表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
32/92

第五十七夜  お嬢ちゃんの番

 ーー「灯馬!!」


 しゃがみこんでしまった灯馬に、一番はやく駆けつけたのは水月だった。


 水月は、灯馬の傍に駆け寄るとしゃがむ。

 心配そうにその肩に手を置いた。

 顔を覗き込む。


「大丈夫だ……」


 灯馬は、寄り添う様な水月のその顔を見つめる。心配そうに覗くその、可愛らしい瞳が潤んでいた。


 灯馬は、水月の頭に手を置いた。


「泣きそうな顔すんな。」

「だって……」


 灯馬は、うるっとしてしまったその大きな瞳に、水月の頭を引き寄せた。その胸元に。



 水月はぎゅっ。と、灯馬のTシャツを掴む。ぽろっと……涙が溢れる。それでも頭の上に……顎を乗せてくれたその感触にほっとした、顔をした。


 頭を優しく撫でてくれるその手にも。


「大丈夫だ……」


 聞こえてくるのは……優しい声だ。

 髪を撫でてくれるこの手。

 水月は、頷いた。


「うん……。」


 楓と葉霧は……一歩引いていた。


「オレら……邪魔??」

「みたいだな……」


 葉霧と楓は、近寄れずにいた。


「あ~……お二人さん。そのままちゅ~しちゃいそうなとこ悪いんだが……」


 嵐蔵だ。にやにやとしながら、しゃがみつつ灯馬と水月を眺めていた。


 バッ!!


 と、離れたのは水月だ。

 顔を真っ赤にしながら。


 灯馬はとても残念そうな顔をしながら、離れてしまった事で浮いた右手を、降ろした。


「いいかな?」

「なんだよ……」

(チッ……ちゅ~しようとしてたのに……)


 灯馬は、どうやらその考えがあった様子。

 じと~……と恨めしそうに、嵐蔵を見上げた。


 嵐蔵は、立ち上がる。


「次は……お嬢ちゃんの番だ。」

「え??」


 真っ赤な顔も一気に吹き飛ぶ。

 水月は、目を丸くした。


 嵐蔵は、水月を見つめる。


「お嬢ちゃんの身を護る為にも……必要だとは思うが……。嫌だと言うなら無理にとは言わねーよ。」


 嵐蔵のその声は、少し強い口調だった。

 灯馬は、水月を見つめていた。

 その眼差しは、とても温かなものだった。


 水月は顔をあげた。


「私は、決めたの。楓ちゃんと葉霧くんの力になる。って。だから……私もやります。」


 真っ直ぐと水月は、嵐蔵を見つめはっきりと言った。天使の様な笑顔を向ける……美少女は、強い目をしていた。


「水月……」


 楓は、いつもふわっとして、守ってあげたい女の娘の様な水月を、知っている。

 だが……今の水月は違う。その声は……聴いた事もないぐらい真剣だった。


 紅炎の髪が揺れる。

 嵐蔵は、水月を見るとにやっと笑った。

 少し……意地悪そうに。


「痛いかもよ?」

「え!?」


 その声に、水月は一瞬で固まった。

 顔が。

 物凄く。


「痛てぇってなんだ?なにさせる気だ!」


 灯馬……は、立ち上がった。

 それはもう……迅速に。 

 動くより早く怒鳴っていた。


 嵐蔵は、錫杖をとんっ。

 床につく。


 シャン……鈴音の様に響く。


「そりゃー。俺みてーに()()()()ばかりじゃねーからな。ん?やめとくか?」


 紅い眼は……意地悪そうに水月を覗く。少し強張り……考え込む様な水月のその顔を。


 水月は……目の前に立つ紅炎の髪を揺らす、大柄な鬼の嵐蔵を、真っ直ぐと見上げた。


「やります。」


 ハッキリとそう言った。


「水月……」


 隣で、嵐蔵を睨んでいた灯馬の表情は変わる。心配そうに水月に視線を向けた。


「大丈夫よ。灯馬。私……決めたんだから。それに、灯馬と約束したでしょ?」


 水月は、まだ少し不安が残る様な顔をしていたが、それでも微笑んだのだ。


 灯馬は、何も言わなかったが笑った。

 しゃがむと水月の頭に手を乗せた。


 瞳が絡む。

 何も言わなくてもお互いに……通じているかの様に。


(しかし……アレだね。人間の若いのってのは……直ぐにこ~アマ~くなれちゃうもんなんだな。まーいいけど。)


 嵐蔵は、ちょっと渋い顔をしていた。目の前でいちゃつく灯馬と水月の姿を見て。


 そして……最早。

 居る事すら忘れられてる楓と葉霧。



 シャン!


 そんな時だ。

 嵐蔵が、錫杖を地面に突いた。

 遊環の音が、その場の空気を切り裂いた。


 灯馬と水月は、顔をあげた。

 嵐蔵は、少し強い目を向けた。


「よし。それならばここより……東へ行け。そこに……()()がいる。」


 その声も、険しさが滲む。

 灯馬と水月は、顔を見合わせた。


「どーやって行くんだよ?船はどっか行っちまったんだ。」


 と、楓が口を開いた。

 嵐蔵は、楓に視線を向けた。

 にやっと牙の見える口元をあげる。


「安心しろ。案内役がいる。表に出ろ。」


 楓と葉霧は、顔を見合わせた。

 二人とも不思議そうな顔をしていた。




 ✣


「あ。終わったんですか?」


 岩窟の出口では、辰巳が待っていた。

 出て来た御一行を見ると、安堵した様子でそう言った。


「いや。これから向かって貰う」


 嵐蔵は、岩窟から出ると少し眩しそうな顔をした。午後の日差しが、穴蔵から出て来た瞬間に眩しく照らしたのだ。


 錫杖を、シャン。

 地面に突きたて鳴らした。


 バサッ……バサッ……


 すると、何処からともなく羽音が聴こえてきた。


「!」


 頭上に黒い影。

 四人は、頭を上げた。


 キェッ!

 キェェッ!!


 鳥の鳴き声の様な……高い音。

 重そうな羽の音。


 四人の前に飛び降りてきた。


 二羽の大きな白い翼をした鳥ーー。


「え?アヒル??」


 目をまん丸として、楓と灯馬が同時にそう言った。

 アヒルであった。

 ただ、とても大きい。


 黄色いクチバシにくりくりの、可愛らしい黒い瞳。チャーミングなその顔。身体が、巨体なだけでアヒルだった。


「これに乗っていけ。コイツらは風を操るから、直ぐに着く。」


 嵐蔵は、二羽のアヒルを前にしてそう笑う。

 首輪も無い、真っ白なアヒルだ。

 その毛並みは艷やかでとても、さわり心地が良さそうだ。


 キェッ……


「アヒル……ってこんな鳴き方だった?なんか()()みたい。」


 水月が首を傾げた。


「心配するな。コイツは()()()()()()()の、飼い鳥だ。迎えを寄越したんだ。」


 嵐蔵は、水月を見るとそう言った。

 白い大きなアヒルは、頭を低くすると身体を落とした。


「楓、先に乗るよ」

「うん」



 葉霧は、アヒルに先に乗る。

 足を掛ける所がないので、アヒルが翼でその足を

 支えて背中に乗せた。

 楓は、心配そうに見ていた。



「おいで」


 葉霧は、背中に跨ると、楓に手を差し出した。その手を掴むと、アヒルの翼と葉霧に引っ張って貰いながら、楓は背中に跨った。


「大丈夫か?」

「あーうん。ふかふかだ。」


 葉霧は、跨った楓の腰を抱く。


 水月と、灯馬も上手く乗った様子だ。

 葉霧と楓同様……水月が前で、灯馬が後ろで支える。


「ま。気をつけて行けや。」


 嵐蔵は、そう言うと錫杖を地面につけた。


 シャン!


 遊環が音を鳴らす。


 アヒルは、その音でブワッと翼を広げ宙に舞う。


 バサッバサッ……


 二羽ほとんど同時に、羽音をたて大きな翼を羽ばたかせた。そのまま、森を飛び上がったのだ。


「ありがとなー」


 楓は、下にいる嵐蔵に叫んだ。

 嵐蔵と辰巳は、見上げていた。


「お気をつけてー!」


 辰巳の声が下の方に聞こえる頃には、アヒルは空を飛んだ。


「すげー」

「見て!灯馬。海がスゴいキレイ!」


 見下ろせば、エメラルドグリーンの海だ。紺碧とエメラルドグリーンが、折り混ざり美しい煌めきが眼下に、広がる。


 灯馬と水月は、それを見つめた。


 アヒルは、昼下がりの太陽の下、翼を広げ空を飛ぶ。


「風だ。風で……浮いてるみたいだ」


 葉霧は、時折翼を羽ばたかせるが殆ど……風だけで飛ぶその姿に驚いていた。


「風を操るってこーゆうことなんだな。あ!葉霧!なんか見えてきた!」


 乗っていると、然程感じないが、アヒルはとても速い。

 珊瑚島は、もうとっくに見えない。

 それどころか、海の向こうに島が見えてきていた。


 並んで、距離を保ち飛ぶアヒル。風を切りながらの飛行は、思ったよりも揺れる事なく、何よりも抵抗を、然程受けなかった。


 アヒルの背中も、座り心地もよく体もズレない。

 安定飛行で、快適であった。

 暫し……空中遊泳を楽しんだ御一行。



 あっとゆう間に、前方に見える古塔のある島に辿り着いたのだ。珊瑚島とは、また違う……未開の島に見えた。


 森とその高く聳える古塔。

 エメラルドグリーンの海に浮かぶ半月の離島。

 白い砂浜が、白波で染まる。


 珊瑚島よりも小さな島ではあるが、鮮やかなエメラルドグリーンの海に、浮かぶその島は美しい場所であった。





 アヒルが、降ろしたのは古塔を見上げられる森の中。近くで見ると、緑の蔦やツルに覆われた古代を感じさせる塔であった。


 大聖堂などの脇に建っていそうな、西洋風の塔であった。ピラミッド型の屋根には、銀色の槍の様な避雷針。


 窓は無く、回廊になっているのか所々……穴が開き塔から外が眺められそうだ。


 権威の象徴の様に、聳え立つ古塔は白と灰色で創り上げられた建造物であった。


 アヒルは腰を落ち着けると古塔の方に、首を向けた。二羽とも同じ方向に、頭を向けたのだ。


 くりくりの瞳が見つめる先には、どうやら入口がある様だ。森の抜け道が、そこにはあった。


「あそこに行け。ってことだな。」


 楓は、森の草木がちょうどトンネルの様になっているのを、見るとそう言った。


 その先には、古塔がある。


「行ってみよう」


 葉霧がそう言うと、アヒルの頭を撫でていた水月が頷いた。


 アヒル達は、楓達の事をじっと見つめていた。


 森は澄んだ空気につつまれていた。

 山の中ではないのに、湿気もなく爽快な空気が包む。

 珊瑚島はどちらかと言うと湿原に、近かったが

 山の中を歩いている様な、空気であった。


 深い森に囲まれた草木のトンネルを潜り、

 古塔の前に出る。



「やっと来たかい」


 古塔の前には、何やら彫刻が施された地面が広がる。

 壁画の様であった。

 その地面に、立ち出て来た楓たちを見つめる女性がいた。


 聳え立つ古塔は、間近で見るとかなり大きなものであった。空高くまで届きそうなほど、巨大。

 壁画に囲まれたグレーの壁。

 女神や神が描かれている様だ。


 古塔の前には、大きな水がある。そこに塔から、滝の様に流れ込んでいる。女性の立つ壁画の地面の周りを、その水が囲む様に流れていた


 神秘的な空間だ。



 眼は、美しい紺碧の色。黒目が無いので、まるで宝石の様に煌めく。水色の長い髪を、揺らし白いショールを羽織ったスラッとした体型。


 白い着物は、スリットの様に前が開き、そこから覗く水色の長い足。姿は、人間ではあるが身体には鱗がある。硝子細工の様に、キラキラと煌めく鱗に覆われた女性だった。


 ただ、顔だけは白く透き通る肌で覆われ、美しい女性そのもの。腕と足が、鱗で煌めいていた。


 着物……なのだがノースリーブ。なので、鱗がシースルーのショールから良く見える。ただ、魚の鱗とは少し違う。貝殻の様なカタチをした鱗だ。真珠貝によく似た形だ。


「綺麗なんだけど……大きい……」


 水月は、グラマラスな女性を前にそう言った。

 先程の、嵐蔵よりは少し背は低そうだが、それでも三メートルは超えていそうだ。


 現に、灯馬や葉霧よりも大きい。

 迫力がある。


「で?どっち?まさか鬼娘が……私の力を欲しいとか言いに来たんじゃないよね?」


 美しいのだが、とても強そうな口調であった。端々で語尾が強い。その眼も鋭いが……何よりも綺麗な顔はさっきからとても不機嫌そうであった。


 眉間に寄せるシワがとても多い。

 唇まで尖ってみえる。



「私です」


 水月は、誰に言われるまでもなく一歩前に出たのだ。


 ふぅ……


 女性は、くびれた腰に手を当てた。

 よく見ればその爪には、ネイルが施されていた。

 パールが並ぶ。


「あんた?冗談じゃないよ」


 吐き捨てるかの様にそう言った。

 水月の顔を見る事もなく。


「え……?」


 水月の表情は、強張る。


 フンッ……女性は鼻で笑うと腕を組み、水月を睨みつけた。


「見た所、戦った事も無さそうだよね? 力与えたからってどうにかなりそうなものじゃないんだ。わかる?」


 その言い方は、本当にキツい。

 水月は、さすがにしゅん。としてしまった。


「オイ!ババァ!そんな言い方ねぇだろ!水月はフツーの人間なんだ!あやかしとバトっかよ!!バカじゃねぇのか!」


 そこに、怒鳴り声をあげたのは楓だ。


「ババァ?? 失礼だね!小娘!」


 キッ!


 と、楓をにらみつける女性。


「うるせぇ! ババァにババァって言って何が悪いんだよ!このおっぱいデカ女!!」

「何それ?? はぁん?? 僻み?? 小さそうだもんね~」


 女性は、楓の胸元をじ~っと見つめている。離れてはいるが、その視線は遠目からでも突き刺さる。


「でかけりゃいいってモンじゃねぇんだよ! 」


 楓は、噴火寸前だ。


「ソコかよ……」


 灯馬は、呆れてしまった。


 ザァァァァ………


 滝のように水が流れるその泉の様な場所から、大きな水飛沫をあげて、姿を現した。


 それは、エメラルドグリーンの鱗に覆われた巨大な龍であった。ただ、顔は細長く獣に似た顔の、ドラゴンではない。シャープな顔立ちをした、美しい竜であった。


 蒼く煌めく眼は、アクアマリンの様な色をしている。鳥の様なクチバシに似た長い口元から、エメラルドグリーンの髭が、揺れる。


 翼を持たない長い身体。水の中にいるから全体像は、見えないが濡れた身体は宝石の様に煌めいていた。


「姉さん。言い過ぎ」


 と、とても低い声でそう言った。


「おや。いたの。」

「いるよ。そりゃ。じっちゃんからの頼みだろ?」


 人を食いそうな眼と顔をしているが、話し方は幼い。

 女性は、竜を横目に笑う。


 水月に視線を向けた。


「私の力を授ける訳にはいかなそうだから、コイツを連れて行きな。ヌシは私だから、連れ回しても問題ないよ。」


 そう言うと、着物の裾からようやく見えた足元。蒼いピンヒールで、カツカツと水月の元に歩いて来たのだ。


「あの……」


 水月が戸惑うのをよそに、女性はしゃがむ。

 頭の上に手を置いた。


「アンタ、名前は?」

桐生水月(きりゅうみつき)です。」


 フッ……


 女性は笑った。

 優しそうな笑みを浮かべた。


「水月か。ちょうどいいね。」


 今までとは全く違う、優しい声でそう言ったのだ。


 ポゥ……


 水月の頭の上に置かれていた手が、蒼白く光始めた。

 女性は、その手を離した。


 立ち上がると、離れる。


 すると、水月の頭から全身に蒼白い光が行き渡る。



 バシャっ!!



「え………??」


 水月は……頭から水を被っていた。それは何処からともなく……突然、頭の上から水が落ちてきたのだ。


 まるで……滝のような水量であった。

 全身が……びしょ濡れになった水月は、呆然。後ろで見ていた楓たちもボー然としていた。


 誰もが……何が起きたのかわからなかった。



「いいよ。」


 と、女性はそう言ったのだ。


「え??」


 ポタポタと雫を垂らしながら、水月は濡れて落ちた前髪をあげた。シャワーを頭から被った様になってしまったのだ。


 すると、女性は身体を避けた。

 完全に水月の側から離れたのだ。


 水竜が動く。


 突然、水月めがけて突進してきたのだ。


「きゃあっ!」

「そのまま動くんじゃないよ!」


 悲鳴をあげた水月に、女性の激が飛ぶ。

 厳しい声であった。


 水竜は、尾の先が魚の様であった。

 長い身体をくねらせ……水月の胸元めがけて突っ込んだのだ


「水月!!」


 楓と灯馬が叫んだ時には、水竜は水月の身体に吸い込まれていく様に、入り込んでいた。


 正に……一瞬の出来事だった。

 尾までが入り込むと


 ちゃぽん……と、まるで池の中にでも魚が飛び込んだ様な音がした。水月の身体は、まるで水の中にいるかの様に、水面の揺らぎに、包まれていた。


 その揺らぎもやかて消える。

 水月を覆っていた蒼白い光も消えていた。



「それでアンタは、水竜を遣える。困った時に呼びな。心の中で、そうすればアイツは出てくるよ」


 女性はそう言うと水月に近づいた。


 スッ……


 水月に差し出したのは、さっきの水竜がまるでキャラクターにでもなったかの様な、キーホルダーだった。


 ネイルの指で摘まれてぷらぷらとしている。

 水族館などで売られている、イルカのキーホルダーみたいであった。



「これは()()()()。アンタは水竜と契約したんだ。だから、これを肌見放さす持ってな。」


 女性が、そう言うと水月は手を差し出した。ぽとっ。と、キーホルダーを右の掌の上に落とされた。エメラルドで出来た、キラキラした竜のキーホルダーだった。



「あ……はい。」

(……なんかコントみたいなんだけど……騙されてないよね??)


 とてもじゃないが……半信半疑の様子だ。


「大丈夫か?水月」

「ほら。タオル」


 灯馬と楓が駆け寄った。

 楓は、すかさずびしょ濡れの水月に、タオルを差し出した。


「お前は……ヌシなのか?」


 葉霧は……真剣な顔でそう聞いた。


(とてもじゃないが……ふざけてるとしか思えない……)



「そうよ。私は……()()()。この辺りのヌシだ。」


 水天竜はくすっと笑った。


「なぁ? さっきのは水月の中に入ったのか?あのでけーヤツ。大丈夫なのか?」


 楓は、タオルで顔や服を拭く水月を見ながらそう言った。灯馬は、髪をタオルドライしている。パタパタと。


「大丈夫だ。何ともないだろ?お嬢ちゃん。」


 水天竜は、腕を組み水月に視線を向けた。


「はい」

(びっくりは……したけど、いきなりだったし……何があったのか正直。わからないのよね)


 水月は、少し困惑している様な顔をしていた。

 だが、その返事はハッキリと応えたのだ。


 水天竜は、腕を降ろすと右手を腰に充てた。


「さっきも言ったけど、私はここから動けない。水竜は私の弟だ。ヌシ見習いだから何の問題もない。それに……あー見えてそれなりに役に立つはずだから。」


 その眼は、とても穏やかだった。

 笑みを零すと


「頑張んな」


 そう言ったのだ。


「ありがとうございます。」


 水月は、キーホルダーを握りしめていた。


「あ。なんで眼が紅くないんだ?今まで、逢ってきたヌシは眼が、紅かった。」


 楓は、水天竜の紺碧の眼を、見るとそう言ったのだ。


 宝石の様に煌めくが、真紅ではない。


「そりゃー()なんで。アタシはあやかしとは違う。神獣とか、霊獣とも呼ばれたりもしてるみたいだけど、アタシら龍は、神。つまり偉いんだよ。わかった??」


 水天竜は、楓にそう言い放った。

 威圧的である。


「神?すげー……」


 楓は、目をまん丸くさせた。


(とうとう……神まで出て来た……)


 葉霧は、少々ア然としている。

 余りにも壮大な話になってきたからだ。


(え? 私は……神様と契約したってこと??それって物凄いことなんじゃないのかな??)


 水月は……少しだけ青褪めていた。



































評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ