第1話
playerと申します。
今回初めてこのサイトを利用させていただきました。
まだまだ下手な故温かい目で見てくだされば幸いです
5:00.37
電光掲示板に映った結果は空しくも俺の水泳人生の終止符を打った。
水から上がりプール、観客席に一礼をし俺は更衣室へと戻っていった。前はよく見えていない。
「……い、…おい、聞こえとるか、こらそこの君!」
勢いよく飛び起きた。さっきまでいた辰巳国際水泳場は夢幻と消え去り、今あるのはざわつきにやつく周りの生徒。外で揺れる桜の木々、春のにおい…。そして眉間にしわを寄せ怒る担任。
「すっ…すみません!!」
最悪だ。昨日入学の緊張を解くために読んでいた雑誌が仇となった…、なんて死んでも口外できやしない。
「えーっと、なんだ君の名前は…清澄か。高校生一日目、教室で寝るなんてなあ」
教室中がにやにやと笑いだす、本当に恥ずかしい。俺の高校デビューは華々しく…とはいかなかった
「清澄に限らずみんなも高校生になったんだ、自覚を持つようになー、ってそうだいかんいかん」
思い出したように自分のファイルを取り出して予定表らしきものを見た。
「皆、部活動登録が明後日までだからな。忘れないようにな、じゃあ今日はもう下校だ」
軽快なチャイムが鳴り響き担任は教室を後にした。それに釣られるように生徒は三月まで同じ中学校に通っていたであろう友人らと次々に帰る支度を始めていった。
入学一発目に寝るという失態を犯した清澄の中学の友人は皆近くの東龍高校や南雀高校に入学した。ここ西虎高校に入学した同級生はわずかしかいない。すなわち、声をかけてくるような生徒などいなかったのである。
「…そんな悲しい語りを自分の頭の中でやるなよな…。もう一人で帰るか」
重い足取りを廊下に向けた時だった。
「ねねね!君ってもしかして中学の時水泳部だった!?」
自分よりも若干背の高い少し眠そうな男子が興奮気味に話しかけてきた。
「え、あぁ、確かにやってたけど…」
誰だこいつは、と瞬時に思ってしまった。やってはいたがそんなに食い気味に来るか?
「そう!?やっぱりそうだよね!?いやあ、なんかがたいもいいし肩幅もそれなりに大きいし、なんか…こうthe・水泳選手!って感じ!」
勢いがもうすごい。背の高さも相まって圧倒されかけていた俺は少し引いてしまった。
「あはは…ありがとう…。君は、名前はなんていうの」
「あっ、ごめんね。不躾だったね。失敬失敬。僕は常賀。ジョーってよく言われるんだ」
「ジョー君ね、よろしく。水泳やってたこと一発でわかるなんて、すごく詳しいんだな」
実際そうである。雰囲気などではわからないもので中学の時も他校の友人からは間違えられることもしばしばあった。それも相まって彼の雰囲気は自分にとって異様なものだった。
「僕も中学までやってたんだ!水泳。西虎高校に入ったのも続けるのが理由さ。清澄君も続けるんだよね水泳―。
「俺はもう、やらない」
常賀が言い切る前に無意識に口から飛び出した。否定、続けることに対する諦めの意思。
思い出すあの時の光景、地獄のような日々、それでも水泳から否定されたこの気持ち。あの時俺は、
「負けてたんだ。逃げてきた」
口を開けたまま茫然とする常賀。
神様とやらがいるのなら、あなたは少しばかり残酷だ。俺の中の時間はあの辰巳の場で止まっている。動かす気はない。水泳を続ける意思はなかった、そう自分に言い聞かせていたのだ。