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「時間を指定して移動できるの?」

「……え、」


 いきなりの言葉に涙目で顔を上げたからだろうか。面食らったように言葉をなくしてから優希は視線を外した。


「だ、だから…移動する時間を指定できるんなら、事件があった時に移動して直接見ればいいだろ。そしたら全部わかるだろうし」


 確かにそのとおりだ。だが、そのような事ができるのか?こればかりは謎の空間で子供に聞いてみる他ないだろう。


「……もし出来なかったら…。お前はそれでもいう気はないのか?」


 全てを知っているのは今や優希だけである。俯いたと思えば覚悟を決めたように顔を上げ、しかし再び俯いては目を泳がせる。ようやく顔を上げると言った。


「ダメだったら全部話す。……それに、見れたとしてもきっと俺に会いに来るだろうしね。それまで待ってる」







 ---------------------


 優希と別れ、その足で桜の元へ行くと強風に煽られた花びらがあたり一面に舞っていた。まるで雪のように暗闇を彩るそれに目を奪われたのもつかの間。美しい光景を楽しむ余裕などない。行かなくては。


 瞼を下ろした瞬間、取り囲む空気が変わるのがわかった。暖かく湿気を帯びた風は一瞬で凪ぎ、冷たくピンと張り詰めたものになったのだ。

 腰をおろしたままの状態で目を開けると、真っ黒な何かが視界に広がっている。顔を上げると、そこではあの子供が見下ろしていた。

 布が鼻先に触れる距離で見下されてるにも関わらず、あの子供の顔は見えない。もはや何かの意図によって口元より上は消されているように感じた。


「あと7回」


 抑揚のないいつもの声。声変わり前だろうか。高めのその声は女か男かも分からない。ましてや顔も分からず、服装はただの真っ黒な布だけだ。視覚情報にこれほど頼っているなんて知らなかった。


「なぁ、移動する時間と場所は指定できるのか?」


「できる」


 まるで問われることを知っていたような即答だ。その事に若干の違和感を感じつつ、ならばと腰を上げた瞬間であった。


「回数は2回分だ」


「…っ!?じゃ、じゃあ、残り回数は6回になるってことか!?」


「そうだ」


 そうなるとこの一回をムダにはできない…何もかも目に焼き付けねば。


 握りしめた拳を額に当て、幾度も深呼吸を繰り返す。ようやく遥が殺される理由がわかる。そしてその犯人もわかる。これらを知ってどうするのか、その後どうするのか。両方とも考えていない。だが今は考えず、ただただ事の真相を知ろうと思う。

 時間にすれば一瞬であろうこの時を、子供がずっと見ていたような気がした。



「…よし!頼む!!遥が殺されたあの日、あの時間の倉庫に移動してくれ!」


「…………どうか、」







 ----------------------


 うるさいほどの風の音で目が覚めた。子供が何か言いかけなかったか?そんな思考を遮るように、甲高い風の音に恐怖心を煽られる。視線を横へ向けると見覚えのある割れた窓があった。そこから照らす月明かりが唯一の光源となっている。起き上がり更に視野を広げてみれば、どうやらここは遥が殺されていた倉庫のようである。積み上げられた木箱の上に、俺はどうやら寝ていたらしい。


「……まだ、来ていないのか…」


 この木箱からは倉庫のすべてが見渡せる。しかも前にある箱によって影ができており、ある意味死角のような場所であった。まさに絶好の位置である。

 相変わらず窓ガラスを叩く風の音がうるさい。更に甲高い風鳴りが合わさって、反響する倉庫内は大合唱だ。


 それらがだんだんと弱くなってきた頃、頑丈な金属製の扉が叩かれた。いや、扉にぶつかった音だろうか。そのままガチャガチャと騒がしく音を立て、何かが合致するのを最後におさまった。


「…ここであってるんだよな?」


 心臓が飛び跳ねるのがわかった。これは遥の声だ。少し低くはなっているものの、聞き慣れた声を間違うはずない。そっと隙間から覗けば、シワ一つないストライプのスーツを身に着けている。あの時と同じ服装だ。


 片手にはナスカンで繋がれた鍵の束が握られ、先程の言葉から察するに、誰かに呼び出されたようだ。落ち着き無く倉庫内を見回し内部へ入っていく。が、慌てて戻ったかと思えば、律儀に金属製の扉を締めおまけに鍵までかけ直している。

 自分のノートの中やカバンの中は散らかすくせに、何故かタンスや部屋は片付いている。変なところで几帳面な性格は、例え10年経っても変わらないらしい。


 こんな状況であるにも関わらず、暖かな気持ちになったのもつかの間。再びあの金属の扉が揺れ始める。照明となるものを持っていない遥は月明かりだけが頼りなのだろう。扉から少し距離を取った上で、肩幅程度に足を開いている。きっと運動音痴な遥にとって、これは身構えているつもりなのだ。


 そして、遥の緊張が俺にも伝わったのだろうか。ドクドクと早鐘を打つ心臓を抑える手段を知りたい。初めて遥の死体を抱いたあの日からずっと知りたかった。どうして遥が殺されなければいけなかったのか。今か今かと高まる気持ちを抑えきれない内に扉は開いた。



「…あ、いたいた。おまたせしました〜」


「………………っ!?!?」


 咄嗟に両手で口をふさいだ。

 どうして!?そんな言葉や思い。それから悔しさ、怒り。何もかもがグチャグチャで抑えた手を噛み締めてしまっていた。じんわりと広がるその血と、視界を滲ませる涙によってなんとも言えない不快感である。

 だが、この気持ちに呑まれる訳にはいかない。俺は見届けなければならないのだ。この時間に起きたすべてを。



「…っ、でも…なんでなんだよ、優希」





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