第四十一夜 葉霧の気持ち
【蒼月寺】
「おかえりー」
葉霧はその声にどさっと、鞄を落とした。
出迎えてくれたお菊も驚いていた。
「何してる?」
その声は……とても低い。
「へ?」
和室にいるのは楓とフンバ。
優梨に夏芽、鎮音と、揃っていた。
テーブルの上には京都のお土産がずらっと。
しかも片っ端から箱は開きまさに皆で……満喫中。
楓は……生八ツ橋を食べていた。
口の周りは白い粉だらけ。
「お前……よく帰って来れたな?」
葉霧のその表情はとてつもなく険しいを通り越して
激しいブリザードに包まれていた。
「あ……いや。え?手紙書いたでしょ??」
「楓!」
葉霧が怒鳴ると
「あ~葉霧様っ!お墓参りです!」
フンバが直ぐに葉霧の前に飛び出した。
小さな身体でぴょんぴょんと跳ねる。
「墓参り?」
ギロッ……葉霧は楓を更に強く睨みつけた。
「京都。行って……」
「ちょっと来い」
葉霧はそれだけ言うと和室から離れた。
鞄を持って。
「え??まじ~~~~やばくね?オレ……消されるかも」
「楓殿。謝るしかねーです。アレは。」
楓とフンバは出て行った葉霧の怒りのオーラに
完全にビビっていた。
「あれはマズいわね。」
「キレてたな~」
ぼりぼりとお土産の煎餅を食べながら優梨と夏芽も
頷いていた。
ずずすっ……鎮音はお茶を啜る。
ただ静かに。
✣
コンコン……
「入りま~す」
楓はその手にお土産の箱を持っている。
詰め合わせて持ってきた。
葉霧の部屋のドアをノックした。
返事はない。
(やべ~~~ど~しよ。史上最悪にキレてたな。オレ……生きて出れるかな?この部屋……)
ガチャ……
楓は葉霧の部屋に入った。
葉霧は制服姿のままベッドに腰掛けていた。
入ってくる楓を睨みつけていた。
「葉霧。これ……」
(おっかねぇ~~~。まじおっかねぇ。ヤバい。コレは殺されるオレは……死ぬんだ。今日ここで。)
楓はお土産の箱を持ちながらそろそろと部屋に
入る。
完全に覚悟していた。
退魔の力で消される覚悟だ。
すっ。
葉霧は立ち上がると楓の前に立った。
楓はお土産の箱をテーブルに置いていた。
グッ。
と、顎を掴む。
殆ど押さえてそのままあげさせた。
「え………?」
(な……殴られる!?)
楓がそう思うほどだ。
その力も強かったし……何より眼が恐い。
とても鋭い。
だが……葉霧がしたのは拳の制裁ではなかった。
楓の唇を塞いだ。
その唇で……。
「………」
(わ!)
ぺろっと唇を舌で舐められた事で楓は……
その唇を少し開く。
葉霧のやわらかな舌が滑りこんだ。
(……え……舌………入って………)
楓の思考は……そこで止まった。
葉霧の手はするっと力が抜かれた。
顎を押さえていた手は……楓の頬に添えられる。
触れる……その優しい手で。
右手が腰に回る。
しなやかなその腕が腰を強く抱いた。
舌が這う……。口腔を……。
(………葉霧………)
楓は……与えられる感覚にその感触に自然と……
その手を葉霧の胸元に伸ばしていた。
密着するその身体。
舌を吸われて……楓は……ぎゅっと葉霧のニットを
掴む。
ドキドキ……するはじめての濃厚なキスだった。
✣
ぼけ~~~~っとしていた。
楓は。
葉霧は楓の頬を撫でると
「好きだよ。楓。」
優しいその声で囁いたのだ。
「え………」
(……今………なんて………?)
楓は目を見開いた。
葉霧の少し……色気を見せるその瞳。
優しさの中に熱を持つ……惹き込まれてしまいそうに
なるその瞳を、見つめていた。
「言ってなかった」
葉霧は楓の頬を撫でながらそう囁いた。
いつも以上に……優しくて甘い声音……。
「………言って……ないのは一緒だ……」
(……ちゃんと言ってないのは一緒だ。恋人なんて言われて……葉霧は優しいから……オレの居場所を作っただけだと思ってたから……)
楓は葉霧の優しくて暖かな瞳を見つめながら
「葉霧……好きだ……」
そう言うと……そのまま抱きついた。
葉霧は楓の身体を……ぎゅっと抱きしめた。
「楓」
葉霧は楓の髪を撫でる。
滑らかなその髪を……
「墓参りに行くなら……どうして言ってくれなかったんだ?」
(…………あ…………)
楓は葉霧の少し寂しそうな声を聞くとハッとした。
ぎゅっ。と、胸元で手を握りしめた。
「ごめん………急に行こうと思ったんだ。思うところあったし」
葉霧は楓から身体を起こす。
離れた事を知ると楓も頭をあげた。
葉霧は楓の頬をなぞる様に触れた。
その手で……。
寂しそうな目をしながら見つめる。
楓の揺れる瞳を。
「いつか……一緒に行こうと思ってた。俺と楓にとって大切な場所だから」
楓は……葉霧の揺らぐ瞳を見つめた。
切なげなその顔を見ると自然と頬に手を伸ばした。
添える。
「ごめん……葉霧。」
楓は……泣きそうな顔をしていた。
葉霧はくすっと微笑むと
「いつか……行こう。二人で皇子達に会いに……」
頬から手をスッ……と、楓の唇に触れた。
親指でなぞる。
「もう一度………」
甘く……響く。
その声音……。
楓の顎を掴むとあげさせた。
唇を開く葉霧に……楓もまた唇を開く。
重なる………。
ぎゅっと抱きしめながらお互いにその暖かな舌を
感じ合う。
確かめ合う様に口づけした。
堪能……していた。
お互いの気持ちも……本当に伝え合った日だった。




