隔離
「行きたくない」
ママにそう言った。
「なにばかなこと言ってるの行かなきゃ駄目よ」
ママは私にそう言った。
「やだやだ、行きたくない」
特にこれと言って行きたくない理由があったわけじゃない。ただ、行きたくない。そんな気分だった。
「もう、いい加減にしなさい。いつもいつも我が儘ばかり言って」
「今日も休む!」
私がそう言うとママは手を振り上げて私の頬に向けてそれを振り下ろした。
「痛い」
「あなたが我が儘ばかり言うからよ。ほら支度しなさい」
「ううう」
私はしぶしぶ学校に行った。
私はふと昨日TVでやっていたことを思い出した。
『虐待、子が学校に相談。
後に父親が問い合わせを行い、内容を知った父親が激怒し子が殺されるという事件が起きました』
今日の朝の出来事はぎゃくたいだ!
すごい痛かったからママを少し懲らしめてやる。
学校に相談しても駄目だから警察に相談しよう。
そしたらおまわりさんがママを叱ってくれるかも。
いいこと思いついちゃったなぁ。
帰りに交番に寄ろうっと。
「おまわりさん、ママが私を打つの」
学校帰りに交番に寄り、私は開口一番にそう言った。
「ちょっと詳しく聴かせてもらえるかな?」
おまわりさんが真剣にそう言った。
ちょっと怖いなと思ったけど、今朝のことを話した。
すると、おまわりさんは
「君のママは日頃からそうやって君を打つの?」
「う、うん、そうだよ」
この前ブロッコリーが嫌いでこっそり捨てようとした時もママに打たれた。
食べ物を粗末にするなと。
「ちょっと待っててね」
おまわりさんは私にそう言うと交番の奥に入って行った。
しばらくすると奥から二人のおまわりさんがでてきた。
「君の家はどこかな」
「んーと、あっち」
私はそう言うとおまわりさんを先導して家まで案内した。
家に着くとママが出てきた。
「えっちょっとなんですか!?」
ママが驚いたようにおまわりさんを見た。
「ちょっと娘さんの件でお話を伺いたくて、今朝、娘さんを打ったと言うのは本当でしょうか?」
「あっはい、確かに打ちました。でもあれは娘が言うことを聞かないから」
「はい、14時54分被疑者確保」
おまわりさんはそう言うとママに手錠をかけた。
「ちょちょっと待ってください!! 違うんです」
「詳しい話は署で聴きますんで」
私はその風景をただ見ていることしか出来なかった。
想像していた物とは違い。ただただ怖かった。
次にママと会った時、ママはガラスの向こう側に居た。
「みか、ごめんね。私あなたがそんな辛い思いをしているなんて気がつかなくて。
言うことを聞かないから打つなんておかしかったよね。ごめんね」
ママは泣きながらそう言った。
違う、私はこんな物を見たかったわけじゃない。
「こんな駄目なママでごめんね、みか。
みかの元にもう戻れないけど、ママちゃんと償うから」
「もう、もどれない?」
「そうだよ。みかはおばあちゃんと暮らすんだよおばあちゃんは打たないから安心してね」
嘘だ、なんで、なんで、ママにはもう会えないの? ママのハンバーグをもう食べれないの? 嫌だ嫌だ
私はそれから泣いて、泣いて、必死におまわりさんに話した。
おまわりさんは事情を聞き、血相を変えてどこかに行った。
それからしばらくしてママが戻ってきた。
「みか!」
「ママー」
私達は泣きながら抱き合った。ずーっと。
「行きたくないー」
あれから何ヵ月か経ち私はまた学校に行きたくないとだだをこねていた。
「もうーまたこの子ったら」
「今日は休むー」
「しんどいの?」
「うん!」
「じゃあ、今晩ハンバーグにしようと思ってたけどやめたほうがいいわね」
えっハンバーグが食べれなくなっちゃう。
「やっぱり、大丈夫だった」
「しんどいのは大丈夫なの?」
「うん、もう治った!」
「そう、なら早く行かないとね」
「うん、行ってきまーす」
いつもと変わらない日常。ただ、そこに暴力は無くなった。
最近のニュースを見てこんなことがあればいいなと思い書きました。
虐待のニュースは暗いものばかりなのでこんな明るい虐待のニュースがあってもいいんじゃないかなと個人的に思っています。
誤字、脱字等、ございましたら修正します。