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 気付いたときには胸ぐらを掴んでいた。


「………………」

「…………………っ、はぁーーーーー…」


 しばらく威圧を掛けたものの、ただ見返すだけの優希に折れる意思がないと察しその手を離した。

 自分で決めたことは絶対に譲らない。小学校へ上がってからはこの頑固さで同級生複数人と対立したこともある。その結果、例え自分一人が孤立したとしても絶対に優希は譲らないのだ。


 その時に問いかけたことがある。

「独りぼっちになってもいいの?」

「やだよ!でも正しいと思ってやってるもん!きっとみんなわかってくれるよ!」

 その無邪気な笑顔に俺は何も言えなかった。たった一人の家族が孤独に苦しむかもしれない。だが、自分の信念を曲げてまで、誰かに同調する必要などあるものか。否定をすることも応援することも、どちらも出来なかったのだ。


 手を離し深い深い溜め息とともに今一度椅子へ腰掛ける。項垂れるようにして頭を押さえ込んでしまったがもう力など入らなかった。


 思えば優希に自分の感情を見せたことがあっただろうか。両親がいなくなったあの日から、自分は優希の兄弟であり親となった。だが、どこにでもいる子供でもあった。

 両親の葬式の場で親戚同士が揉めはじめた時には、慌てて優希を寝かせた。自分たちを巡る言い争いは、それはもうヒドイものだったのだ。ましてや本人たちの目の前で言ってしまえるのだから、気遣いがないというかなんというか。

 それでも親戚たちへの同情もあった。いきなり育ち盛りの子供が二人も増えることなど、誰だって想定外だろう。

 結局何軒もたらい回しにされた挙句、親戚一同で学費は払うからあとのことは自分でやれと追い出された。


 これからは優希と二人で生きていく。

 学校で授業を受ける。休み時間に友達と笑い会う。保健室でサボって昼寝。放課後に買い食いをしながら帰る。そんな当たり前にある幸せの切符は、きっと1枚しかない。


 優希に幸せになってもらいたい。


 だから俺は、あの日に子供を捨てた。親であり兄弟。弱いところなど見せず、いつだって余裕のある態度で接した。自分の親がそうであったように、自分も優希へは優しさを持って対応した。

 幾度となくその歳で立派だとか、えらいだとか、しっかりしている等と言われた。

 でも本当は甘えたかった。代わりになってくれる人が欲しかった。立派なわけがない。えらくなんてない。しっかりしている訳がない。

 いつしか完璧な自分以外、誰にも見せられなくなっていた。





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