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「こんな店あったっけ?」


 何かがおかしい。先程からずっと同じことを繰り返し思っている。あの角の店はこんなに古かったか?あの店の並びにこんな店があったか?

 俺の家はこんなに古かったか?


「……優希…」


 10歳下の弟はまだ7歳。電気をつけたままでなければ寝れないのだ。だから例え深夜だろうと、俺の家に電気がついていないことは異常なのであった。ドクン、ドクンと鼓動が早まる。

 弟に何かあったのではないのか。そう思ったらいてもたっても居られなかった。甲高い音を立てポケットから鍵を取り出し玄関へ向かう。その時だった。


「……俺ン家に何か用ですか」


 明るい茶色の髪と幾つものアクセサリーとピアス。振り返った先にはいかにも遊び人と思わせる男が立っていた。


「聞こえてンの?そこ、俺ん家。俺の家に用があるなら今ここで話してくれる?」


 敵対心を剥き出しにしたこの男は俺と同じ通信制の高校の制服だ。ということは同級生?そう思っている間に男は近づき、その顔が街頭によってハッキリと映し出された。


「………優…希…!?」


 見間違いようがない。弟だ。


「…え?アンタだれ?なんで名前知ってんの」


 さらに不審感を露わにする優希と似ている男。気の利いた答えを言いたいところだが、こちらは目の前で起こっていることに理解ができていない。

 なんせ目の前に弟に似ている人物がいて、そいつはここが家だと言っている。だがここは間違いなく俺の家だ。


 となるとこの男が俺の弟だとして…いや、そんなことはない。弟はまだ小学生。7歳だ。コイツはどう見ても高校生だ。少なくとも10歳も違う。

 10歳…10年……そんなことあるわけがない。でも、仮にここが10年後なんだとしたら。


「あ、アハハ。ご、ごめん。えーっと、その、佐久間優希くん、だよね?」


 彼の眉間に更にシワが寄る。


「そうだけどなにか?」


 ………ウソだろ。


「佐久間優希くん。17歳。で、ここが君の家」


「…そうだよ」


 いいようのない不安が押し寄せてきた。この目の前にいる男が実の弟で、その男はここで敵対心をむき出しにしていて、周りの店も道も違っていて。

 そんなまさか。遥に連絡してみよう。きっとみんなで俺のことを弄んでいるのだ。こんな茶番にはもう飽きたから終わりにしよう。そう言ってやろう。

 だが携帯の電波表示は圏外だった。


「で、いい加減してくれる。この深夜に俺ん家の敷地内でアンタ何してんの。泥棒なら警察呼ぶよ」

「あっ!ちょ、ちょっと待って!違う違う!あー、えっとその…き、聞いてないかな?ほら、お前んとこの兄さんから頼まれて来たんだよ」

「…兄貴から?」

「そっそう!えーーーっと、おれ、その…遠い親戚なんだよ!」


 バレるか?


「へぇーそーなんだ!なーんだ!同い年の奴がいるなんて知らなかった!アンタなんて名前?」


 固まってしまった。むこうにバレてるにしろバレてないにしろ名前が同じでは怪しまれる。かと言ってとっさに名前なんか出てこない!!


「……ゆ、」

「ゆ?」

「優馬です」


 半分自暴自棄であった。大体この顔立ちでバレない訳がない。もう兄として接していくしかないだろう。


「へぇー!兄貴と一緒じゃん!すげぇー!運命ってやつ!?」


 いきなり目を輝かせて手まで握ってくる優希。大丈夫かお前。


「いやほんと、運命だよ。すげぇーなー。ま、とりあえず上がってよ」

「え!!いやいや!さすがに悪いし!それにほら、えっと、俺ちょっと時間が…じゃ!!」


 静止する優希を振り切り慌ただしく駆け出してしまった。ここからどうやってもとの世界に戻るのか。そもそもここは本当に10年後の世界なのか。あの男は本当に弟なのか。すべてがグチャグチャであった。





 気付いた時には海沿いの倉庫街にいた。自宅から近いとはいえ、縁のない場所だ。


「……ん?」


 ふいに視界の端に何かが写った。白い布?


「なんだ?」


 海風に煽られヒラヒラと舞うそれを目で追っていると、倉庫横に正方形の木箱が見えた。その上には開いたままの窓ガラス。人が一人入れるほどの大きさだ。

 あの木箱の上に乗れば倉庫の中に入れる。何となくそう思ってしまった。


「…っと、侵入成功〜」


 この謎の世界に閉じ込められてしまうかもしれない。あの弟に似た人物がなんなのか。解決しなければいけないことが山積みなのに、どうでもいい好奇心を優先してしまった。

 携帯でライトをつけ、まるでホラーゲームのような気分になりつつ倉庫内の探検を開始した。

 適当に歩いてみるが、どうやらこの倉庫は使われていないらしい。あちらこちらに錆びた機械が放置され、あの木箱も壊れたまま散らばっている。窓ガラスも割れているのだからこれでは廃虚だ。

 戻ろうと踵を返したところでキラリと光る何かが目に入った。


「来るときは気づかなかったな」


 それを拾おうとして俺は固まった。いや、動けなくなったと言っていいだろう。人の足が見えたのだ。


「…っ!!す、すみませ」


 誰もいないと思っていたが故に、動転して後ろの木箱に強かぶつけてしまった。だが、目の前からは何の反応もない。顔を上げてみれば正面にはライトに映し出された男が倒れている。しかもそこは血の海だ。


「う、そだろ…大丈夫ですか!!しっかりし………え…」


 仰向けにさせた男の顔を見て固まってしまった。

 例えボコボコに腫れ上がり、血まみれの顔であっても見間違えるはずがない。遥だ。すっかり大人びているが間違いない。スーツ姿の遥がここにいる。その脇腹にはナイフが刺さり、背中には木箱の板であろうか。それらがいくつも刺さっている。


「う、そだろ…遥…は、はるか!!オイ!!しっかりしろ!!」


 もう見つかる事など頭になかった。彼がどうして怪我をしているのか、誰にこんなことをされたのか、それを聞き出そうにも彼は一向に起きる気配がない。

 それどころか呼吸すらしていない。


 なぜ、なんで、どうして、


「うわぁぁぁぁあああ!!!!!」





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