょ?」
水月は、まだ少し不安が残る様な顔をしていたが、それでも微笑んだのだ。
灯馬は、何も言わなかったが笑った。
しゃがむと水月の頭に手を乗せた。
瞳が絡む。
何も言わなくてもお互いに……通じているかの様に。
(しかし……アレだね。人間の若いのってのは……直ぐにこ~アマ~くなれちゃうもんなんだな。まーいいけど。)
嵐蔵は、ちょっと渋い顔をしていた。目の前でいちゃつく灯馬と水月の姿を見て。
そして……最早。
居る事すら忘れられてる楓と葉霧。
シャン!
そんな時だ。
嵐蔵が、錫杖を地面に突いた。
遊環の音が、その場の空気を切り裂いた。
灯馬と水月は、顔をあげた。
嵐蔵は、少し強い目を向けた。
「よし。それならばここより……東へ行け。そこに……ヌシがいる。」
その声も、険しさが滲む。
灯馬と水月は、顔を見合わせた。
「どーやって行くんだよ?船はどっか行っちまったんだ。」
と、楓が口を開いた。
嵐蔵は、楓に視線を向けた。
にやっと牙の見える口元をあげる。
「安心しろ。案内役がいる。表に出ろ。」
楓と葉霧は、顔を見合わせた。
二人とも不思議そうな顔をしていた。
✣
「あ。終わったんですか?」
岩窟の出口では、辰巳が待っていた。
出て来た御一行を見ると、安堵した様子でそう言った。
「いや。これから向かって貰う」
嵐蔵は、岩窟から出ると少し眩しそうな顔をした。午後の日差しが、穴蔵から出て来た瞬間に眩しく照らしたのだ。
錫杖を、シャン。
地面に突きたて鳴らした。
バサッ……バサッ……
すると、何処からともなく羽音が聴こえてきた。
「!」
頭上に黒い影。
四人は、頭を上げた。
キェッ!
キェェッ!!
鳥の鳴き声の様な……高い音。
重そうな羽の音。
四人の前に飛び降りてきた。
二羽の大きな白い翼をした鳥ーー。
「え?アヒル??」
目をまん丸として、楓と灯馬が同時にそう言った。
アヒルであった。
ただ、とても大きい。
黄色いクチバシにくりくりの、可愛らしい黒い瞳。チャーミングなその顔。身体が、巨体なだけでアヒルだった。
「これに乗っていけ。コイツらは風を操るから、直ぐに着く。」
嵐蔵は、二羽のアヒルを前にしてそう笑う。
首輪も無い、真っ白なアヒルだ。
その毛並みは艷やかでとても、さわり心地が良さそうだ。
キェッ……
「アヒル……ってこんな鳴き方だった?なんかケリみたい。」
水月が首を傾げた。
「心配するな。コイツはお前の逢うヌシの、飼い鳥だ。迎えを寄越したんだ。」
嵐蔵は、水月を見るとそう言った。
白い大きなアヒルは、頭を低くすると身体を落とした。
「楓、先に乗るよ」
「うん」
葉霧は、アヒルに先に乗る。
足を掛ける所がないので、アヒルが翼でその足を
支えて背中に乗せた。
楓は、心配そうに見ていた。
「おいで」
葉霧は、背中に跨ると、楓に手を差し出した。その手を掴むと、アヒルの翼と葉霧に引っ張って貰いながら、楓は背中に跨った。
「大丈夫か?」
「あーうん。ふかふかだ。」
葉霧は、跨った楓の腰を抱く。
水月と、灯馬も上手く乗った様子だ。
葉霧と楓同様……水月が前で、灯馬が後ろで支える。
「ま。気をつけて行けや。」
嵐蔵は、そう言うと錫杖を地面につけた。
シャン!
遊環が音を鳴らす。
アヒルは、その音でブワッと翼を広げ宙に舞う。
バサッバサッ……
二羽ほとんど同時に、羽音をたて大きな翼を羽ばたかせた。そのまま、森を飛び上がったのだ。
「ありがとなー」
楓は、下にいる嵐蔵に叫んだ。
嵐蔵と辰巳は、見上げていた。
「お気をつけてー!」
辰巳の声が下の方に聞こえる頃には、アヒルは空を飛んだ。
「すげー」
「見て!灯馬。海がスゴいキレイ!」
見下ろせば、エメラルドグリーンの海だ。紺碧とエメラルドグリーンが、折り混ざり美しい煌めきが眼下に、広がる。
灯馬と水月は、それを見つめた。
アヒルは、昼下がりの太陽の下、翼を広げ空を飛ぶ。
「風だ。風で……浮いてるみたいだ」
葉霧は、時折翼を羽ばたかせるが殆ど……風だけで飛ぶその姿に驚いていた。
「風を操るってこーゆうことなんだな。あ!葉霧!なんか見えてきた!」
乗っていると、然程感じないが、アヒルはとても速い。
珊瑚島は、もうとっくに見えない。
それどころか、海の向こうに島が見えてきていた。
並んで、距離を保ち飛ぶアヒル。風を切りながらの飛行は、思ったよりも揺れる事なく、何よりも抵抗を、然程受けなかった。
アヒルの背中も、座り心地もよく体もズレない。
安定飛行で、快適であった。
暫し……空中遊泳を楽しんだ御一行。
あっとゆう間に、前方に見える古塔のある島に辿り着いたのだ。珊瑚島とは、また違う……未開の島に見えた。
森とその高く聳える古塔。
エメラルドグリーンの海に浮かぶ半月の離島。
白い砂浜が、白波で染まる。
珊瑚島よりも小さな島ではあるが、鮮やかなエメラルドグリーンの海に、浮かぶその島は美しい場所であった。
アヒルが、降ろしたのは古塔を見上げられる森の中。近くで見ると、緑の蔦やツルに覆われた古代を感じさせる塔であった。
大聖堂などの脇に建っていそうな、西洋風の塔であった。ピラミッド型の屋根には、銀色の槍の様な避雷針。
窓は無く、回廊になっているのか所々……穴が開き塔から外が眺められそうだ。
権威の象徴の様に、聳え立つ古塔は白と灰色で創り上げられた建造物であった。
アヒルは腰を落ち着けると古塔の方に、首を向けた。二羽とも同じ方向に、頭を向けたのだ。
くりくりの瞳が見つめる先には、どうやら入口がある様だ。森の抜け道が、そこにはあった。
「あそこに行け。ってことだな。」
楓は、森の草木がちょうどトンネルの様になっているのを、見るとそう言った。
その先には、古塔がある。
「行ってみよう」
葉霧がそう言うと、アヒルの頭を撫でていた水月が頷いた。
アヒル達は、楓達の事をじっと見つめていた。
森は澄んだ空気につつまれていた。
山の中ではないのに、湿気もなく爽快な空気が包む。
珊瑚島はどちらかと言うと湿原に、近かったが
山の中を歩いている様な、空気であった。
深い森に囲まれた草木のトンネルを潜り、
古塔の前に出る。
「やっと来たかい」
古塔の前には、何やら彫刻が施された地面が広がる。
壁画の様であった。
その地面に、立ち出て来た楓たちを見つめる女性がいた。
聳え立つ古塔は、間近で見るとかなり大きなものであった。空高くまで届きそうなほど、巨大。
壁画に囲まれたグレーの壁。
女神や神が描かれている様だ。
古塔の前には、大きな水がある。そこに塔から、滝の様に流れ込んでいる。女性の立つ壁画の地面の周りを、その水が囲む様に流れていた
神秘的な空間だ。
眼は、美しい紺碧の色。黒目が無いので、まるで宝石の様に煌めく。水色の長い髪を、揺らし白いショールを羽織ったスラッとした体型。
白い着物は、スリットの様に前が開き、そこから覗く水色の長い足。姿は、人間ではあるが身体には鱗がある。硝子細工の様に、キラキラと煌めく鱗に覆われた女性だった。
ただ、顔だけは白く透き通る肌で覆われ、美しい女性そのもの。腕と足が、鱗で煌めいていた。
着物……なのだがノースリーブ。なので、鱗がシースルーのショールから良く見える。ただ、魚の鱗とは少し違う。貝殻の様なカタチをした鱗だ。真珠貝によく似た形だ。
「綺麗なんだけど……大きい……」
水月は、グラマラスな女性を前にそう言った。
先程の、嵐蔵よりは少し背は低そうだが、それでも三メートルは超えていそうだ。
現に、灯馬や葉霧よりも大きい。
迫力がある。
「で?どっち?まさか鬼娘が……私の力を欲しいとか言いに来たんじゃないよね?」
美しいのだが、とても強そうな口調であった。端々で語尾が強い。その眼も鋭いが……何よりも綺麗な顔はさっきからとても不機嫌そうであった。
眉間に寄せるシワがとても多い。
唇まで尖ってみえる。
「私です」
水月は、誰に言われるまでもなく一歩前に出たのだ。
ふぅ……
女性は、くびれた腰に手を当てた。
よく見ればその爪には、ネイルが施されていた。
パールが並ぶ。
「あんた?冗談じゃないよ」
吐き捨てるかの様にそう言った。
水月の顔を見る事もなく。
「え……?」
水月の表情は、強張る。
フンッ……女性は鼻で笑うと腕を組み、水月を睨みつけた。
「見た所、戦った事も無さそうだよね? 力与えたからってどうにかなりそうなものじゃないんだ。わかる?」
その言い方は、本当にキツい。
水月は、さすがにしゅん。としてしまった。
「オイ!ババァ!そんな言い方ねぇだろ!水月はフツーの人間なんだ!あやかしとバトっかよ!!バカじゃねぇのか!」
そこに、怒鳴り声をあげたのは楓だ。
「ババァ?? 失礼だね!小娘!」
キッ!
と、楓をにらみつける女性。
「うるせぇ! ババァにババァって言って何が悪いんだよ!このおっぱいデカ女!!」
「何それ?? はぁん?? 僻み?? 小さそうだもんね~」
女性は、楓の胸元をじ~っと見つめている。離れてはいるが、その視線は遠目からでも突き刺さる。
「でかけりゃいいってモンじゃねぇんだよ! 」
楓は、噴火寸前だ。
「ソコかよ……」
灯馬は、呆れてしまった。
ザァァァァ………
滝のように水が流れるその泉の様な場所から、大きな水飛沫をあげて、姿を現した。
それは、エメラルドグリーンの鱗に覆われた巨大な龍であった。ただ、顔は細長く獣に似た顔の、ドラゴンではない。シャープな顔立ちをした、美しい竜であった。
蒼く煌めく眼は、アクアマリンの様な色をしている。鳥の様なクチバシに似た長い口元から、エメラルドグリーンの髭が、揺れる。
翼を持たない長い身体。水の中にいるから全体像は、見えないが濡れた身体は宝石の様に煌めいていた。
「姉さん。言い過ぎ」
と、とても低い声でそう言った。
「おや。いたの。」
「いるよ。そりゃ。じっちゃんからの頼みだろ?」
人を食いそうな眼と顔をしているが、話し方は幼い。
女性は、竜を横目に笑う。
水月に視線を向けた。
「私の力を授ける訳にはいかなそうだから、コイツを連れて行きな。ヌシは私だから、連れ回しても問題ないよ。」
そう言うと、着物の裾からようやく見えた足元。蒼いピンヒールで、カツカツと水月の元に歩いて来たのだ。
「あの……」
水月が戸惑うのをよそに、女性はしゃがむ。
頭の上に手を置いた。
「アンタ、名前は?」
「桐生水月です。」
フッ……
女性は笑った。
優しそうな笑みを浮かべた。
「水月か。ちょうどいいね。」
今までとは全く違う、優しい声でそう言ったのだ。
ポゥ……
水月の頭の上に置かれていた手が、蒼白く光始めた。
女性は、その手を離した。
立ち上がると、離れる。
すると、水月の頭から全身に蒼白い光が行き渡る。
バシャっ!!
「え………??」
水月は……頭から水を被っていた。それは何処からともなく……突然、頭の上から水が落ちてきたのだ。
まるで……滝のような水量であった。
全身が……びしょ濡れになった水月は、呆然。後ろで見ていた楓たちもボー然としていた。
誰もが……何が起きたのかわからなかった。
「いいよ。」
と、女性はそう言ったのだ。
「え??」
ポタポタと雫を垂らしながら、水月は濡れて落ちた前髪をあげた。シャワーを頭から被った様になってしまったのだ。
すると、女性は身体を避けた。
完全に水月の側から離れたのだ。
水竜が動く。
突然、水月めがけて突進してきたのだ。
「きゃあっ!」
「そのまま動くんじゃないよ!」
悲鳴をあげた水月に、女性の激が飛ぶ。
厳しい声であった。
水竜は、尾の先が魚の様であった。
長い身体をくねらせ……水月の胸元めがけて突っ込んだのだ
「水月!!」
楓と灯馬が叫んだ時には、水竜は水月の身体に吸い込まれていく様に、入り込んでいた。
正に……一瞬の出来事だった。
尾までが入り込むと
ちゃぽん……と、まるで池の中にでも魚が飛び込んだ様な音がした。水月の身体は、まるで水の中にいるかの様に、水面の揺らぎに、包まれていた。
その揺らぎもやかて消える。
水月を覆っていた蒼白い光も消えていた。
「それでアンタは、水竜を遣える。困った時に呼びな。心の中で、そうすればアイツは出てくるよ」
女性はそう言うと水月に近づいた。
スッ……
水月に差し出したのは、さっきの水竜がまるでキャラクターにでもなったかの様な、キーホルダーだった。
ネイルの指で摘まれてぷらぷらとしている。
水族館などで売られている、イルカのキーホルダーみたいであった。
「これは契約の証。アンタは水竜と契約したんだ。だから、これを肌見放さす持ってな。」
女性が、そう言うと水月は手を差し出した。ぽとっ。と、キーホルダーを右の掌の上に落とされた。エメラルドで出来た、キラキラした竜のキーホルダーだった。
「あ……はい。」
(……なんかコントみたいなんだけど……騙されてないよね??)
とてもじゃないが……半信半疑の様子だ。
「大丈夫か?水月」
「ほら。タオル」
灯馬と楓が駆け寄った。
楓は、すかさずびしょ濡れの水月に、タオルを差し出した。
「お前は……ヌシなのか?」
葉霧は……真剣な顔でそう聞いた。
(とてもじゃないが……ふざけてるとしか思えない……)
「そうよ。私は……水天竜。この辺りのヌシだ。」
水天竜はくすっと笑った。
「なぁ? さっきのは水月の中に入ったのか?あのでけーヤツ。大丈夫なのか?」
楓は、タオルで顔や服を拭く水月を見ながらそう言った。灯馬は、髪をタオルドライしている。パタパタと。
「大丈夫だ。何ともないだろ?お嬢ちゃん。」
水天竜は、腕を組み水月に視線を向けた。
「はい」
(びっくりは……したけど、いきなりだったし……何があったのか正直。わからないのよね)
水月は、少し困惑している様な顔をしていた。
だが、その返事はハッキリと応えたのだ。
水天竜は、腕を降ろすと右手を腰に充てた。
「さっきも言ったけど、私はここから動けない。水竜は私の弟だ。ヌシ見習いだから何の問題もない。それに……あー見えてそれなりに役に立つはずだから。」
その眼は、とても穏やかだった。
笑みを零すと
「頑張んな」
そう言ったのだ。
「ありがとうございます。」
水月は、キーホルダーを握りしめていた。
「あ。なんで眼が紅くないんだ?今まで、逢ってきたヌシは眼が、紅かった。」
楓は、水天竜の紺碧の眼を、見るとそう言ったのだ。
宝石の様に煌めくが、真紅ではない。
「そりゃー竜なんで。アタシはあやかしとは違う。神獣とか、霊獣とも呼ばれたりもしてるみたいだけど、アタシら龍は、神。つまり偉いんだよ。わかった??」
水天竜は、楓にそう言い放った。
威圧的である。
「神?すげー……」
楓は、目をまん丸くさせた。
(とうとう……神まで出て来た……)
葉霧は、少々ア然としている。
余りにも壮大な話になってきたからだ。
(え? 私は……神様と契約したってこと??それって物凄いことなんじゃないのかな??)
水月は……少しだけ青褪めていた。




