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「…よぉ、昨日ぶり」


 約束通り同じ時間に訪れると、複雑そうな表情で優希は迎えてくれた。促されるまま中へ入ると、相変わらずキレイに片付けられた室内はどこか生活感が無いようにも見える。

 それを一番に感じたのは居間から見えるキッチンだった。洗われた食器が全て戸棚に仕舞われている。箸やフォーク、包丁も何もかも全てだ。来客があるからと事前に片付けておいたなら納得がいく。だが昨日も今日も完全にこうであった。


 昨日自分が兄だとバレたのだ。今更飾る必要はない。それなのに、ここまで完璧に片付いているのは訳がある。きっと、食器を使う必要がないのだ。食べていない。飲んでいない。だから食器を使わない。

 自分の兄とその恋人が亡くなったのだから、食欲がなくなるだけのショックを受けたのかもしれない。だがそれならば、昨日の他人事のような物言いと態度は何なのだ?矛盾したこの事実は、トゲのようにじわじわと不快にさせた。


「さて、と。…それで?兄貴はいま何歳なの?見た感じ高校生ぐらい?」

「そうだね。いま17歳。優希もそのくらいか?」

「そ。17歳。初めてあった時に言ったでしょ?咄嗟に鯖読もうかと思ったけどね。あ、いいよ。座って座って」


 言われるままに居間のテーブルへつくと、優希は冷蔵庫を覗き込む。そこから飲み物を手に、向かい側へ座ると本題へ入った。


「兄貴はさ、どうやってここにきたの?」


 聞かれるとは思っていたものの、これが一番難しい回答であった。今日も来るときに通過してきたあの場所では決まって回数を告げられる。通るたびに減っていくそれは、この時間移動の残り回数だ。

 今回、あの子供にたった一言問われた。

「殺された理由が分かったらどうするのか」と。

 正直そんなことは分からない。理由にもよるし、相手にもよるだろう。そもそも聞いたところでこの子供には関係がないのではないか?

「さぁ?復讐でもするのかなぁ?」

 適当に答えたその瞬間、子供はいきなり距離を詰めてきた。大股で。ズカズカと。触れるかどうかという程の距離まで来て俺を見上げる。その口元がようやっと見えた。

「絶っっっ対にダメだ!」



「っ!いってぇ!…って、あれ?」


 またいつも通り手荒に桜の根元へと移動させられていた。残り8回の回数とともになぜか叱られたのである。何とも言い表せないモヤモヤした気持ちであった。


「んー、まぁ、なんつーか。決まった場所で寝ると移動できるみたいな?俺にもよくわかんねぇ」

「はぁ?何だソレ。移動しようと思ってやってるんでしょ?」

「…まぁな」

「大体、何でこんなとこ来てんの?知ってるでしょ?遥さんも兄貴も死んだ。それに関係あることなの?」


 清々しいほど単刀直入だ。これは小細工をした所で見抜かれるだろう。こちらも腹を割るしかない。


「遥がなぜ死んだのか知りたい。ただそれだけだ」


 その瞬間明らかに優希の顔が変わった。むしろ隠すつもりなど無いのだろう。眉根を寄せ、怒りを滲ませた目はもはや全てを物語っていた。


「優希、教えてくれ。誰に殺されたのか、なんで殺されたのか。お前は両方知ってるんだろ?」


 肯定も否定もせずに、ただこちらを見返すばかりの優希は言葉を続けるのを許してくれない。緊迫した空気が流れる室内に、突如穏やかな鳴き声が聞こえた。

 壁にかけられたハト時計が正午を知らせていたのだ。両親が亡くなる前に買ってきたその時計は、購入する際に優希と俺でひと悶着あった代物だ。

 何がなんでもデジタル時計がいいと主張する俺に、何がなんでもハト時計がいいと譲らない優希。一歩も譲らないその戦いに、母の「じゃんけんで決めなさい」の一言で一発勝負をするも惨敗。しかし悔しさから3日間弟と口をきかなかったのだ。

 あの時計は10年後も正午を告げている。その懐かしさに気がそれた時であった。



「ダメ。絶対に言わない」


 視線を戻せば、優希は俺から目をそらす事なく真っ直ぐ見据えて告げている。


「何でだよ。まさか本当に俺が殺したのか?」

「言わない」

「っ!!」







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