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FEEL  作者: 雪見
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第一章【殺人依存】・二話:朝河岡猟奇殺人事件

 住宅に囲まれている帰り道を歩く。道路のアスファルトは夕焼けに照らされ、鮮やかな橙色を放っていた。

 いつもは俺と冥花の二人だけで歩く帰り道。なのだが、この日は転校生の比島という三人目の人物がいた。

 楽しそうに話す二人。それを眺めながら俺は深くため息をつく。何故、こんな事になったのだろうか、と。

 理由は簡単だ。比島幸祐という人物が朝河岡と言う土地に引っ越してきたばかりで、迷うかもしれないからだ。それは転校生らしいものだが、彼の本心の半分だろう。もう半分は自己防衛意識からきたものだと推測する。

 物騒な話だが、朝河岡市内で連続猟奇殺人事件が続いている。これまでで三件だ。犯行時刻はいずれも深夜。凶器はナイフで、被害者の首本を一撃。それで人間という生物はいとも簡単に事切れる。そしてその後死体を解体し、それぞれの部品で様々な模様を描くという極めて猟奇的な内容だ。中には部品を通り越して、肉片になったものもあったらしい。

 犯人は捕まっておらず未だに捜査は続いている。

 俺は自分で言うのもなんだがガタイがいい。中学の頃はよく高校生と間違えられ、映画館では生徒手帳が必要だった。そして中学の部活で柔道。小学六年生までした空手。そこらの不良が十人程、束になってかかってきても負ける気はしない。

 そんな俺といる事が防衛手段と思ったのだろう、この男は。

 俺は比島という男を凝視する。今のこいつに朝のような神々しさは無い。そればかりか軟弱ささえ感じる。目つきは凛々しいという形容からはかけ離れ、にこっと緩んだ優しい目つき。発する言葉は全てが丁寧語で、異質という雰囲気は漂ってこない。カメレオンのように擬態をした感じも無い。俺はこいつという人物を見誤ったか?

 そんなことを考えている内に、帰り道は分岐点に達した。ここを境に冥花は別の道を歩んでいく。

 まるで友達の家で遊んでいるときに、親が迎えに来た子供のような表情をする冥花。ピンッと空高く伸ばした手をぶんぶん振り回しながらバイバイ、と叫んでくる。その声量は明らかに近所迷惑レベルに達しており、俺はその場から早急に立ち去るという方法でそれを解決した。

 そして冥花という名の通信手段を失った俺たちは言葉を交わさなかった。もともと俺と比島は会話をしておらず、言葉を交わしたのは挨拶ぐらいだった。 二人の静けさは闇夜の静寂、という比喩でも足りないだろう。

 そんな考えを巡らせていると、比島がこちらに振り向く。


「僕の家、こっちなんです」

「ああ、そうなのか」


 比島が自分の家があるといった方向は、マンションが立ち並んでいた。俺はそれで比島はマンションに住んでいると仮定してみる。それなら俗に言う転勤族という奴か。だがそれでは金をかけて私立に入学する意味が無い。

 まぁ一身上の都合なのだから探りを入れるのは無粋だ。


「今日は付き合ってくれてありがとう。富原くんって見かけとは違ってとても優しいんですね」


 俺はそれに微笑を返しながらも、心の中はまったく別のことを考えていた。

 優しい……か。俺はみかけと同じで残酷な人間だ。ついそう漏らしてしまいそうになって、あわてて自分の口に力を込めて、閉じた。

「じゃあ、さようなら」

 顔に笑顔を浮かべながら立ち去っていく比島。そんな笑顔を見て、あの時の感覚が甦る。 

――俺は、比島幸祐という人物を見誤ってはいなかった。

 浮かべた笑みは、殺人鬼が被った仮面のような笑み。いや、例えではなく事実だ。こいつは、他人の死に触れた事がある。血の温もりをその指先で感じたことがある。俺の直感がそう語っていた。

 ――こいつは俺の見当どおり、絶対的異質者だ。

 俺はどうにか平静を装いつつ、比島に手を振った。奴は俺から目線をはずし、歩みだす。俺はただ見つめた。そいつが俺の視界から消え去るまで。まるで死に魅入った自殺志願者のように。


◇ ◇ ◇


 比島が視界から消えると、俺は笑いを堪えられなかった。狂ったように、不気味な笑い声を轟かせる。

 それはあいつにではなく、自分にだった。あいつを殺人鬼と称した自分に、殺人鬼は自分じゃないかと。

 三人も殺したんだ。殺人鬼と呼ばれても十分だろう。

 俺は止まらない哄笑を、手で口を押さえ込むという方法で止める。静かに口元を歪ましながら、帰り道、歩を進めていく。

 奴は少し間違えている。この事件からの防衛手段に俺を選んだ事を。明日の学校は騒がしいだろう。話題は決まっている。四人目の、被害者のことだ。


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