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第四十七夜 空幻と神楽

 ーー夜の十一時を過ぎた頃であった。


 葉霧がそこに訪れたのは……。


 月夜に照らされる山間の民宿【明日葉(あしたば)

 周りを囲む深い森。


 千葉県の外れ……。


鬼峡山(ききょうさん)】と呼ばれる山に位置する古民家をリノベーションした民宿だ。昔懐かしい茅葺屋根(かやぶきやね)の、源泉湯宿。

 囲炉裏造りや、土壁造りの客室……。源泉の露天風呂。

 などを、整えた宿泊施設。但し、一日一組限定のこじんまりとした宿の為、旅館とは言っていない。

 ❨料理から宿泊客の支度までを、子鬼の神楽(かぐら)一人でこなす為❩


 美肌の湯。と、今では言われているが元は傷治療に効くと言われていたらしい。


 人里離れた場所にあり、旦那もイケメン。人間、あやかし問わず癒しスポットとして女性に有名な民宿でもある。

 ❨山の幸と海の幸を取り入れた料理が絶品❩


 周辺には【養老渓谷(ようろうけいこく)】と呼ばれる有名な観光スポットがある。

 伝承の多い土地に、この民宿はある。


 ガラッ……


 戸を開ける。


 民宿の玄関は天井も高く……檜薫る和の象徴。

 情緒ある広い土間。


 オレンジの灯りに照らされたその玄関に……空幻はいた。


「お待ちしておりました。玖硫…葉霧様。」


 深々と……頭を下げる。


「玖硫です。夜分遅くに申し訳ありません。」


 葉霧も深々と頭をさげた。


 フンバとお菊も連れては来たが、二人は鎮音の用意した車の中で、眠ってしまった。


 片道一時間半の距離は……眠気を誘ったのだろう。


 空幻は……藍と紫の混じった濃いめの色をした着物姿で立っていた。葉霧を真っ直ぐと見つめる銀色の眼。

 漆黒の長い髪は……腰元まである。


「いいえ。お気持ちはわかりますから。お待ちですよ。」


 空幻は……にっこりと笑った。

 葉霧は上がった。


 既に……スリッパは一足。

 用意されていた。


 趣のある玄関から和室に通された。

 奥には囲炉裏も見える。


 茅葺屋根の裏側を見ながらゆったりと過ごせる広い空間になっている。


 空幻の開けた和室も、また落ち着いた雰囲気のある和室だった。

 神楽……と一緒に楓が座敷に座っていた。

 和風の座椅子は背凭れから腰元まで曲線になっていた。


「葉霧!」

「楓!」


 同時に……であった。

 お互いにその顔を見ると……駆け寄ったのだ。


「心配した!」

「ごめん。葉霧」


 空幻も神楽もいたが……そんな事は関係なく……二人は直ぐに、抱き合ったのだ。

 葉霧も楓も……強く抱き締める。

 お互いを。


 空幻と神楽は……くすっと微笑んだ。

 その様子に。


 暫く互いのぬくもりを感じていた二人は……ようやく顔を起こした。


「怪我をした……と聴いた。」


 葉霧は、楓の頬を触れる。

 その顔を見つめ心配そうにそう聴いた。


「ああ。大丈夫だ。空幻が治してくれたんだ。」


 楓のその声に葉霧は……座椅子に座った空幻に視線を向けた。

 少し……楓から離れた。


 空幻に身体を向けると頭を下げた。


「お手数お掛けしました。有難う御座います。」


 そう言ったのだ。


「いえいえ。どうぞ。お掛けください。退魔師殿。」


 空幻は……くすりと笑う。


 葉霧は頭をあげると楓と一緒に座椅子に向かった。

 神楽は……空幻の隣に座っていた。


「鬼……ですね?」


 葉霧は、神楽を見るとそう言った。


「ええ。私もですよ。」


 空幻は横でお茶を淹れる神楽を見ながらそう言った。

 神楽は……白い和装束を着て肘まで袖を括り

 その白い腕を出していた。


 丁寧に急須から茶を注ぐ。

 その所作は……とても姿が幼いので子供とは思えない。

 美しい所作であった。


「空幻は……人と鬼の子なんだ。前に話したろ?」


 楓は……葉霧が空幻の頭を見ているのを知るとそう言った。


「ああ。聴いた」


 葉霧はようやく納得した。

 鬼……角がある。そうゆう認識でいたから角の無い鬼は、はじめてであった。


「子……と言う歳でもないですがね。」


 空幻は少し……苦笑いした。


「粗茶ですが」


 神楽は、お盆に湯呑を乗せて葉霧に差し出した。


「お構いなく」


 葉霧が言うと神楽はにっこりと笑う。

 楓にも隣まで回り……お茶を差し出した。


「ありがと」


 楓が言うと、神楽は微笑む。


「それで……何があったのか教えて欲しいんだが……」


 葉霧は神楽が空幻の隣に座ると話を始めた。


「簡単な話ですよ。この辺りの農家や村を襲っていたあやかしに……楓さんは襲われたんです。」


 空幻がそう言うと


「この辺りでも、あやかしの被害は大きくなってるんです。今までは大人しくしていた者も……突然。暴れ始めてるんです。」


 神楽はそう付け加えた。

 空幻はお茶を啜る。


「そちらの街ではどうですか?」

「確かに……人間を襲ってるあやかしがいるのは間違いない。」


 空幻は湯呑を置いた。

 葉霧は……静かに答える。


「でもそれは……退魔師が復活したからだろ?」


 楓がそう言うと


「それだけ。じゃなさそうですがね。確かに……退魔師に力勝負を仕掛ける者や、恨みをぶつける類いの者もいるでしょうが……こんな辺鄙な土地で、人間を襲う……。」


 空幻は……銀色の眼で真っ直ぐと二人を見つめた。


「また()()()()だと思いますよ。」

「別の目的?」


 楓が聞き返す。


「と、言うよりも……穏やかに暮らしていたあやかし達が、本能に目覚めた。と言う方が正しいかな?秩序が乱れ始めた。」


 空幻の最後の語尾はとても強かった。


「秩序……」


 葉霧はそう呟く。


(そう考えると……あの()()()()()()()()が、出てきたのも……偶然じゃないのか。各地であやかし達が暴れているとしたら……彼女の言ってる事も強ち……間違いではない。)


 穂高 沙羅のことである。

 彼女も……あやかし達が人間を襲っていると言っていたのだ。

 葉霧は……それが何も魔都(まと)と、呼ばれた東京だけの話では、無さそうだと思ったのだ。


 今回の……この千葉での出来事で。


「てことは……全国各地で起きてる。ってことだよな。」


 楓がそう言うと……葉霧は視線を向けた。


(どうやら……同意見の様だ)


 と、少し笑う。


「私も……情報は集めてみます。この時代を何も……不満なく過ごして来た……とは言いませんが、あやかし達も平穏な暮らしをしていたのは、間違いありません。」


 空幻は葉霧を見据えた。


「その暮らしを捨てて……本能剥き出しに戻る。と言うのは……180度、変わると言う事です。突然変異。そうとも取れますね。」


 葉霧はそれを聞くと……


「誰かが……裏で糸を引いてる。」


 と、そう言った。

 空幻は目を丸くしたが微笑む。


「それはまた……極論ですよ。それに……元々、仲間意識は強い方じゃ無いんです。彼等が人間を襲うのは本能。元に戻っただけ。とも、言えますね。」


 葉霧と楓は……空幻と神楽に御礼を言って帰る事にした。

 帰りに……神楽から薬湯粉を貰った。



 帰りの車で……葉霧は


「強い味方が出来たな。」


 と、そう言った。


「ああ。オレらだけじゃ……なかなかコッチまで情報集めんのも大変だからな。」


 楓はそう笑いながら葉霧の膝に頭を乗せて眠るお菊の

 頭を撫でた。


 すやすやと寝ている。

 フンバは楓の膝の上でイビキかいて爆睡中。


「休みの日は……少し遠出をして情報集めをするか。」


 葉霧は隣の楓を見るとそう言った。


「え?大変じゃね?学校あんのに」


 楓はよくわかってないが……毎日出掛けるからそう言った。


「いや……知らない所で怪我をされるよりマシだ。本当に、心配したんだ。倒れるなんて無かったから。」


 葉霧はそう言うと楓の頭を引き寄せた。


「わ………」


 急に肩に頭を引き寄せた葉霧に、楓は顔を真っ赤にさせた。


「コッチ向いて」


 葉霧がそう囁く。

 楓はその声に顔をあげた。


「…………!」


(だ……大胆すぎませんっ!?最近!)


 急にキスをされたので驚いてしまった。

 舌は……入ってこなかったが。


「続きはあとで」


 葉霧は楓から唇を離すと微笑む。


(うわ~………なんだろ?すげードキドキする。魔性だ……)


 甘く囁やき……優しげな瞳で微笑む葉霧。

 さらに……誘惑される。

 楓はノックアウト!であった。







































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