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BGMは「Angela」さんの「Peace of mind」をどうぞ。
4ページ目から諸々動き出します。
「もし貴方が世界を変えられるとしたらどうしますか?」
「ゆーーーーまっ!」
「うわっ!?…何だよ、脅かすなよ」
いきなり肩に手を起き声をかけてきたのは遥だった。
「ごめんごめん、今日バイトって言ってただろ?だからココ通るかなぁって思ってさ。待ち伏せしてたんだよね」
アハハと楽しそうに笑い並んで歩く彼は、篠宮遥。
中学は優等生。そのまま進学校に入学し、今年受験だというのにお気楽に出歩いているバカだ。
だが、要領がいいと言うのだろうか。それでも学年トップ10に必ず入り、あの有名大学へ進学するのではと噂されている。実際に問い掛けてみてもはぐらかされるばかりで、手のひらで転がされている気分だ。
一方、俺は中学はいわゆる不良というか、問題児というか…。学校にはまともにいかず不登校。素行が悪いことに変わりはなかったが、不登校には訳があった。
俺が中学校へ入学したのと両親が列車事故に遭ったのは同じ年だった。弟と二人、親戚にたらい回しにされた挙句「学費は払うからあとのことは自分でやれ」と最後の家を追い出されたのだ。
それからは幼いの弟と二人での生活。アルバイトの日々を送る俺は、とても学校になど行っていられなかった。
それでも毎日のように登校時間になると訪問し、下校時間になると遊びへ誘う。いくら断られても来続けたのは遥一人だけだった。
「俺の事情は知ってるだろ?もう来ないでくれ」
自分は弟の親であり兄でいなければならない。
その為には、当たり前にあるはずの子供らしい日々は捨てなければと思っていた。
「イヤだ。明日も明後日も明々後日もずーっと来る」
まだ声変わりもしていない幼い遥の声は今でも思い出せる。
「っ!!お前なんかに俺の何がわかるってんだよ!!なんで俺に執着するんだよ!!来るなって言っ」
「お前のことが好きだから」
その一言はハッキリと告げられた。
「はぁ?何言って…」
「俺、友達としてお前が好きだよ。初めてあったときからずっと」
恥ずかしそうな素振りもなく、まるで世間話でもするかのように遥は続けた。
「でも俺気づいちゃったんだよね。多分、友達以上に優馬のことが好きなんだって。だからさ、俺の嬉しいこととか悲しいこととか共有したいし俺のことも知ってほしいワケ」
言われていることの意味がわからず唖然としている俺のことを想定していたのだろう。一つ息をつくと彼は背を向けそっと告げた。
「それじゃ、また明日来るから」
それからは本当に毎日毎日凝りもせずに来る遥にいつしか根負けし、少しだけ登校するようになっていった。
そうして、親友として付き合い続けてきた俺は、高校入学と同時に遥と恋人になったのだ。
「あのさぁ、お前まさか俺のシフト覚えてるわけじゃねぇだろうな?」
「覚えてるよ」
即答だ。
「それよりさ、聞いた?あの話」
どの話だよ。
「ほら、すぐ近くの土手に樹齢100年って言われてる桜の木があるだろ?あそこの根元に、かの有名な大将軍のお宝が〜」
「あーもういい。行けばいいんだろ。言っとくけど俺は手伝わないからな」
金持ちで優等生で文武両道。おまけに顔までいい遥の欠点と言うべきだろうか。この手の都市伝説に目がないのだ。
これについては、情報に目がないだけならまだいい。だが遥の場合、実際にそこへ赴き実際に目で見てみないと納得がいかない。しかもそれが叶うだけの財力と高校生故の有り余る自由な時間によって叶ってしまうのだからたちが悪いのだ。
毎度毎度付き合わされ、いい加減イヤだとは思ってもその情報が本当なのか調べることに自分までワクワクしてしまっている。何より一番楽しそうにしている遥を見ているのが好きだった。
「っと!すっげぇ!ほら見ろよ満開だぜ?」
「おーすげぇー」
感情のこもってない感動を告げる遥は桜など見ていない。大木の根元を掘ることで必死だった。
「あー。ちっくしょー。もう誰か掘ってやがる」
カバンの中に折りたたみのシャベルを入れてきたあたり、俺のバイトが終わる時間とここへ来る時間は彼のスケジュールに織り込み済みだったようだ。
「優馬も手伝えよ。これ明日までに掘れねぇって」
定期的な音を立て制服のまま土を掘る姿を眺めながら根元へ腰掛けるのと、言葉が降り注ぐのは同時だった。
「言っただろ。手伝わないって。俺明日早いから終わったら教えて。少し寝るー」
「あ!てめっ、ずるいぞ!!俺も寝」
なんか言ってる。が、文句を言い続けて満足したらしい。俺はこのまま寝かせてもらおう。明日は早朝のバイトと……
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強い風を感じて目を覚ました。
目の前に広がるのは純白の空間と、数えたくなくなるほどの時計たち。デジタル時計やハト時計。それから円形の時計。どれもこれも秒針以外真っ黒である。
そして、振り返ると先が見えないほど大きな砂時計があった。その中には眩しいほど白い砂が入り、絶えず落とし続けている。
「なんだ、これ…」
「あと10回」
甲高い声に振り返ると小さな子供が立っていた。身長からして小学生だろうか。
マントのようなものを着用し、そのフードで顔を見ることは叶わない。
「あと10回って、なんのことだ?」
ここはどこで、君は誰で、この世界は何なのか。幾つもの疑問の中で最もどうでもいい質問をぶつけてしまった。そんな後悔と同時だった。
ドンッという鈍い音と背中の痛みから、どうやら自分は背中をぶつけたようだと察した。
「っ!!!ったく、何なんだよ」
振り返りぶつけたものを認識するまでどれくらい掛かっただろうか。それは木の幹であった。
「…桜…の…木?……なんだ、夢だったのか」
にしてはヤケに静かである。
「あ!!アイツ!遥!!帰りやがったな!?クソッ!!文句言ってやる」
どこを見回してもあのバカがいないのだ。シャベルもなければ姿もない。謎の夢よりも置いていかれた怒りのほうが強く、頭の中で延々文句を垂れ流していた。
だからだろう。
異常に気づくまでが遅かった。