表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
14/92

第四十夜 終わりと始まり

 ーー京都。


 千年の都ーーと言われた古都だ。


 その歴史はとても古く日本の政治の中心として

 栄えてきた地である。

 神社仏閣、史跡……歴史的建造物が多く残り……

 観光地としても有名だ。


 都市の景色に折り混ざり山や自然も残り……

 尚且……歴史を彩る古都の風景も残す。


 魔界……と呼ばれていたその頃と全く異なった景色

 であった。


 楓と浮雲番(フンバ)が、訪れたのはそんな

 市街地から少し離れた山……。


 東寺が望める山に来ていた。


鳴神山(なるかみさん)】と呼ばれる山だ。

 未だ自然のままで遺されてはいるが、然程高くはなく小さな山であった。


「こんなだったか?」


 楓はフンバを背中のフードの中に入れたまま

 山の中を登る。

 緑に囲まれ陽の光が空から差し込む。


 生憎の雨も……朝方には止んだ。


 夜通し跳んできたから昼過ぎにはこの山に到着した

 湿った葉の匂いが広がる。


 土の地面も泥濘んでいた。

 歩道とはちょっと言い難い丸太で出来た階段を

 登ってきたのだ。


「だいぶ削られたんすね。でも……お菊の里もそうっすよ。半分はもう……開発に回されてダムになっちまいやした。」


 フンバはぴょこんと、フードの中から頭をだした。


 優梨に買って貰ったぬいぐるみ用の黄色のレインコートを、着ている。


 楓も今日は透明のレインコートを着ている。

 余りにも濡れてしまったので、途中で買った。


「お菊って何処から来たんだ?」

「北の方っす。」


 フンバは長い爪でレインコートのフードをあげた。

 雨が止んだから、滴る水滴が気になるらしい。


「そうか。」

(嘆声し娘(ててなしこ)は、彷徨う子供達だ。色んな所から歩いて来たんだろうな。)


 楓は歩きながら少し……哀しそうな目をしていた。

 切なくなったのかもしれない。


 この山は地元の人しか入らないのか……山道の脇は

 崖の様になっている。


 切り崩された山がそのままになっていて

 この丸太の階段から足を滑らせたら真っ逆さに

 落下するだろう。


 土と曲がって生えた木々が曲面に広がる。


 高さは無いので、頂上に着くのも早かった。


「ここだ。」


 楓は木々に囲まれたその場所にたどり着いた。


 頂上と言っても……この先も山になっている。

 ただ、人が進めるのがここまでだ。


 傾斜のある森が前方に広がっている。


 ここも土の地面がぽっかりと浮き出た様な場所だ。

 目の前の岩を拝む為の場所を……作った足場。

 その様に見えた。


 岩にはしめ縄がされていて、申し訳無い程度に

 神棚が供えられていた。


 やはり……玖硫の地ではないからそこまで崇拝されてはいないのか。

 それとも……禍々しい土地だから踏み入れたくないのか。


 ここに来るまでも人が立ち入った様子は無かった。

 何しろ登山口には……立入禁止のフェンスもあった。


 楓はそれを軽々と飛び越えて入ってきたのだ。


 楓は持ってきた花を神棚の前に手向ける。

 フンバは楓から降りる。


 楓の横に立つ。


「フンバ。火」

「へい」


 楓は……線香を持っていた。

 フンバは腰に巻きつけたねじり鉢巻に挟んである

 ライターを取り出した。


 楓は受け取ると火をつける。

 束になった線香に。


 神棚の前に花と一緒に置いた。

 地面の上に。


 白い煙があがるなかで手を併せる。

 フンバと共に。


(……皇子(みこ)。雪丸……珠里(しゅり)。そして……山の鬼たち。来るのが遅くなってごめん。)


 楓は目を閉じた。

 フンバも拝む。


 暫く……手を併せていた楓は目を開けた。


「ここで……皇子と雪丸。たくさんの鬼達が死んだ」

「…………へい………」


 フンバは顔を俯かせた。

 頭からねじり鉢巻をとった。

 茶色い毛は後がついてしまっている。


 紫のくりっとした眼もしゅんとしていた。


 楓は立ち上がると辺りを見回した。


「終わりの場所だ……。闇喰いとの戦いが。」


 楓は岩を見つめる。

 穴を塞いだその岩は今もしっかりと健在していた。


(……イヤな予感がして見に来たが……皇子の結界は解かれてねぇみてーだな。)


「そして……始まりの場所だ。」

「へ?」


 フンバはその声に顔をあげた。


 楓は目をとじる。


(オレにとって……ここから始まる。過去に踏ん切りをつけて……今から……始まる……)


 楓は目を開けた。


「ハラ減ったな。なんか名物でも食ってくか?」

「へい!お土産も買うっす!」


 楓とフンバは……螢火の皇子(ほたるびのみこ)

 雪丸、そして……珠里。その家族と鬼たち。


 眠る地を後にした。



 ✣


 葉霧は……その頃。


 学校の屋上にいた。


(妙な気配がしたから……来てみれば……)


 屋上には……あやかしがいた。


 黒い翼をバサッバサッと羽ばたかせている。

 鬼の様な長い顔。

 角が額に生えていた。


 黒い身体は禍々しく光……長い手足は筋肉質。

 細い身体に腰に布を巻いていた。

 たてがみは無くその代わり……耳がとても長く

 頭の上まで生えていた。


 長い爪を持つ……あやかしだった。


餓鬼(グール)


 と、呼ばれるあやかしだ。

 コウモリに化け人の生き血を吸い貧血させると

 その身体を喰らう。

 血と肉が好物の鬼のあやかしだ。

 獰猛な爪で死肉まで削ぎ落とし骨しか残さない。


「お初にお目に掛かります。此方に生きのいい坊っちゃんとお嬢さんがいると聞きまして。」


 牙は二本。

 笑うと口元から覗く。

 眼は……灰色に濁り逆三角のカタチをしている。


 悍ましい顔だ。


「こんな所まで来るとはな。お前達に都合は関係ない訳だ。良くわかった。」


 葉霧は言うより早く右手を掲げた。

 その表情は既に眉間にシワを寄せかなりご立腹。


「フフフ……では早速。頂きましょう!」


 ブワッ


 空に浮く。


 バサッと一度、羽をはばたかせると急降下。

 葉霧めがけて突っ込んでくる。

 頭から。


 葉霧は


「そうやって突っ込んでくるから消される」



 カッ!!!


 その波動は今までに無いほどの威力であった。


 白い光の炎が向かってきた餓鬼の身体を一瞬で

 包んだ。


「グアッ!」


 炎に包まれたその身体が屋上に落ちてくるのを

 葉霧は更に波動を放つ。


 追い撃ちを掛ける様に。


「グェェェェ!!」


 けたたましい程の奇声を上げて餓鬼はその身を

 焼き尽くされる。


 葉霧は右手を降ろした。


 餓鬼の炎に焼ける姿を見つめる。


 フフフ………


 焼かれながら餓鬼は……不気味に笑う。


「アナタは………逃げられない……()()()()から……」


 最期の言葉を餓鬼は放ちその身を焼き尽くされていく

 葉霧はただ、見つめていた。


 冷たい眼で。


(群れがあるのか。)


 葉霧は右手を握りしめていた。


 空はまた雨が降りそうだった。

















評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ